日々まい進し続ける歌舞伎俳優・片岡愛之助さんが登場。公演中の仕事めしから、奥様とのプライベートめしまで。メディア初露出の「笄町 濵矢」でリアルな食生活を包み隠さず話してくださいました。
食のコンシェルジュに身を委ねる
編集部、以下編 どうやってお店選びをしていますか?
片岡愛之助さん、以下愛 最近は自宅で食事することが増えました。外食をするときは、妻が家ではなかなか作れない料理を選ぶことが多いですね。好き嫌いは一切ないので、さまざまなジャンルのお店に行きます。
選ぶときのこつは、周りのグルメな方たちに「美味しくてリーズナブル」なお薦めのお店を紹介してもらうこと。彼らは、私のその時々の要望を聞いた上でいつもベストな回答をくれる。持つべきものはグルメな友達ですね(笑)。
編 食通の友達が食のコンシェルジュになってくれるんですね! お酒も召し上がりますか?
愛 絶対必要とまでは言いませんが、好きです。飲む種類はお料理に合わせて選びます。家で飲んでいて酔っ払うとすぐに寝てしまうんですよね(笑)。家にいる安心感からかもしれません。
もちろん20代の頃は、先輩に飲みに連れて行っていただき、かなり酔っ払ってしまうこともありました。負けず嫌いですからガンガン飲んでしまって。気が付いたら先輩に放置されて、お店の外の非常階段で座って寝ていたこともありました(笑)。
大先輩がご近所さん!?
編 思い出のひと皿を教えてください。
愛 焼き鳥です。20代前半の頃は、大阪が自宅で東京ではホテル住まいだったのですが、その同じホテルに大先輩の中村富十郎のおじさまがお住まいで……。さらに、まさかの階数も一緒で隣の隣の部屋だったんですよね。声が通る方なので、廊下でホテルマンの方に話しかけているのが聞こえてきたりして(笑)。
編 室内にいても、背筋がピンッて伸びそうな……。
愛 そうですね。ですが、それもあって富十郎のおじさまが行きつけの銀座の焼き鳥屋によく連れて行ってくださいました。いろいろなお芝居のお話をしてくださり、勇気づけてくださったんです。「難しい世界だけど頑張って真面目にお稽古していれば、絶対に誰かが見てくれているよ」と言ってくださったことが今でも心に残っています。
誰かがみてくれていると思うと、やはりなんだかんだ言っても頑張れますよね。どこで、どの舞台で、なんの演目のどんな仕草をどなた様に見られているのか分からないので、一期一会というのをとても大切にしています。
歌舞伎めしは時間厳守
愛 公演期間中の楽屋ではほとんど出前を取ります。
編 出前選びの一番のポイントは?
愛 “指定した時間に確実に持ってきてくれること”。役者はごはんを食べられる時間が限られていますから、そのピンポイントの時間を逃してしまったら一日中空腹で芝居をしなければならない。実際何度か経験はありますよ。
編 お腹が空いていたら集中できなそう……。なかなかつらいですね。
愛 そうなんです。ですから役者としての歌舞伎めしは、味を楽しむというよりは、動けるためのエネルギーを取るという意味合いが強いかもしれません。
肉食男子を卒業しました。
編 日々のお食事って気を使っていますか?
愛 実はいまから15年ほど前は、お肉が大好きで“週5日”焼肉屋さんへ行っていました。身体にすごく偏っていますよね。おそらく当時の私の血はドロドロだったでしょう(笑)。毎回同じ人を誘うのは申し訳ないので、毎日違う人と行くか、ひとり焼肉も結構行っていました。
編 いまはドロドロから脱出されました?
愛 妻と結婚してからは最初にサラダを3人前食べてから焼肉を食べるようになって。とても健康的だと思います。年齢を重ねるごとに段々味覚も変わってきて、最近はお魚やお野菜も大好きですし、バランスよく食事を楽しめるようになりました。
編 一緒に食事すれば、身も心も健康になれそう! 最近食べた料理で印象的だったのは?
愛 妻がお薦めする、体調に合わせてスープが選べる薬膳料理のお店に行ってきたときのひと品ですね。血圧を下げるスープを頼んだのですが、スープが運ばれてくるなり妻が「虫が入ってるスープなんだよ! でもそれ身体に良いよ!」とその時になって言うんです(笑)。とても驚きました。
編 注文時には言わないんですね。
愛 よくよく見るとその虫は冬虫夏草。妻はそれを知っていて絶対頼まないのに私には黙っていたんです(笑)。結局お味自体はとても美味しくてヘルシーだったので大満足でした。
編 おちゃめな方ですね。そんな奥さまの得意料理って?
愛 特に決まってはいないかもしれないです。外食以外の時は自宅で、妻が冷蔵庫にある食材でパパッと作ってくれます。朝ごはんはスムージーやサラダなどバリエーションが豊富ですし、体のことを考えてオーガニック食材を使った健康的な食事を作ってくれます。
“イチゴ”一会こそすべて
編 子どもの頃好きだった食べ物は?
愛 子どもの頃から大好きな食べ物は“イチゴ”です。私のイチゴ好きが広まって、たくさんの方が楽屋に送ってきてくださったおかげで冷蔵庫はいつもイチゴで一杯。いいかげん飽きるかと思ったのですが、それでも嫌いになりません(笑)。
編 まさに“一期一会”だけに!? 先ほど座右の銘も“イチゴ”関連でしたよね(笑)。「この品種のイチゴが一番!」とかこだわりってあるんですか?
愛 ……(爆笑)。それは気づかなかったです。あ、でもその質問は答えられないですね。順位や優劣を付けるなんてイチゴが可哀想じゃないですか。その季節や土地で出合って食べるイチゴが一番美味しい。
編 まさにイチゴが好きだから一期一会が座右の銘に?
愛 いやいや(笑)。歌舞伎の舞台は、まさにお客様とのキャッチボール、一期一会なんです。役者は日々同じことをしているように見えるかもしれませんが、その日によって息遣いや間が違ったり、新しいアドリブが入ったり、毎回異なる新鮮な空間になります。
編 お客様との一期一会。そう考えると観劇中もより一層貴重な時間になる気がします。
愛 そうなんです。だからこそ、その瞬間を大切にしたい。「もう一回見たい」とお客様に思っていただける最高の舞台にしたい。お客様がいるからこその歌舞伎なので、多くのファンの方に喜び満足していただけるよう、一瞬一瞬に命を懸けて舞台に立っています。
編 ある食材でパパッと作る。それが本当の料理上手ですよね。
前編では片岡愛之助さんの“食”にクローズアップしてお届けしました。
後編(歌舞伎めし 後編:片岡愛之助~そうだ、歌舞伎を観に行こう~)では、歌舞伎のイロハや楽しみ方のこつについて語っていただきました。必見です!