ラブラブ夫婦の食事情
石原さとみさんが主演したドラマ『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』の原作者である宮木あや子先生のご著書に登場する女性たちは、強くしなやかに、時にたくましく生きていて、読者の心をわしづかみにします。
なかでも、一部のアラサー女子の実態をえぐり出した『野良女』は、該当年齢の女性は刺さる言葉が多かったのではないでしょうか。ご覧になっていない方のために、本文から抜粋してご紹介します。
「じゃあこの先もっと好きな人ができると思う? この先自分のこと好きになってくれる人がいると思う? 私たち来年三十なんだよ? 若いうちはチヤホヤしてもらえたけど、中途半端な美人の価値なんて若いうちだけなんだからね、これから白髪だって生えてくるし、肌だって荒れてくるし、ううううううう、うわーん」
たしかに私たちは贅沢だ。贅沢を許される環境で女として生きてきた。思えば既に五年前くらいには暴落が始まっていたのだろう。本当の美人は三十から、とか、若さじゃなくてテクニック、みたいな煽り文句をよく女性誌で見るけれど、騙されてはいけない。あれは出版社の考えたまやかしだ。 『野良女』より一部抜粋
世間の女性が持つ平衡感覚をご自身も身に付けていらっしゃるからこその表現で、「男性関係のプライベートも充実しているのでは……。」と思いきや、実は宮木先生はバツイチ。前の旦那さまとは22歳から23歳、わずか1年余りで結婚生活に終止符を打ったとのことです。
その、元旦那さまとのレストランデートのエピソードに驚きました……!
宮木・以下、宮 確か箱根の『山のホテル』か『プリンスホテル』、どちらかだったと思います。元夫が突然、魚料理の途中で席を立ち、どこかに行ってしまったんです。
フレンチレストランに23歳の若妻がひとり残されるって……いまだに人生で一番、恥ずかしかった出来事ですね。でも、せっかくのお料理を残すのがもったいなくて、ふたり分のお肉料理とパンとデザートを完食しましたけど(笑)。
その後、2カ月ほど一緒に生活を続けるものの、宮木先生ご自身が「もう無理。」と判断し実家へ戻り離婚。いまの旦那さまとは32歳のときに再婚されたそうです。
「旦那さまとは仲が良いですか。」と問うと即答。
宮 超仲良しですよ。食の好みは合わないんですけど、私の作る料理はポトフのような簡単なメニューでもすべて、「美味しい!」と言って食べてくれます。
結婚前、夫は料理をしていたらしいんですけど、そこそこ料理ができる私のせいで「任せきりにしているうちに料理の腕が落ちた。」らしいです。
宮木先生はお酒が体質に合わず、飲めるのは日本酒が少量。それでも以前は旦那さまと晩酌を交わす夜もあったそうですが、旦那さまは1年前から絶賛禁酒中とのこと。
宮 よりによって私がひとりで海外に行っている期間に夫が友達と飲みに行って、泥酔して階段から転がり落ちて顔面骨折して病院に運ばれたんですよ。私がかなり奮発してプレゼントしたお財布もスリに盗られてしまったのに、覚えていなかったんです。
夫がいなくなったら生きていけないから、「もうお酒はやめて。」と、家にあったワインの在庫を全部捨てさせました。「本当にやめてくれる? 反省してくれる?」と詰め寄る私がすごく怖かったらしくて(笑)、以降はちゃんとやめてくれています。
夫は最近、転職したから外で飲む機会もありますけど「外で飲むときは2杯まで」というルールを守ってくれています。
愛する人のために「2杯まで」と節制。周りが大酒を浴びようとも自分は2杯で我慢。自分より相手を心底、優先できる深~い愛情を持ち合っていないとなかなかできることではありません。
実は安ウマグルメ愛好家
旦那さま以外に、打ち合わせやお友達と外食する機会が多い宮木先生。最近のお気に入りのお店を聞くと、思わず「行かないと!」と同意してしまう安ウマな店舗名を続々と挙げてくれました。
宮 安くて居心地のいい感じのお店が好きです。
虎ノ門にある「CHIRIRI」の豚しゃぶは、平日はコースしかオーダーできないんですけど、土曜日は鍋のみを1人2,000円で食べられるんです。
出典:mayu☆★★さん
和風だしに、みじん切りにしたネギをたくさん入れて、お肉でネギを巻いて食べるタイプの豚しゃぶで、お鍋とお肉とお野菜が付いて2,000円。安いからしょっちゅう行ってます。
新宿の「ル・クープ・シュー」というビストロは、5,000円でフルコースが食べられるんです。しかも、追加料金ナシでヒレステーキがオーダーできる。普通、牛肉って追加料金が掛かるのに、うれしいサービスですよね。
出典:どじょううなぎさん
表参道にある「SMOKE BAR & GRILL」は穴場のカフェ。あの近辺でオシャレぶりたい人は「montoak」に行くから(笑)、「montoak」が満員で入れないときに行くと、入店できる確率が高いんです。店員さんの親しみやすい接客も、私にはツボですね。
油跳ねが怖いから家で揚げ物はしないんですけど、とんかつのヒレが大好物なのでとんかつ屋にも頻繁に行きます。
パンケーキも大好きです。定番の「bills」はパンケーキ以外のメニューも美味しいし、名古屋にある「Light Café スパイラルタワーズ店」のリコッタチーズパンケーキは、いままで食べたパンケーキの中でもトップを争う美味しさでした。
出典:りりCOさん
生湯葉を食べるなら、どこにでもあって便利な「梅の花」。豆乳がなみなみと注がれた四角い鍋で、最初は湯葉をすくいながら食べて、最後は豆腐で楽しむコースをオーダーします。
でも、私は永遠に湯葉を食べていたいのに、頃合いを見計らってにがりを入れて豆腐にされてしまうんです。いつも、「もっと湯葉を楽しんでいたいのに。」と名残惜しい気持ちでお店を後にします(笑)。
庶民に手が届く店名が出るわ出るわで、出たついでに幼少期の好物も聞いてみました。
宮 母が作ってくれるたらこスパゲティが好きでした。ミートソースも好きでしたけど、たらスパの方がテンションが上がったんですよね。
ほぐしたタラコと、バターとレモン汁と昆布茶であえたパスタに、刻みのりを掛けて食べるのが至福のひとときでした。
いまは、自分では作らないですけどね。タラコをほぐすのが面倒なので。
「市販のソースを使えば簡単に作れるじゃないですか。」と言うと、デキる妻の答えが。
宮 市販のソースは使ったことがないんです。ミートソースもイチから手作りしますし。
たらこスパゲティに関しては市販のソース「しか」使ったことがない私。宮木先生の言葉で反省しつつ、また糖質ゼロ麺に市販のソースを絡ませて食してしまうでしょう……。
(いまの夫と)結婚してなかったら死んじゃっていたかも!?
作家という職業に就く人=選ばれし者。そのひとりである宮木先生の、1日のスケジュールも気になり質問。
宮 朝寝て昼過ぎに起きるのが定番のサイクルです。朝ご飯を作ってから寝て、昼過ぎに起きて、気が向いた時に家事をします。
そこからは、小説を書く気になるまでパソコンの前にかじり付いていますね。IKEAで売ってる、青い包装紙の97円の板チョコを常備していて、板のままかじりながら展開を考えます。
あまりにも進まなかったら、お散歩がてら買い物に行く日もあります。
そうこうしているうちに仕事を終えた夫から「いまから帰る。」という電話かメールが来たらご飯を作り始めるんですけど、夫が帰宅する夜は私にとっての“朝”。夕食はボリュームがあるメニューを作ることが多いので、私はものすごく重い朝ご飯を食べることになるという食生活の繰り返しです(笑)。
でも、一般的なサイクルから外れた生活をしていると、どんどん寝る時間がずれていくんです。いまは最悪で、昼に寝て夜に起きています。
そろそろ1周するので、しばらくしたら夜、ちゃんと寝るようになるんでしょうね。
旦那さまと一緒に暮らしているとはいえ、作家は孤独な職業。スランプに陥ることもあるのでは……と話を振ると、「まさにいまがスランプなんです。」と言います。
宮 いま、何も書けなくて困っているんです。こういう時期って他人の創作物をなるべく入れたくないんですけど、いまはドラマを観ています。
日本のドラマは自分の本がドラマ化されたことによってすべてのドラマがライバルのように感じてしまうから、アメリカのドラマを観ています。『ゲーム・オブ・スローンズ』にどはまりして生活時間帯が最近、ずれてしまったんですよね。
ヤバイです、あのドラマ。クマが3倍ぐらいに濃くなりそう……!
と、周囲を和ませつつ取材に応じてくださる宮木先生。気さくな先生に甘えて、ブログに「結婚していなかったら死んじゃっていたかも」とお書きになられた真意を聞いてみると、そこには作家ならではの煩悶が。
宮 デビュー作を担当してくださった、新潮社さんの編集者にいわれたんです。「結婚とかに逃げて幸せにならないでくださいね。女流作家が幸せになったらおしまいですから。」と。
デビュー作が悲恋なテイストでしたし、私の醸し出す雰囲気も本と似ていたからかもしれないんですけど、「私、なんて恐ろしい世界に足を踏み入れてしまったんだろう……!」と、驚愕しました。
その言葉を信じて結婚せずに作家を続けていたら、精神が崩壊していたでしょうね。そして、自分で自分をあやめていたかもしれません。
ただ、結婚していなければいまよりもっと売れて作家としてもう少しいいポジションにいけていたかもしれないんですけど、いまの方が多分楽しいから、選択した道は正しかったんでしょうね。
作家は“命を削って”作品を生み出すといわれています。その、命を削った一作とも呼べる『野良女』が舞台化。そうです、宮木先生が稽古を見学する当日に取材をさせていただいたのです。
恋だ! 仕事だ! 婚活だ!と迷走するアラサー女子たちの本音を赤裸々に描いた本作は、下ネタが頻出。ドラマ化の話があったものの「ピー」という放送禁止音の嵐になるため見送られたそうです。
ですが、下ネタといってもそこは作家の巧みな技術が駆使されていて、“日茎平均”という単語にはクスリと笑ってしまった人もいるのでは。
宮 あの言葉は“脳から垂れた”という感じでした。ああいった表現は大抵、脳から垂れてくるんです。もっときちんと組み立てている小説もあるんですけど、『野良女』に関しては垂れっぱなしでした。
脚本は本より多少マイルドになってはいますけど、見学して申し訳ないな、という気持ちになります。だって、あんなことをするんですよ(と、宮木先生が見つめる先にはベッドに仰向け状態の男性キャストに、主演の佐津川愛美さんがまたがる姿が)。
キャリアのある女優さんたちが下ネタを言う姿なんて、ファンの皆さんは見たくないと思うので、「ゴメンナサイ」って思います。
執筆当時はそれほど小説家としての経験値が高くなかったから、自分の体験が散りばめてあるんです。ですから、アラサー女子すべてが登場人物と同じなわけではない。世間で一部分のアラサーたちが本音をさらけ出しているストーリーと捉えていただき、悩んでる女の子に観てほしい。
私が一番悩んだ時期は25~26歳でしたけど、25~30歳にかけてってたぶん、女子は仕事面でも恋愛面でも、人生で一番焦る時期だと思うんです。悩んでいる子たちが観てくれたら、「この人たちよりはマシだ!」と、少しは救いになるのではないかと思っています。
生涯最期に食べたい一品は夫と共に
ご自身の作品がドラマ&舞台化され、売れっ子の宮木先生に質問です。死ぬまで作家でいたいですか?
宮 いられるものならいたいですけど、作家って読者が付いてきてくださるかどうかなので、読者の皆さんが付いてきてくださるなら作家で居続けたいです。ただ、目下の目標は15年作家でいること。
いま12年目なのであと3年頑張ればひとつの区切りになるかな、とは考えています。
では、命ある限り作家生活を続けた後、生涯最期に食べる一品は。
宮 何歳で死ぬかによりますよね。「明日になった瞬間に死にます、最期に食べたい物を言いなさい。」と聞かれたら、「勝烈庵」の勝烈定食を夫と一緒に食べたいです。
出典:はまっこはまなおさん
でも、この答えじゃつまらないですよね(笑)。ちょっと遠出して、富士屋ホテルのカツカレーにしましょうか。
出典:ウツボちゃんさん
出典:ウツボちゃんさん
宮木先生亡き後は、これまた仲良し夫婦ならではの未来が待ち受けているのです。
宮 夫婦で話し合った結果、私が先に死ぬことは決まっているんです。夫が、私に悲しい思いをさせるのが嫌だと言うので。
私が死んだ後の、夫の死に方も決まっています。夫は「僕は四十九日が終わるまでは生きる。葬儀やもろもろの手続きを終えたら、散歩中にバナナの皮でツルッと滑って死んで、君を追い掛ける。」みたいですよ。
夫婦だからこその絆の深さに、心が温まりました。
宮木あや子先生原作の舞台『野良女』は、4月5日(水)~9日(日)まで新宿シアターサンモールにて開催。