フレンチエリアとは言い難い赤羽に、7月27日に期待の新星が登場する。その名もodorat(オドラ)。フランス語で嗅覚を意味する言葉通り、ハーブやスパイス、また素材そのものの香りを大切にしたフランス料理を供する。
オーナーシェフの永瀬友晴さんは、カジュアルな値段でフランス料理を楽しめる店の先駆けとも言うべき「パリの朝市」(この名を聞いてぴんと来る人は、古くからのフレンチ好きに違いない)で10年ほど修業し、その後神楽坂のレストラン「アロム」でシェフを務めた。聞けば、いつかは独立して、小さいながらも自分の城を持ちたいとずっと思っていたそうだ。「赤羽で生まれ育ちました。気軽に食べられるおいしいフレンチがあまりないエリアです。だからこそ、地域を活性化させるためにも、店を持つなら赤羽で、と、決めていました」と永瀬シェフは言う。
店内はカウンター8席ながら、ゆったりとした気持ちのいい造りが魅力だ。実は、料理とサービスはシェフによるワンオペ。一から十まで一人の人間が仕上げた料理を食べられるのが、ワンオペの醍醐味。とはいえ切り盛りするほうは大変だ。「最初はゆるゆると6席くらいから初めていきます」とシェフはゆったりと構えている。
永瀬シェフの料理をアミューズから主菜まで拝見し、また説明を聞くにつけ、素材と生産者にこだわっていることがよくわかる。ともすると、野菜が少なくなりがちな店が多いなか、野菜たっぷりの、ヘルシーなスタイルというところもうれしい。そしてその野菜がなんと、店から車で10分ほどのハスネファームから主に仕入れているそうだ。都会の真ん中から10分とはなんとも恵まれているが、実は、お子さんが通う幼稚園の収穫体験で知ったというのだから微笑ましい。自然に近い状態で丁寧に手をかけて育てられた野菜のおいしさは一口食べただけで笑顔になるようだ。
食材の組み合わせに注目
鮎のタルトとスイカのガスパチョ
では、夏の時期のコースを、一品ずつ詳しく見ていこう。まずアミューズは鮎のタルトとスイカのガスパチョ。
鮎を丸のままコンフィにし、骨、内臓、身ごとペーストにして、焼き上げたばかりのタルトにのせたもの。
スイカは、鮎と同質の香りを持つが、鮎に直接合わせるのは本意ではないと、あえて、ガスパチョにして合わせた。両者の取り合わせがなんとも清々しい。
石鯛 バレンシアオレンジ
前菜は石鯛。高知の与力水産のもので、神経締めしたあとに4日ねかせて、旨みを充分をのせている。塩とライムバジルでマリネし、オレンジの香りをきかせたキャロットラペをたっぷり添えた。
にんじんはもちろん前出のハスネファーム産だ。ソースにはグリーンピースの甘いピューレを。
夏鹿 天然キノコ
メインディッシュはあっさりとした、夏鹿。対馬でハンターが撃ったものを使用している。シンプルにローストし、フォンドヴォー、ジュ、赤ワインで仕上げたソースを添えている。しっかりとフランス料理のテクニックを受け継いだ正統派だ。それでいて軽やかなのが、永瀬シェフのこだわりでもあり、魅力でもある。
付け合わせは夏きのこ。パリの朝市時代の同僚が、長野の大鹿村でハンターをしながら、旅舍右馬允を営んでいる。その友人に送ってもらったものだ。ショウインジタケとタマゴタケ、香り高く、つるりとぬめりがあり、鹿との取り合わせが抜群だ。一緒に送ってもらった山菜のウドもソテーして添えている。この一皿で、夏山の情景が目に浮かぶようだ。
さらに、メインディッシュには、農園でとれた夏野菜たちを、グリルしたりソテーしたり、ボイルしたりと、個々の特性を生かして調理したものを盛り合わせ、別皿で供している。
白桃のパフェ
デザートにどんなものを出すのか聞いてみると、年間を通してパフェなのだそう。今の時期は白桃。自家製のジェラートやクリームと組み合わせる。季節ごとに旬のフルーツを使いアレンジを変えていくと、これまた楽しみだ。
コースを通して楽しめるさまざまな香り、そして味わい。爽やかなシェフの印象も相まって、なんとも応援したくなる一軒だ。何しろ、夜のコースで6,500円だというのだから、うれしい。ワインもグラス800円~と良心的だ。そしてもう一つのお楽しみが、ランチタイムの本格カレー。スパイスにはまり、押上の名店「スパイスカフェ」でも、一時、修業したほど。そんなスパイスを駆使したランチカレーが1,300円。ぜひ、試してみたい。
赤羽の住民に愛され、ちょっと下町まで足をのばしてみようかというリピーターも増えるに違いない。ぜひ、予約がとりにくくなる前に、足を運んでみたい。