予約困難、人気絶頂の「鳥田中」が突然の休業宣言。体制を整え、5月30日に店名を「酒亭(しゅてい)田中」に変えリニューアルオープン! 絶品の焼鳥は、あの〆ごはんは健在? いったい何が変わったのか調査してきました。
鐘ケ淵の名店が生まれかわった!
月に1度の予約受付は10時の時報とともに電話が鳴りっぱなし。予約が取れた人から話を聞くと「予約受付中の2時間は電話をかけ続けます。200回は当たり前、多い時は500〜600回くらいかけている」と。やっと繋がったとしても希望日に予約が取れるかどうかは運次第。焼鳥マニアでなくても一度は訪れてみたいと名高い「鳥田中」が昨年12月末日をもって店内営業を休み、テイクアウトと「白湯鶏なべセット」の配送のみとなってしまったのです。それから5カ月、「酒亭田中」と名前を新たに生まれかわりました。
新装開店ではありますが店内の様子はそのまま。馴染みの客はホッとしたことでしょう。では何が変わったのかというと一番はメニューです。今まではおまかせコース1本でしたが、1品からオーダーできるアラカルトになりました。しかもつまみは330〜770円、焼鳥は380円〜とお手頃価格。
「鳥田中」は食べログでは常に4.0以上で「The Tabelog Award 2023 Bronze」の受賞店、「食べログ 焼鳥 百名店」に名を連ねていたのだから味は保証済み。それに田中さんは料理人としての第一歩がふぐ専門料理店。ふぐ調理師免許を取得したのちに名店中の名店と評された「京味」に7年勤め、大手鳥料理チェーン店を経て独立という経歴の持ち主。田中さん曰く「実は焼鳥より日本料理の方が得意」なのだそう。
つまみは「京味」出身の兄の日本料理
こちらは3品出る「お通し」のひとつ。「車海老真丈」はふんわりとやわらかく、「とうもろこし」は薄衣にして粒の歯応えを楽しめ、「ししとう」は少し厚めの衣でぷっくりと弾けるようにと、食材によって揚げ方を変えています。それにしてもこれがお通しとは! レベルの高さに驚きます。
田中さんの料理の真髄は“素材の持ち味を大切にする”こと。例えばこの「枝豆の醤油漬け」、目の前に置かれた枝豆の美しさを見れば口にせずともおいしいとわかります。茹でるという誰でもできる一工程ですら手を抜かず茹で時間や塩分濃度にも気を配る。だからこそ素材の味が活きるのです。
水茄子もよく見ると表面に細かく包丁を入れています。こうすることで味が入りやすくなるだけでなく、口あたりもなめらかになり見た目の美しさもおいしさも倍増します。オリジナルのリンゴドレッシングの味わいは爽やかで、まさに暑い時期に食べたくなるひと皿です。
ひと口食べた瞬間、そのテクスチャーに度肝を抜かれた「自家製豆腐」。木綿でも絹でもないリコッタチーズのような食感は濃い豆乳を使っているから。時間をおいても水が出ないよう、自然に脱水させています。また、この絶品の豆腐をグレードアップしているのが3種の葱です。0.2mm幅に細かく刻んだ葱は美しく繊細。だから豆腐の味を損なわずに香りと食感だけをプラスする“薬味”という役割をまっとうさせることができる。こんな田中さんの“丁寧な仕事”が名物料理を誕生させるのです。
見て学び、毎日の実践で究めた弟の焼鳥
一方、焼きは弟の栄司さんが担当します。「鳥田中」のオープン前から10軒以上の店で勉強し、日々の実践の中で自身の焼き方を追求してきました。突出しているのは“美しい”こと。身がジューシーだとか、皮がパリッパリだとか、おいしく焼く人はたくさんいますが、見栄えも良く焼ける人は、数多くはいません。栄司さんの焼鳥は惣一郎さんの作るつまみ同様、その美しさに惚れ惚れします。
串のメニューはおまかせの「5本セット(鶏4本 野菜1本)2,000円」「8本セット(鶏6本 野菜2本)3,000円」の他に鶏は1本380円〜、野菜などは1本360円〜となっています。鶏は三重県産「熊野地鶏」を中心に、部位によって鹿児島県産「黒さつま鶏」と京都府産「京赤地どり」を使っているそう。
こちらは塩味の串4本です。形といい、焦げ具合といい、何とフォトジェニックなのでしょう。炭の香りをまといつつ、ももは噛めば肉汁がジュワッと溢れ、せせりはしっかりとした弾力を感じ、胸はしっとりと仕上がっています。塩加減もお見事!
臭みはなくレバー独特の香りが鼻をくすぐる「白レバー」はほんわりとやわらか。表面だけカリッとさせ、中は湯気が出るほど熱々でふわふわの「つくね」。「ズッキーニ」は瑞々しさを閉じ込め、「手羽」はしっかりとした歯応えを感じます。どの串も絶妙な焼き加減に舌が喜びます。