〈ニュースなランチ〉

毎日食べる「ランチ」にどれだけ情熱を注げるか。それが人生の幸福度を左右すると信じて疑わない、編集部員や食いしん坊ライターによるランチ連載。話題の新店から老舗まで、おすすめのデイリーランチをご紹介!

教えてくれる人

小松宏子

祖母が料理研究家の家庭に生まれる。広告代理店勤務を経て、フードジャーナリストとして活動。各国の料理から食材や器まで、“食”まわりの記事を執筆している。料理書の編集や執筆も多く手がけ、『茶懐石に学ぶ日日の料理』(後藤加寿子著・文化出版局)では仏グルマン料理本大賞「特別文化遺産賞」、第2回辻静雄食文化賞受賞。Instagram:@hiroko_mainichi_gohan

スイーツ好きも、お酒好きも大満足のランチコース

「リベルターブル」の向かいにあるイートインスペース

独創的で大人っぽい、センスのよいケーキで知られる「リベルターブル」。「食べログ スイーツ TOKYO 百名店」に4年連続で選出される実力店だ。シェフの森田一頼氏は、パティシエを目指して調理師学校を卒業したのち、パティスリーとレストランのデザートシェフとの両方で働き、感性とテクニックを磨いた。

シェフの森田一頼氏

フランスには3年、ボルドーにあった頃の「ティエリーマルクス」(当時二つ星、銀座に店舗を構えていたことは記憶に新しい)や、多くの名シェフを輩出した「アストランス」(三つ星)でも修業を積んだ。それらの経験の集大成ともいえるのが、昨年9月にオープンした「リベルターブル カフェ」で、この5月から始めたというランチコースだ。

シックな店内

お昼ごはんといって、普通のランチを思い浮かべたら大間違い。例えば、6月1日のコースは、筍、新ごぼう、アスパラガス、トマト、黒トリュフ、フォアグラ、鮎、鴨、アーモンド、パイナップル、さくらんぼ、ピスタチオ、柑橘、ショコラ、カヌレと、象徴的な素材だけが書かれたメニューが渡される。鴨までがセイボリー(塩味)の数々、アーモンドからがデセールだ。

「アスパラガス」

小ぶりな品が寿司屋のように(シェフ曰く)テンポよく供される。例えば「アスパラガス」。タルトレット型に、グリーンオリーブのピューレを敷き、上にはオランデーズソースをイメージしたバタークリームを塗る。その上に、さっとゆでてバトン状に切ったホワイトアスパラガスをこんもりと。パティシエとしてのテクニックと料理としての要素が見事に融合している。

マンゴーとパッションフルーツの黄色が鮮やか

そして15品からなるランチコースを彩るのが、ペアリングのカクテル。3種ペアリングで2,000円、5種ペアリングで3,000円。6,000円のコースと5種のカクテルを頼んで、9,900円と1万円でお釣りがくるのだから、なんともうれしい。アスパラガスに合わせたカクテルはマンゴーとパッションフルーツのピューレをスパークリングワインで割ったもの。Uの字を描いたエレガントなライトテーブルのカウンターが主役の店内で、昼下がりから美味と美酒に酔いしれるのは、なんとも甘美だ。

アーティスティックな料理の数々

黒トリュフ

一口でトリュフの香りが広がる

では、早速シグニチャーなディッシュを1品ずつ見ていこう。「黒トリュフ」と題されたそれは、クロックムッシュのアレンジ版。中に生ハムをサンドし、マッシュルームと黒トリュフ入りのベシャメルソースを塗り、たっぷりトリュフを削りかけ、ひとひらのトリュフをトッピング。トリュフの香りをまとうことで、まろやかなクロックムッシュがぐっと蠱惑的に昇華している。

フォアグラ

表面はカリッと香ばしい

「フォアグラ」はブリュレ仕立てにしてある。アパレイユ(卵液)に、フォアグラのペーストを混ぜ込んで焼き上げ、表面をカラメリゼする。添えてあるのは、あんぽ柿のセミドライ。懇意にしている山梨の農家から送ってもらうのだそうだ。

あんぽ柿の甘味とブリュレの塩味がバランス良い

塩気とコクを含んだブリュレの旨みがたまらない。「ゼニス」というリベルターブルを代表するフォアグラ入りのケーキがあるのだが、それとはまた一味違う、よりセイボリー寄りの味わいだ。

鮎もカダイフを身にまとい優雅に変身

続いて鮎。ここで鮎?!と驚くが「旬の味を何より大切にしていて、コースも季節に応じて変わっていきます」という森田氏にとっては、初夏の味として鮎を出すことも、ごく自然なことなのであろう。稚鮎をカダイフで巻き、からりと油で揚げ、柑橘のマーマレードをところどころに絞り出し、甘夏の実をほぐしたものをのせている。

甘夏の酸味がアクセントに

実はカダイフももともとはお菓子の素材なのだそう。油がしっかりしみこんだ中東の甘いお菓子に使用する。こうした知識と工夫で、パティシエが作る料理としての納得感を持たせているところがさすがである。

カクテルも柑橘系で統一

合わせたカクテルは黄金柑、河内晩柑、甘夏の果汁を白ワインで割ったものだ。柑橘のリレーションがなんとも心地よい。

サクランボ

シンプルなビジュアルに目を奪われる

そしてデザート編だ。この美しき造詣はなんだろう。名は「サクランボ」。イチゴにサクランボを詰めた上にさらにサクランボを重ね、食用のバラの花びらをかぶせ、バラのコンフィチュールを絞っている。深紅のグラデーションに心を奪われる。またイチゴの中にサクランボを詰めたのは、口の中では両者が一体になりながらも、サクランボの余韻が勝つようにという思いからだそう。

深い赤が美しい

森田氏曰く「色から作品を発想することも多いです。例えば、同色の素材を合わせることによる、味の相性のよさ。同時に、コース全体では色がかぶらないようにしています。その方が、見た目も楽しく、味にもバリエーションが出ますから」と。

柑橘

ラム酒が大人の味わい

次の「柑橘」はサヴァラン生地の上に、河内晩柑、日向夏、清見オレンジ、日向夏の4種の柑橘を重ね、柑橘のジュレで覆っている。お好みでラム酒をかけてどうぞと、本家のサヴァランスタイルなのが楽しい。甘いものが続く中での爽やかな食感と味わいに、よく考えられた構成だと感心する。

ショコラ

目の前でショコラソースを注ぐプレゼンテーションもうれしい

いよいよデザートのメインディッシュ「ショコラ」。

熱々の焼き立てショコラスフレ

コーヒーと大吟醸の酒粕のソルベとマスカルポーネクリームをのせた皿が運ばれ、客前でシェフ自身が焼き立てのショコラスフレを取り分けて盛り付け、さらにショコラソースをかけて供される。ほろ苦さと甘みのさまざまな強弱が口の中で華やかなハーモニーを奏でる。

甘酸っぱい味わいがショコラの苦味とマッチする

合わせるカクテルは杏子のブランデーでつぶしたイチゴを割ったもので、この相性がまた絶妙。「長野に杏子の木を持っていまして、スタッフ皆で毎年収穫に行くのですが、これは7年前にブランデーに漬け込んだものなので、相当、熟成感が出ています。だからイチゴとの相性もぐっとよくなるんです」とシェフ。

カヌレ

焼き立てならではのおいしさを堪能できる

締めくくりは、コース料理の小菓子の感覚で「カヌレ」だ。しかし、焼き立ての熱々にその場でカスタードクリームを絞り入れてくれるというのがなんとも贅沢。

トロリとしたカスタードがたまらない

口の中のまろやかな余韻がいつまでも消えず、幸せな気持ちに包まれる。

ランチは木、金、土のみ

森田氏は、過去にも何回かデザートレストランを試みてきたが、ついに今回をもって完成形に到達したようだ。シックな内装も、メニューの完成度の高さも、まさに森田ワールド。リベルターブル本店の、通りをはさんで真向かいという立地もいい。

イートインスペースの営業は11~18時。定休日が日曜、月曜。ランチコースは木、金、土のみで、12時の一斉スタートだ。予約はオンラインのみ、電話や店頭ではできないので要注意。

スイーツラバーはもちろんのこと、甘いものがそれほど得意でない人、お酒が好きな人にもぜひ試してもらいたい。必ずやデセールの概念が変わるはずだ。

撮影:松園多聞
文:小松宏子