〈ニュースなランチ〉

毎日食べる「ランチ」にどれだけ情熱を注げるか。それが人生の幸福度を左右すると信じて疑わない、編集部員や食いしん坊ライターによるランチ連載。話題の新店から老舗まで、おすすめのデイリーランチをご紹介!

主役がはっきりわかる一皿を、オープンキッチンスタイルで提供

レストランは生産者とゲストをスタッフとのコミュニケーションを通して繋ぐ架け橋。そんな思いを秘め、今年4月21日、東銀座にオープンした小さなフランス料理店。それが、ここ「トワヴィサージュ」だ。

フランス語で“3つの顔”を意味する店名の意図は、まさにそこにある。地方で見つけた選りすぐりの食材を扱うだけでなく、その背景にある食文化や土地土地の情景までをも一皿に集約すべく、オープンキッチンで切磋琢磨するのは、若き俊英國長亮平シェフ34歳。あの、神楽坂「ル・マンジュ・トゥー」で9年にわたり、谷昇シェフの薫陶を受けてきた逸材だ。

國長亮平シェフ

食材を無駄にすることなく、主役がはっきりわかる一皿を……がモットーの國長シェフ。だが、その谷シェフ譲り?とも言える発想の豊かさと柔軟性も見逃せない。土曜日限定の「アフタヌーンティーランチ」5,500円というユニークな発想も、まさしくその表れだろう。

曰く「いわゆるディナーのお試し的なショートコースにはしたくなかった」そうで、もともと個人的に好きだったアフタヌーンティーにヒントを得、同店ならではの新しいランチの形を考案。全6皿からなるコースは、なんとそのうちの4皿はスイーツとデザートが主流。目の前で作りたてを食べられる臨場感は、カウンターフレンチの為せる業だろう。

メインはスイーツ?! 新感覚の土曜限定アフタヌーンティーランチ

「トワヴィサージュ特製ホエームースのサラダ」

例えば、ある土曜日の内容はこうだ。まず、目の前に置かれたのは、お花畑のようなホエーのムース。ホエーとは、牛乳から乳脂胞分やカゼインなどを取り除いた液体のことで、チーズを作る際にできる副産物。通常は廃棄されてしまいがちなホエーだが、食材を使い切ることにも使命感を燃やす國長シェフのこと、なんとかホエーを主役にしたいと試行錯誤。結果、出来上がったのが、デザートとみまがうご覧の一品だ。

花は、千葉の苗目ファーム、埼玉の須永農園から。キンセンカやマリーゴールド、カレンディアの他、大根やクレソン、にんじん、フェンネルなど野菜の花々も彩りを添えている

ホエーは、茨城の「新利根チーズ工房」から貰い受けたもの。それに、少量の生クリームを加えて1/5程煮詰め、甘と酸のバランスのとれたところでオリーブオイルとゼラチンを合わせてエスプーマにかけている。そのふわふわとした泡のような食感にアクセントをつけているのは、皿の底に忍ばせたレモンと蜂蜜。甘酸っぱさと軽やかなコクを、周りに散りばめた10種余りの花々が一層華やかに引き立て、アフタヌーンティーランチにふさわしいスターターとなっている。

「青森シャモロックのロースト オペラ風」

続くメインは「青森シャモロックのロースト オペラ風」。一羽丸ごと香草風味のマリネ液に漬けた青森シャモロックは、バターでアロゼ。中をわずかにレア気味に仕上げた鶏肉は、しっとりと柔らかく風味豊か。胸、ササミ、腿肉など青森シャモロックの各部位を一皿で楽しめるのも気が利いている。しかも、腿肉の中には青森シャモロックのミンチを詰めジャンボネット仕立てにし、一味違う食味を表現。

シャモの身に寄り添うソースは、鶏のジュ(ジュ=フランス語でジュースの意味)。シャモの優しい旨味を損なうことなく、しとやかに包み込む。丁寧さが伺える品格のある味わいだ

國長シェフによれば「実は、お菓子のオペラをイメージした構成になっている」そうで、鶏肉はジェノワーズ、ケールなどほろ苦野菜のテリーヌはコーヒー、その上にトッピングしたカカオのムースがチョコレートというわけだ。

温かいデザートはまさにレストランならではの一皿

「クレームダンジュ」。こちらは、ディナーのアヴァンデセールとしても出されている 写真:森脇慶子

メインの後は、おまちかねのデザートコースのスタートだ。最初に登場したのは、見た目も鮮やかな真紅のデザート。自家製赤シソジュースで作ったゼリーとこだますいかにフロマージュブランで作ったムース「クレームダンジュ」を合わせた一品で、さっぱりとして爽やかな味わいは、肉料理からデザートへの口直しにはぴったりだ。

「広島県産瀬戸内レモンのスフレ」。出来立てを味わえるのもフレンチレストランならでは

初夏の香りを満喫したところで、温かいデザートがスタンバイ。広島県産瀬戸内レモンのスフレの焼き立てが運ばれてきた。アングレーズソースは使わず、レモン果汁とメレンゲに砂糖、そしてごく少量の粉のみで仕上げたそれは、レモンのピュアな酸味が新鮮。熱々を逃さず口にすれば、舌の上でとろけて消える。儚いおいしさもスフレの魅力だろう。エルダーフラワーのソルベとの冷、温あい混ざった瞬間のおいしさも、レストランのデザートにふさわしい。

「フォレノワール」

3皿目のグランデセールは「フォレノワール」。フランス語で黒い森を意味する、ドイツ南西部の針葉樹の森林地帯にちなんだケーキだ。これを、國長シェフはデザートに再構築。グリオットチェリーのパルフェを巻き込んだカカオのチュイールやデーツとプラム、セミドライのダークチェリー等々をボール状にまとめたものをあしらうなど、見た目とテイストはモダンで軽やかながら、味の余韻は伝統菓子のフォレノワールそのもの。食後のデザートとしての品格を漂わせている。

「ミニャルディーズ」

そして最後はお茶とミニャルディーズがお目見え。大納言入りコーンブレッドや定番の外郎にフィナンシェなど、食感や味わいの異なる7種の盛り合わせ。これなら、15時のリミットタイムまでゆっくりと過ごせそうだ。

平日ランチテイクアウト限定のデニッシュサンドも登場

茨城県産かすみ鴨のデニッシュサンド」864円

ちなみに、平日のランチはテイクアウトのみで「茨城県産かすみ鴨のデニッシュサンド」を用意。

優しい味わいの西崎ファームの鴨で作った自家製ソーセージのしっとりしたおいしさに、みっしりとした食感のあるデニッシュブレッドが好相性。オリジナルのソースやピクルスと織りなすハーモニーの豊かさもフレンチなればこそ、だろう。

※価格はすべて税込、ディナーコースとアフタヌーンティーランチはサービス料(10%)別

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、最新の情報はお店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

文:森脇慶子

写真:お店から