【食を制す者、ビジネスを制す】
ビジネスパーソンのような村上春樹の1日の過ごし方
作家の村上春樹は1日の過ごし方として、朝の時間を大切にしているという。著書『走ることについて語るときに僕の語ること』によれば、まず早朝に起きて、すぐに仕事にとりかかる。起床は午前4時。ときには午前2時半や3時に起きるときもある。起きたらすぐに仕事を始め、5~6時間執筆し、朝9~10時ごろに仕事を終える。
仕事を終えた午前中に1時間ほどジョギングをする。ときには泳ぐこともある。執筆作業は必ず午前中だけ。ランチをとって、午後2時以降は買い物をしたり、本を読んだり、音楽を聞いたりして過ごす。夕方の5時頃から夕食の支度をして、10時ごろには床につくという。
作家と言えば、夜な夜な飲みに出かけて好き勝手な生活を繰り返しているようなイメージをもっている人も多いだろう。だが、村上春樹はまるでビジネスパーソンのようにきちんと1日の時間を管理している。だからこそ、コンスタントに名作を書けるのだ。
村上春樹の仕事は書くことだ。書くことは想像する以上に苦しい作業でもある。あまり体力を使っていないように見えて、実際には身体が疲れ果ててしまうことも少なくない。とくに小説を書く仕事は、自分の核を掘り起こして書く集中力と、仕事として日々休まずに書き続けるための持続力、それをルーティンワークとしてこなすための忍耐力が必要だ。
ルーティンワークを有意義にする工夫とは?
だからこそ、村上春樹はジョギングする時間を大切にしているという。
「僕は小説を書くことについての多くを、道路を毎朝走ることから学んできた。自然に、フィジカルに、そして実務的に。どの程度、どこまで自分を厳しく追い込んでいけばいいのか? どこまでが妥当な一貫性があって、どこからが偏狭さになるのか? どれくらい外部の風景を意識しなくてはならず、どれくらい内部に深く集中すればいいのか? どれくらい自分の能力を確信し、どれくらい自分を疑えばいいのか?」(『走ることについて語るときに僕の語ること』より)
村上春樹はジョギングによって、小説を書くための集中力と持続力、忍耐力を磨いてきた。同じくビジネスパーソンも村上春樹の姿勢から学べることは少なくないはずだ。その意味で、ここではルーティンワークをこなすための忍耐力について注目したい。なぜなら、ビジネスパーソンの生活はルーティンワークが基本だからだ。しかし、毎日同じことを繰り返していく忍耐力はそうそう持続できるものではない。ルーティンワークはときに怠惰になる。有意義に過ごすためには工夫も必要だ。
そんなときに良い方法がある。ルーティンワークを持続するために、週の1日を調整日にするのだ。もしくは、自宅と会社を往復する途中に自分だけの時間を過ごせる飲食店やバーをつくって、そこで1日のストレスを発散してもいい。いわば、息抜きの時間をルーティンワークの中につくって、メリハリやリズムをつけることで、ルーティンワークをより新鮮なものに変えていくのである。
メリハリのある生活には辛いものが良い
もし食事でメリハリをつけるならば、辛いものを食べるといい。辛いものを食べて、汗を流すと不思議と元気が出てくる。夏に疲れたらカレーのような辛いものを欲するように、とくにやる気の出ない日は辛いものを食べて、ルーティンワークのリズムを取り戻すのである。
原宿にある「龍の子」は四川料理の名店だ。ここの麻婆豆腐は辛ウマでクセになる。食べているうちにじんわりと汗をかき、食べた後には達成感にも似た感覚を味わえる。「龍の子」には、多くの芸能人、業界人が訪れているが、四川料理店だけに唐辛子や山椒を使った料理が豊富で、気になったものは注文するといいし、ここではメニューにないものでもつくってくれる。私は沸騰魚(フェイ・テン・ユー)が面白いと思う。素揚げした白身の魚を唐辛子と一緒に煮込んだようなもので、辛いけれど後を引くうまさだ。
そうやって、辛いものを食べて汗をかいていると、自然にルーティンワークをこなす元気を取り戻していくような感覚になる。
ちなみにこの店で、ある日の土曜の夕方、70歳前後のエグゼクティブ風のオジサンが1人でふらっと店に入ってきて、大きめのふかひれの姿煮とチャーハンを注文して、さっと食べて1万円札を出し、颯爽と帰っていく光景を目撃したことがある。注文の豪快さもさることながら、その食べるスピードの速さにも魅了された。面白そうなお客さんがくる店は、何かと刺激になることも多い。私も、オジサンのような注文をしたいけれど、格が違うような気がして、いまだ勇気が持てないでいる。
(ちなみに龍の子は来年1/9(火)~2/17(土)の間、店内改装のため一時休業するらしい。リニューアルオープンは、2/18(日)の予定だという)