飯田イズムを継承しつつ進化と深化を
角に丸みをもたせて面取りされた麺切り刃を使用する自家製麺は、ゆで湯が側面から入っていくため、しなやか、かつダレにくいのが特徴。麺に使う小麦は北海道の十勝・江別、四国産など6種類をブレンドしており、夏と冬では食べたい麺が変わるため、割合は季節で変えているという。
山本さん
スープとの相性がとてもいい麺です。
スープは鶏ガラ、丸鶏、昆布、豚肉を4~6時間煮込んで作るのだが「塩らぁ麺」では毎朝さらに作業が加わる。
「塩は醤油に比べて香りがないので、フレーバーを出すために鶏肉、昆布、ホタテ貝柱のだしをとり、塩専用のスープを炊いています」と渡邊さん。「香りはできるだけフレッシュな方がいい」と、その日に炊いてその日にこして使う。おいしく食べてもらうための手間は惜しまない。
引き上げた麺をスープに入れ、一本一本の麺を素早く、美しく整え“麺線”を作る。
白に青がにじむような独特の模様が美しい麺鉢は、有田焼窯元の「李荘窯(りそうがま)」の職人が一つひとつ仕上げたもの。ティッシュペーパーの上から呉須(顔料)をかけてはがすことで、塩が溶ける様を表わしている。「器は料理の着物と言うそうですが、この麺鉢に見合う一杯を、との思いで作っています」(渡邊さん)
麺を盛りつけたら次は具だ。少し意外とも思えるのは、チャーシューの下に隠れているカブ。「塩には合わないためメンマは入れないが、似たような食感が必要」という理由と、塩らぁ麺に足りない甘味を足す役割も担う。
白髪ネギの上に、揚げネギ・生姜・マッシュルームを砕いたトッピングを散らし、三ツ葉、柚子の皮を削り入れ、最後に少量の鶏油を垂らしたらできあがりだ。
スープは一口すするだけで体全体に染みわたる、やさしい味。さっぱり、なのに奥深いコクがあり、しなやかで喉ごしのよい麺にからめて味わえば、もう箸が止まらない。
山本さん
スープが澄んでいて、最後の一滴まで飲み干したくなります。飯田さんのところも同様の印象ですが、このクラスのラーメン店のスープは完全に料理だなと思います。
一杯で鶏と豚、2種類のチャーシューを味わえるのもうれしい。麺の上に横たわる2枚のチャーシューは、埼玉県産「香り豚」のロース肉。甘い脂と柔らかな赤身が特徴で「ラーメンに寄り添うような、ほどよくおいしいお肉。低温調理でしっとり、柔らかく仕上げています」。
香ばしい焦げ目がついた地鶏のチャーシューも絶品だ。比内地鶏や名古屋コーチンなど、スープで使う丸鶏のもも肉が使われているのだが、できあがるまでの工程も実に手が込んでいて、肉の味が濃く弾力もしっかり。これだけで既に立派な肉料理である。
山本さん
チャーシューの火入れも完璧で、抜群の歯ごたえ。ここは独自性を追求していらっしゃるんだなと思いました。
果てしないラーメン愛が全ての原動力
「Ramen FeeL」では、待ち時間や混雑を減らすため、「FeeL Fastpass」と呼ばれる整理券を配布している。朝7時から9時までは1時間ごと、10時以降は完売まで随時配布され、指定時間までに戻れば観光するなど過ごし方は自由だ。
そんな中「待ち時間を少しでも快適に、ゆったり過ごしてほしい」と、この10月から提供を始めたのが店舗2階の待合スペース「Yaneura FeeL」だ。コーヒーやソフトドリンクがセルフで飲み放題、なんとありがたいサービスであろうか。内装や家具も義父が手がけるなどバックアップしている。
取材中も仕込みのためのタイマーをかけ、厨房を何度も行き来し、かつお節を削るなど手を休めることがなく、常に、どうしたらよりよい一杯に仕上がるかを考えている渡邊さん。
弟子入りしても、あまりの厳しさについていけない人もいたそうだが「とにかくラーメンが好きで。好きすぎてラーメンに何かしてあげたくなるんです。どんなに辛くても何を言われても、親方(飯田氏)と目指すものは同じ。言い訳はせずやり抜きました」と修業時代を振り返る。
開店から2年近くが経ち、やっと少し客観的に見られるようになったという渡邊さん。「お客様に喜んでもらうのはもちろんのこと、一つひとつの食材や、できあがったラーメンの表情が輝いているような、『FeeL』でラーメンにしてもらって幸せだと思ってもらえるような一杯に少しでも早く近づきたいですね」と抱負を語ってくれた。
「ラーメンから幸せをたくさんもらった」と話す渡邊さんから感じるのは、果てしないまでのラーメン愛。思いがこもった渾身の一杯は、味わう人の心と体に染みわたる。