あえて具は入れず、レモンの香りを味わうような一皿に

特製のレモンソースにバターを溶かし、ゆで上がった生パスタ、パスタのゆで汁を投入しサッと混ぜる

レモンのスパゲッティは複雑な料理ではなく、香川から届く極上レモンありきのシンプルなパスタだ。レモンそのものを味わってもらうべく、あえて具材は何も入れない、レモンが主役の究極のシンプルパスタと言ってよい。

 

塩沢さん

具材がないというのが麺好きにはたまらない。ソースとパスタが一体をなし、味変など必要ないほど隙がない。具材を入れないのは、レモン、チーズ、生パスタへの揺るぎなき自信と敬意に他ならない。来世、レモンに生まれ変わったとしても、「Komakine」でパスタにしてもらったら幸せだと思う。

イタリア産チーズ、グラナパダーノをおろし金で削り入れる

使用するチーズは、パルミジャーノ・レッジャーノよりもクセが強くないグラナパダーノ。レモンソースとこのチーズでしっかりまとめてベースを作る。

 

塩沢さん

ソースは、レモンの爽やかな風味をグラナパダーノで下支えしているため、シンプルな爽やかさにはとどまらない、奥行きと濃厚さがあります。肉をいただいた後でもペロリといけるし、これ一皿でも十分な満足を得られます。

チーズが全体に行き渡ったところでフライパンから引き上げお皿に移す

レモンのスパゲッティで使用するのは、うまみ、味、香りを丸ごと吸ってくれる生パスタだ。「大切なのは一体感。乾麺で作ると、パスタを噛んでいるうちに最終的には口の中で麺だけの味になってしまいますが、生パスタを使うと、最後までソースとパスタの一体感が保たれたまま、そのまま胃に落ちていくような感じですね」と一樹さん。

 

塩沢さん

麺は生のスパゲッティ。モチモチッとした食感で、咀嚼をさせるので、口の中にとどまる時間が長く、その分レモンの香りがいっぱいに広がります。乾麺のよさもありますが、レモンのスパゲッティに関しては生しかないと思い知らされます。

お皿に盛りつけたらパルミジャーノ・レッジャーノを削りかけ、深みとコクをプラスし立体的な味わいに
青いレモンの皮をグレーターで削り、スパイシーな香りをプラス

使用するレモンの品種も季節や時期により変わるそう。この日使用したのは熟す前のまだ青いレモン。「青いレモンはややスパイシーな香りが特徴で、熟して黄色くなるにつれ、やわらかなレモンらしいフレーバーに変化していきます」(一樹さん)

 

塩沢さん

レモンの成熟の度合いや品種の違いを定点的に追いかけるのも、また楽しい。

アクセントに黒コショウをふって完成

できたての最高においしい瞬間を味わう、それこそがレモンのスパゲッティの醍醐味。「目の前の一皿に集中し、清々しいレモンの香りを存分に楽しみながら召し上がっていただきたいですね」と一樹さん。

 

塩沢さん

レモンの香りは熱に弱く、刻一刻、失われていく。また、生パスタは水分を吸いやすく、さらに、チーズは冷めると固まるため、最高の状態は長続きしない。ゆえに写真を撮られる方は、すぐ撮って、すぐ食べる。これが鉄則です。

自然派ワインに“定番”なし

フランス ルーション「オダン」(左)、北海道余市町「ドメーヌ・タカヒコ」のピノ・ノワール(中)など、レアな自然派ワインがそろう

「ビオステリア コマキネ」で語らずに終われないのが、ブドウの栽培から醸造・熟成・瓶詰めに至るまで、できる限り自然のままの製法で造られた自然派ワイン。

「自然派ワインは生ものと一緒で、旬の時に旬のものが出回るので、ハウスワインのような“定番ワイン”は存在しません」と教えてくれたのは、店に入るためにソムリエの資格をとった一樹さんの妻・由香里さんだ。

「お客様に新しいワインとの出合いを楽しんでいただきたいので、自然派の中でもレアなもの、ワンランク上のものを入れています。生産者のご苦労などを考えると、決して高くはないことがおわかりいただけると思います」

お客様に正直に、素直においしいと喜んでもらえる一皿をこれからも

オーナーシェフの駒木根隆俊さん(中央右)とホールを担う妻の明子さん(右)、シェフの一樹さん(中央左)とソムリエでもある妻の由香里さん(左)

オーナーシェフ夫妻と、息子夫婦、2組の夫婦で営まれる「ビオステリア コマキネ」。家族経営ならではの温かな雰囲気が醸し出す、居心地のよさも大きな魅力だ。利用は就学児からとなっており、食事とワイン、大切な人とのひとときを心ゆくまで楽しめると支持されている。

「ワインも食材も、ここでしか出合えないものを数多く取りそろえています。これからも常にいい食材を探し続け、お客様に正直に、よりおいしく安心して召し上がっていただける一皿を提供し続けたいですね」(一樹さん)

蒔田駅から徒歩1分、オリーブの木と巨峰の古木が迎えてくれる
店内には無垢材や革張りのソファー、本物のレンガやタイルなど経年劣化してもそれが味となる資材を多用。壁にはエイジングを施している

蒔田駅は横浜から地下鉄ブルーラインで約11分、JRが乗り入れる戸塚駅からは約16分。店は駅から至近距離、思いのほか交通アクセスがよく、都内や横浜中心部に比べ、かなりコスパに優れるため、都内や県内でも横浜以外から訪れる常連客も多いのだとか。

ちなみにこちらのスパゲッティ、もともとディナーのみのメニューだったのだが、多くの要望に応える形でランチでも楽しめるようになったそう。そんなレモンのスパゲッティをきっかけに「ビオステリア コマキネ」の料理と自然派ワインの奥深さに触れれば、たちまちこの店のファンになってしまうはずだ。

※価格は税込。

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認ください。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

取材・文:池田実香(フリート)
撮影:齋藤ジン