きっかけは銀座の住人の「こんな店があったらいいのに」

おつまみの一品であるお造り。この日は大分産の白甘鯛を軽く昆布じめしたもの。すだちと塩でいただくと、白身魚の歯ごたえと旨味がじわり

ビジネス街でもあり「夜の街」でもある顔を持つ「銀座」という場所。普段使いはもちろん、接待でも使えるような価格帯で、でも満足できるお寿司屋さんが欲しい……そういった需要を感じ取ったのは必然と言えるかもしれない。

おつまみの定番メニュー、うなぎの茶碗蒸し。ふんわりした鰻と鱧板が入った茶碗蒸しは、とろける食感としっかり利いた出汁の味わいがたまらない

価格帯といい、立地といい、味のクオリティといい、強く印象に残ったのは“使い勝手の良さ”。銀座というと華やかな百貨店や路面店が立ち並ぶ印象が強いが、ビジネス街でもあり「夜の街」でもあったりとさまざまな顔を持つ。普段使いはもちろん、接待でも使えるような価格帯で、満足できるお寿司屋さんが欲しい……そういった需要は潜在的に多い街のはずだ。オープンしてまもなくながら、多くの人に歓迎されて高評価なのもうなずける。

この価格帯でも、しっかり高級ネタが入るのがうれしい。この日は、青森県易国間産の大トロがラインアップ

それにしても、銀座という立地でこのクオリティの寿司をこの価格で出すというのは、なんともチャレンジングに思えるもの。しかしそれを実現しているのは、大将・渡辺さんの工夫と努力の賜物だ。

「東京の魚市場というと豊洲ですが、豊洲で仕入れるとどうしても原価が高くなってしまう。代わりに他の市場を使ったり、魚屋さんたちといい関係性を築いたりしていくことで、なるべく低価格でもいいものを仕入れるようにしています」(渡辺さん)

例えば寿司ネタにしても、ウニや車海老などはあえて取り扱わないが、大トロは10貫の中に基本的に入るなど、決められた構成の中で客に満足してもらえるように工夫を凝らす。しっかりと高級ネタも入れつつこの低価格を実現しているのは「おまかせコース」のみという思い切ったメニュー構成も大きい。仕入れのロスをなくすことで、コストパフォーマンスの良い料理を客に提供できるからだ。

 

田中さん

手頃な価格ながら、目利きや仕事に工夫を凝らし、レベルの高い江戸前寿司のコースに持っていくべく努力されていることに感心しました。

職人の工夫が、低価格で高クオリティの江戸前寿司を実現

ミニマムなお店だけに、大将との距離感が近いのも楽しい。シャイで朗らかな渡辺さんのキャラクターも、リピーターを生む魅力の一つ

そんな「鮨 のべつ」でぜひ注目して食べてもらいたいのはネタの中でも、特に力を入れているという「光り物」だ。

「コハダやイワシ、サバなどは、基本は3日以上寝かせます。脂の具合によって期間は調整していくんですが、サバなどは1週間以上寝かせることもありますよ」

ネタの仕込みは、江戸前寿司を手掛ける職人の一番の腕の見せどころ。特にこういった光り物の仕込み、中でもコハダは顕著に“店の味”が出るという。

「仮に同じところからコハダを10匹仕入れて、10人の職人が仕込みをしたら、10通りの味になると思います。塩や酢の時間、使っている酢の種類……必ず、それぞれの職人ならではの味が出る。面白いですよ」(渡辺さん)

この日のコハダは佐賀産のもの。身の脂感と酢〆のバランスが絶妙!

コース全体のバランスを考えたりと、細かいところまで気を遣ったコースがいただけて、しかも銀座でこのお値段。正直、一度訪れた多くの人が「他の人に教えたくない」と思うのではないだろうか?

 

田中さん

このルックス、このラインアップで13,200円なら、文句はありません。こちらのお店のようなお寿司屋が僕らには結局一番必要なんだな、と改めて思いました。

日常の中での、ちょっとした“ハレ”の体験。「鮨 のべつ」は、そんなお寿司の楽しみ方を改めて教えてくれる店だと言えるだろう。予約が取れなくなってしまう前に、ぜひ一度体験を。

※価格は税込。

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

撮影:朝岡英輔
文:川口有紀(フリート)