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カウンター中心のイタリアンレストラン
東急目黒線の西小山駅。各駅停車しか止まらない駅だが、こだわりオーナーによる個性的なショップやレストランが点在するおもしろい町だ。
そんな町中、西小山駅から徒歩3分の場所に2021年12月にオープンした「nerisa」がじわじわと人気を集めている。それもそのはず。学芸大学駅近くにある「リ・カーリカ」などで8年間シェフを務めていた田中隆照さんによる、独立後最初のイタリアンレストランだからだ。
店内はゆとりある広さ。じっくり食事が楽しめる店
同店はカウンター席8席、テーブル席1卓の店。席数の割には間取りが広く、カウンター席中心ながらゆったりした気分で食事が楽しめる。
オーナーの田中シェフは、「縁があってこの物件を見たときに、町の雰囲気とともにとてもいいなと思い決めました」と語る。駅から住宅街に向かう道すがらにあり、町の人たちの夕食や帰宅途中の軽い食事とお酒といった使い方ができる店だ。
アラカルトから、好きなものを自由にいただく
メニューはアラカルトから、好きなものが選べるスタイル。旬に合わせ、その日の仕入れによってメニューが変わり、冷温菜合わせて前菜が12種類前後、メイン3~4種類、パスタは定番3種類を含めて5~6種類ほどをそろえる。
テーブル席での4名以上の利用や希望客には「おまかせコース(6,500円)」も用意しているが、「基本的には、お好きな食べ方をしていただきたい」(田中シェフ)との思いからアラカルトが基本となっている。
例えば、仔牛のハムを盛り合わせた「ヴィテッロ・トンナート」は、少し厚めにスライスされた自家製ハムがたっぷり並んだ食べ応えのある冷菜。まずは小腹を満たしたいときや、お酒とともにしっかりつまみたい人におすすめだ。
この「ヴィテッロ・トンナート」。田中シェフの留学先のピエモンテ州では定番の前菜のひとつで、店ごとに作り方が異なる。ローストして仕上げるシェフもいれば、ボイルして調えるシェフもいて、切り分け方も薄め、厚めと千差万別。その店、シェフの味がわかるメニューと言える。
田中シェフは、たっぷりの野菜を散らして、野菜の水分で蒸し焼きのようにし、2時間かけて仕上げるため、やさしい甘みとしっとりした食感が特徴のハムとなっている。
季節の食材を使ったシンプルで味わい深い料理
お肉系の冷菜の後は、魚介の温菜として「牡蠣と緑豆のディヴェッラ蒸し」をおすすめいただいた。
大振りの牡蠣を「ディヴェッラ」というイタリア産スパークリングワインで酒蒸しし、ペーストした緑豆に盛った一品だ。牡蠣のミネラルと、ほのかに残るワインの酸味がマッチして深い味わいを出している。
なお、ディヴェッラ・ワインは、こだわりの造り手によるワイン。瓶内二次発酵方式で造られる、スパークリングワイン「フランチャコルタ」と同じ製法ながらも、独自の感性と手法で造られた豊かな味わいが特徴だ。
意外にもさっぱり&やさしい、手打ちタヤリンのラグー
一般的なイタリアンレストランでは、パスタはメインの前に提供されるが、同店では特に依頼をしなければパスタは最後に登場する。「やはり、最後は炭水化物で締めたいですよね」とは、田中シェフの言葉だ。
そのパスタのなかでも「手打ちタヤリン 色々お肉のラグー」は、オープン時から根強い人気があるパスタ。たっぷりのお肉が入ったパスタながら、さっぱりとした味わいのため締めにピッタリだ。
一般的に肉を炒めてから煮詰めることで深く重みのある味わいを持つラグーだが、田中シェフは野菜の出汁と一緒にして肉に火を通し、やさしい仕上がりにしている。それでいて、ほかのメニューで使用された各種の端肉を使うため、複雑さと深みを残したラグーなのだ。
タヤリンは、田中シェフの地元である埼玉県産の小麦粉を使用した手打ちパスタ。タヤリン特有のパツッとした歯ごたえを出すため、生パスタではなく店内で乾燥させて使用している。
ちょうど店内に乾燥に適したスペースがあったことから実現したとのことで、これから夏に向けて乾燥具合が納得いくものでなくなる場合は、秋冬限定となる可能性があるパスタだ。
自分でセラーから選ぶ自然派ワインが常時200種類
「食事をメインとしながらも、一緒にお酒も楽しんでもらいたい」と言う田中シェフ。ワインは自然派ワインを中心に200本以上を用意している。
おもしろいのはその提供方法だ。店内にあるセラーはカウンターの背中側にあり、客が自分でセラーを見て選び、取り出すことができるのだ。ワインには1つずつタグをつけ、味わいのポイントと金額が記載されているため、楽しみながら選ぶことができる。
もちろんグラスワインも提供しているが、ボトルの価格帯も4,200円~と安価に設定されているので、ほとんどが1点しか仕入れていないというボトルワインを頼むのがいいだろう。
23時まで営業しているため、21時以降はバーのような利用方法もできる。帰宅途中や家での食後などに、軽食とともに軽くお酒を楽しんだり、小腹を満たしたりといった使い方ができる店だ。
「焼いておいしい、茹でておいしい」。素材の味を大切にした料理
自由が丘にある「バッボアンジェロ」で6年ほど修業したのち、イタリア・ピエモンテ州の一つ星レストランで経験を積んだ田中シェフ。帰国後は、堤亮輔さん(現タバッキ代表)が当時独立して最初にオープンした学芸大学駅の「リ・カーリカ」で腕をふるった。その後、堤さんの元でいくつもの店に関わり、2021年1月に退社。12月にオープンさせたのが「nerisa」だ。
田中シェフの持ち味は、素材の良さを大切にした料理。技巧を凝らしすぎて何を食べているのかわからなくならないよう、素材の味を引き出してシンプルにおいしいと思えるものを提供している。
地元埼玉の有機農法のものが中心だという野菜は、野菜本来の甘みや旨味をしっかりと味わうことができる。肉料理も埼玉県産の肉を扱い、「国分牧場ジャージー牛 ロースト」(3,800円)、「入間地豚ロース サルティンボッカ」(2,800円)、「幸手市の合鴨ムネ肉のロースト」(3,500円)などを提供している。
オープンしたばかりの「nerisa」。これからさらに様々な食材が出回る季節となる。野菜の持ち味を活かした、どのようなメニューが登場してくるのか。ますます目が離せない。
※価格はすべて税込