美味しい酒と肴、そして極上のそばでしめる秋の幸せ

 

食欲の秋は、日本酒の秋。夏を越えて熟成した「ひやおろし」が出回る9〜11月は、日本酒がおいしい季節です。というわけで、食べログ高評価の店100軒を集めた「そば百名店」の中から、秋こそ訪れたい「そば前」のおいしい3店をそば研究家の前島敏正さんに教えていただきました。

 

そば前とは、そばを食べるに前にお酒を楽しむこと。今回はそばだけでなく、料理や酒肴が充実したそば店をご紹介します。

 

まずは酒徒の聖地、新橋から。

「無濾過の日本酒だけを置いている、こだわりのお店です」と前島さんが推薦するのは、静かな小道に佇む『蕎麦切り 酒 大愚』。「日本酒を飲まない方、1合以下(少量)しか飲まない方は入店お断り」「予約は3名以下」という、個性的なそば店です。カウンターに立つのは、ご主人ひとり。8種ほど揃う日本酒はすべて無濾過で、メニューの隅には「お酒は『燗』がおすすめです」と書かれています。

写真:Kanzanさん

 

写真:玉かずらさん

 

メニューは7品3,600円のおまかせコースが基本。旬の食材を生かした前菜や一品料理、鶏料理、出汁巻玉子、地鶏の塩焼きと、お酒が進む献立です。

さらに楽しみたい場合は、アラカルトの追加注文も可能。飲めるクチなら、ラストオーダーまで延々と飲み続けてしまいそうです。〆のおそばは、石臼手挽きの自家製粉。せいろ(細打ち)か田舎(太打ち)、または二色盛りの三択です。

写真:玉かずらさん

 

 

続いて、浅草。

 

浅草の百名店のひとつ、「丹想庵 健次郎」は、1・2階あわせて45席の大型店。メニューには「板わさ」「玉子焼」「蕎麦サラダ」といった定番から、「炒り松の実」「たたみいわし」などの酒肴まで、お酒のつまみがよりどりみどり。天ぷらそばからそばを抜いた「天ぬき」や、鴨南蛮からそばを抜いた「鴨ぬき」など、通好みのアテも揃っています。

写真:玉かずらさん

 

お酒のメニューには、「菊正宗」「獺祭」などの有名どころも、レアものも。

「古いお店が多い浅草で特色を出すために、お酒も揃えて頑張っているのではないでしょうか」(前島さん)

写真:ドレッドノートさん

 

写真:kanzanさん

 

「こうした昔ながらのそば店でそば前を楽しむ時に心掛けたいのは、そばは後で注文するか、お店の人に『そばは後でお願いします』と伝えておくこと。お酒のアテは料理で、そばは仕上げ用ですから、言わずともそばは最後に出してくれそうなものですが、間違ってそばを先に出されることがないように」(前島さん)

そして最後は東村山。

さて、最後の一軒は、東村山にある完全予約制の「土家」。古民家を生かした店内は、5人掛けのテーブルと4席のカウンターのみ。そば懐石のコース(昼5400円、夜7560円)には、前菜、八寸、椀物、天ぷら、そば、甘味と、端正な品が次々と登場し、記念日にもふさわしい一軒です。

写真:bottanさん

「立川の名店『無庵』で修業したご主人は、そばだけでなく、料理も上手。毎回工夫を凝らした料理を楽しませてくれます。お酒は限定品が多く、日本酒が好きな人にはたまりません。なるべく多くの人と行って、たくさんの種類を楽しみたいお店です」(前島さん)

写真:bottanさん
写真:bottanさん

 

前島さんにナビゲートしていただいた、東京のそば前3軒。「蕎麦切り 酒 大愚」には3人以下で、「丹想庵 健次郎」や「土家」にはなるべく多くの人と訪ねてみてはいかがでしょうか。

 

文・小松めぐみ