大規模な再開発にともない、しばらくこの地を離れていた大人たちから再びの注目を集める街・渋谷。だけど、いざ来てみたら食事処に迷ってしまうというケースもしばしば。そんな、“シブヤお久しぶり組”の迷える大人たちのため、「食べログ グルメ著名人」で渋谷区初のCEO(Chief Eat Officer)を務める小宮山雄飛さんに渋谷の新&定番グルメスポットを両方教えてもらっちゃおう! というこの連載。

[定番]編21回目となる今回は、オーストラリアの食材を使用した、好奇心をくすぐる料理が揃うビストロ「アロッサ」をご案内します。

【大人の渋谷メシ・定番編】第21回「アロッサ」

今回紹介するお店は、東急Bunkamuraの裏手、鍋島松濤公園へと向かう道沿いにあるビストロ「アロッサ」。この一帯は、昨今流行りの「奥渋」とも若干違う、地元の人や昔からの渋谷ツウが集う、まさに渋谷らしい渋いエリアです(一応ダブルミーニングです、はい……)。

以前はオーストラリアワインを扱うバーだったお店が、2000年からオーストラリア食材を使うビストロとしてリニューアル。店頭にはオーストラリア国旗が掲げられていますが、正確にはオーストラリア料理ではなく、オーストラリアの食材を使ったお店なんです。

お店に入ると、まずはオーストラリアワインがびっしりと並べられたワインセラーがお出迎え。純粋にワインバーとしても利用できる、充実の品揃えです。

ゆっくり料理を堪能したい人は、落ち着いた雰囲気の2階がおすすめ。壁のアボリジナルアートがオーストラリア気分を高めてくれます。

壁にかけられた黒板メニュー※は、よく見るとなかなか見慣れない食材のオンパレード!

クロコダイルにオーストリッチにカンガルー! さらに仔羊や豚バラ、牛タンなどほとんどのメニューに「Aus産(オーストラリア産)」の文字が。とことんオーストラリアの食材にこだわっています。

※黒板のメニューは取材当日の内容です

「Aus産ひよこ豆のフムス」

そんなお店でまずスターターとして頼んだのは「Aus産ひよこ豆のフムス」700円。

フムスは中近東でよく食べられている、ひよこ豆をニンニクやオリーブオイルと一緒にペースト状にした料理。オーストラリアの食材を使いつつ、いきなり中近東の味わいというのが面白い。

ピタパンにディップして食べると、ひよこ豆の優しい味わいと、クミンなどのエスニックな香りが絶妙にマッチしていて、実においしい。裏ごしした木綿豆腐のような食感と風味もあり、これ日本酒に合わせてもおいしいんじゃないか?などと酒呑みの妄想が広がります。

まずは優しい一品から始まりましたが、ここからがオーストラリア食材の真骨頂! 意外な食材の、驚愕のおいしさの連続です。

「オーストリッチのカルパッチョ」

まずは「オーストリッチのカルパッチョ」2,600円。オーストリッチ、つまりダチョウです! しかもカルパッチョ、正直まったく味が想像できません。

薄切りにされたオーストリッチのカルパッチョ、正直若干恐る恐るですが、一口食べてみると。ん、おいしい!

鳥とは思えない力強い赤身の肉の旨さがありながら、いわゆるジビエ肉のような癖が全くない。ダチョウってこんなおいしかったんだ! あえて例えるなら、牛肉の旨味と、鳥肉のあっさり感のいいとこ取りという感じ。

合わせているソースは仔牛のフォンドボーにオリーブオイル、さらにチーズとパクチーを散らしていて、あっさりした味付けながらも様々な風味が感じられます。これは肉好きだったら、一度は味わってほしい一皿。

「クロコダイルのフリット」

続いては「クロコダイルのフリット」1,200円。クロコダイル、つまりワニです。 ダチョウに続いて、これまた食べたことのないお肉です。

まずは何もつけずに一口。

おお、これは実にあっさりした淡白な味。鶏の唐揚げのような味わいながら、鶏よりもしっとり感があって食べやすい。食の振れ幅がかなり広い方の僕ですが、まだまだ知らない(そしておいしい)食材ってあるんですね。

添えられているソースは、黒オリーブとアンチョビを使ったタプナード。このソースだけでもワインが進んでしまうおいしさ!

あっさりした味のワニ肉にもよく合います。ワニ肉は味だけではなく、低脂肪・高タンパク・低カロリーなヘルシー食材として注目が集まっているんです。

「カンガルーランプ」

そしてメインディッシュは「カンガルーランプ」3,000円(200g)。見事にレアな赤身肉! 最初にフライパンで外側を焼いた後、オーブンで火入れ。さらに火から外してお肉を休ませて、またオーブンで火入れ、という工程を繰り返して絶妙に焼き加減を調整。

お肉の下にはじゃがいもとニンニクが敷き詰められ、上には香り付けのローズマリーとチャイブ。これは見るからにワイルドでおいしそう!

一口分に切り分けて断面を確認。見事な赤身ながら、断面から余計なドリップが流れるようなこともありません。これぞ理想的な焼き方。

ということで一口。うわ、めっちゃおいしい!!

ものすごい上品な赤身肉です。脂っぽさが全く無いのに、かといってパサパサするような筋っぽさも全く無い。噛むほどに純粋な肉の旨みだけが口に広がります。

カンガルー、やるじゃない! これはほんと衝撃の味わいです。カンガルーと聞いて、なんとなくにおいがあるのかと思っていたら、むしろ牛肉から牛のにおいを抜いて肉の旨みだけを残したかのような、淡白なおいしさ。

さらにローズマリーとチャイブを一緒に食べると、あっさりしたお肉に香草の香りが加わって、これまためちゃ美味。

カンガルー肉、本当に今まで食べたことのないおいしさで、ぜひとも肉ラバーには一度試していただきたい。オーストラリア食材を使ったビストロ料理、味覚の新しい扉を開けてくれそうな体験を皆さんもぜひ!

「AUS産 イチボのローストビーフ丼」1,200円

とはいえ、カンガルーのお肉はハードルが高い……という人は、テイクアウト用の絶品のローストビーフ弁当などもあるので、まずはそちらでお店の魅力を手軽に味わってみるのもよいでしょう。

※価格はすべて税込

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

※本記事は取材日(2021年12月20日)時点の情報をもとに作成しています。

取材・文:小宮山雄飛

撮影:GENIUS AT WORK