9月14日~21日まで、マルイシティ横浜にて「月よりマッチョを見よう“おマチョ見”」が開催される。筋骨隆々のマッチョをお月さまに住むうさぎに見立て、その模様を愛でながらモチを食べるというあまりにキテレツすぎるイベントを企画したのは、株式会社ハイの鈴木秀尚代表だ。

マチョ氷 in 丸井錦糸町の様子

 

過去に『マッチョバスツアー』『マッチョカフェ』『マチョ氷』などのマッチョコンテンツを仕掛け、その度に大きな話題をさらってきた鈴木代表に対して、「いくらなんでも“おマチョ見”は訳が分からない」と疑問をぶつけた前編とは打って変わって、後編ではイベント実現にいたるまでに横たわる知られざるハードルについて語ってもらった。

風営法対策を講じながらマッチョをエンタメ化する

――前編の最後で「プロテインが厄介」とお話をされていましたが、保健所の基準が違うため、同じパッケージを開催しようと思っても場所によって実現できないことがあると?

 

そうなんです。我々は毎回マッチョの飲食イベントを開催する際は、事前に保健所に申請をしているのですが、場所によってプロテインを出せたり出せなかったりで。しかも、ポージングをしながらプロテインをかけるので、衛生面の問題を指摘されるケースもあります。そういったことが少なくないので、会社のマネージャーは食品衛生法の免許を取得したほどです(笑)。また、風営法対策として必ずタンクトップを着用し、どれだけテンションが上がっても脱ぐことは厳禁にしています。

 

――食品衛生面だけでなく風営法も絡んでくるのですか!?

 

風営法の厄介なところは、「異性に対して過度なサービスを行うか否か」という部分。過度だと判断されればクロ認定されてしまうわけです。ですから、乳首を見せる行為は、女性に置き換えて考えると過度なサービスに相当しますから、我々も控えるようにしています。ただ! 下着メーカーの広告などで外国人モデルが上半身裸になるのはOKで、日本人モデルではNGというように、全体的に裸の基準がグレーなんですよね(苦笑)。

写真はマッチョカフェ名物の「肉の壁」。ちなみにマッチョバスツアーのお姫様抱っこは、“移動の手段”として旅行業法上問題のない行為にあたるとか。風営法の範疇にないイベントの場合、ボディタッチは可能となるが、株式会社ハイでは「マッチョ29」としてブランド化しているため、全面的にNGにする徹底ぶりだ。

 

――以前、直接ボディタッチをすることが風営法違反に相当する可能性があるということで、マッチョの体に霧吹きで水をかけ、それをハンカチで拭くという英知の結集ともいえるサービスがあったと思います。お客さんに満足してもらうために、ものすごく頭を使っていることはあまり知られていないですよね。

 

結局、霧吹きサービスもストップして、現在では幻扱いです。“過度なサービス”がどこまで相当するか分からない以上、僕らもこんなくだらないことで捕まりたくない(笑)。似たようなことをしている人たちはかなり脇が甘いと聞きますから、気を付けてほしいものです。我々はマッチョへのボディタッチですら全面禁止にしているくらいですからね。食品を扱う以上ベタベタと触れられるのも衛生上良くないことですし、何よりうちのマッチョは「マッチョ29」というグループとしてタレント活動も行っています。対外的なイメージや印象が問われますから、そこはきちんと線引きする必要がある。いかにして法に触れない形でマッチョをエンタメとして昇華し、お客さんに喜んでもらうか……実は結構大変なんですよ(笑)。

趣味としてのマッチョではなく、仕事としてのマッチョ

もともとアメリカでプロレスラーを目指し、帰国後、アイドルを扱う芸能事務所に勤務していたという鈴木社長。その後、同級生であり現・共同代表を務める小式澤郁さんと株式会社ハイを立ち上げ、「バブルサッカー」を輸入するなど、一躍脚光を浴びることになる。株式会社ハイはマッチョに特化しているわけではなく、インターネットでバズらせることを得意とするPR会社であり、さまざまな事業を企画・制作している。

株式会社ハイ代表取締役社長の鈴木秀尚氏

 

会社を立ち上げて最初に取り組んだ事業で大失敗し、年間を通じて月給7万というどん底生活をしていました。現実逃避もあって、ローションでヌルヌル遊んでいたときに、「もう失うものはないんだからローションの大運動会をやりたいな」って。それで誕生したのが「ローション大運動会」でした。赤字ではありましたが、多くの方に楽しんでもらい、何よりメディアの方からのウケが良かった。「ローション大運動会」を通じて、そこでしか体験できないイベントを開催する意義や、話題性などの大切さを学びましたね。

 

――そして、2015年初頭に「マッチョバスツアー」を手掛けることになるわけですが、なぜマッチョを?

 

アイデアはあったのですが、実現させる気はなかった(笑)。ところが、周りの人間が面白いからやってみろと。当時、うちの会社にインターンの大学生が二人いて、「ブームをゼロから作りたい」と言っていて。企画段階で周りのウケが良かったことに加え、熱意のある人間がいたこと、そして外国人や子役の専門プロダクションはあるけど、マッチョの専門プロダクションはないこと……よくよく考えると条件が悪くないと気が付き実現に向けて動き出しました。ふたを開けると驚くほどの大反響で、鉄は熱いうちに打とうと。それで、筋肉で日本を笑顔にするグループ「マッチョ29」を立ち上げるまでに至りました。

 

――その「マッチョ29」は、1121日に赤坂BLITZでワンマンライブを開催するほどの勢いです。なぜマッチョというキーワードにこだわり、話題性が生まれ、そしてお客を呼べると判断できたのでしょう?

 

やはりそれはビジネスとして成立すると思ったからです。2020年の東京オリンピックに向けて健康志向やフィットネス業界が盛り上がっていますよね。体を鍛えるという分野に金脈がある。でも、普通にやっては埋もれてしまう。ですからSNSなどを駆使してバズらせることが大事だと。バズるって要するに口コミじゃないですか。ということは、人に伝えたくなるとか、取り上げたくなるという、人間やメディアの心理を突き詰めていけば話題になる。

――なるほど。マッチョは外食産業であると同時に、興行に近い部分もありますからね。情報はネットで知るけど、体験するためには足を運ばないといけないというのは魅力的かもしれない。

 

「ローション大運動会」などはまさにそうですからね。あと、ビジネスとお金儲けって別物で、ビジネスにはどこか人の役に立つ部分も必要だと思うんですよ。マッチョって不思議な存在で、日本一のボディビルダーなのに、ボディビルだけではメシを食っていけないという現状があります。日本一なのに飯が食えないっておかしくないですか?(笑)

 

――言われてみれば、その通りですね。

 

僕らはマッチョのグレードを上げたいという思いもある。マッチョ29がその先駆けとなって、趣味ではなく仕事として成立させるマッチョの礎を築く。このグループが解散しても、数字を持っていれば、メンバーはパーソナルトレーナーとして引く手あまたでしょう。筋肉でメシを食っていける……そういうマッチョがいてもいいはず。文字通り業界のパンプアップができればなって。そういう熱意を持ったマッチョが集っていることも、話題性とつながっていると思います。

 

――ビジネスには、インフラの要素が必要であると。たしかに、そうなるとなおのこと誰かに伝えたくなりますね。

 

偉そうなこと言ってますけど、単純にバカなことが好きだってこともあります(笑)。現にうちの会社でマッチョに携わっているのは、僕と広報の二人だけですから! 他の社員は別の仕事をしています。でも、僕は面白いし可能性を感じるから続けていきたい。そのためにも、“おマチョ見”が爆死するのは避けたいんです(笑)。赤字は覚悟していますから、どうか皆さん、ここでしか体験できない唯一無二のお月見を体験しにきてください!

 

話題になるためには、“誰かのためになっている”ことが必要なのかもしれない。誰かのためになっているからこそ、他の誰かに伝えたくなる。結果、それが口コミやフェイスブック、ツイッターなどで拡散されていく。もちろん、立てたはいいもののすぐに崩れ去る話題作りもあるだろう。だからこそ、砂上の楼閣よろしく、砂上の話題ではない、本当に話題になるべきことを取り上げ、我々も骨太、否、マッスルな知見を深めなければいけないと痛感した取材だった。

 

【イベント概要】

開催日 2017年9月14日(木)~2017年9月21日(木)
開催時間 10:30~20:30 (最終日は19:30まで)
メニュー おマチョ見団子 500円/マチョ福 500円/プロテインセット 1,500円/マチェキ 1,000円など(すべて税別)

マチョ福

 

 

取材・文:我妻弘崇(アジョンス・ドゥ・原生林)