本当においしいカフェごはんVol.2
カフェ飯と聞くと「サンドイッチやパスタを食べるにはいいけど、ちゃんとしたごはんにはもの足りない」って思っていませんか? それはもう昔の話。「レストランという形にとらわれず、もっと自由な形でお店を持ちたい」とカフェをオープンする新進気鋭のシェフが今増えています。そんな面白いバックグラウンドを持ったシェフたちに、カフェマニアのモデル・斉藤アリスが会いに行く連載企画です。
bricolage bread & co.
第2回は、六本木のけやき坂テラスにあるカフェダイニング「bricolage bread & co.」。国内外でも評価される、あの一流シェフが旗揚げしたお店なんです。
それがこの方、表参道のフレンチレストラン「レフェルヴェソンス」の生江シェフです。レフェルヴェソンスを中心に、大阪のブーランジェリー「ル・シュクレ・クール」、オスロ発のコーヒーロースター「FUGLEN TOKYO」が手を取り合って、このお店が形になりました。
1年半前にここで初めて食べたのが、お刺身のオープンサンドでした。それが本当においしかったんです。いろんな意味で想像を超えてきて、もう衝撃でした。今日はそのおいしさの秘密に迫ります。
生江さん「ヨーロッパで日常的に食べられている大きなパン、サワードウブレッド。日本ではあまり馴染みのないパンだと思います。というのも、おいしい食べ方を知らないという背景があるんだと思います」
アリス「たしかに。バターとジャムを塗るくらいしか思いつかないです」
生江さん「こうやったらおいしくなりますよ、というサワードウブレッドの食べ方を提案させてほしくて、このカフェダイニングをつくりました」
生江さん「たとえばお刺身のオープンサンドは、日本の文化であるお刺身とサワードウブレッドを合わせたもの。季節ごとに、四季折々のお魚で提供しています」
アリス「毎年、夏に登場するパイナップルのタルティーヌも大好きです。アップルパイみたいに甘くて、豆腐のサワークリームとの相性も抜群です」
生江さん「糖度の高い沖縄のスナックパインが、酸味のあるサワードウブレッドに合いますよね。生パイナップルと、バニラで煮詰めたパイナップルの両方をバランスよく使うようにしています」
生江さん「うちでは材料はできる限り、国産のものを使うようにしています。たとえば、エッグベネディクトには、沖縄の『TESIO』さんのコーンビーフを使っています」
生江さん「パンに使っている小麦も100%国産で、すべてのパンに全粒粉を使用しています。その理由は、一つは体の健康、もう一つは日本の農家さんとの顔の見える関係を築くためです。自分たちが買っている材料は誰が作ってくれたものなのか。それをどうやって調理してお客さんに届けるのか。何のために、誰のためにやっているかを大切にしています」
アリス「トレーサビリティをしっかりと把握されているんですね。レフェルヴェソンスは2018年に、国際的な団体・SRA(Sustainable Restaurant Association)から『サスティナブル・レストラン賞』を受賞していますよね。こちらでも、何かそういった取り組みはされていますか?」
生江さん「ブリコラージュは、フランス語でDIYという意味なのですが、欲しい時間や場所があれば自分たちの手でつくろう、という気持ちを込めました。また、ゼロからつくるのではなく、日本にあるいいものを上手に活用してよりいいものを生み出せたらと考えています」
生江さん「たとえばお店で使っているお皿は、もともと九州の蔵に眠っていたものでした。なので中には少し欠けていたり、色あせているものもありますが、安全なものであれば使っています」
アリス「和柄のかっこいいお皿だな、って気になっていました」
生江さん「また、内装には福井の築100年超の古民家から譲り受けた素材を活用しています。たとえば、床材やカウンターの腰壁に貼っている鉄板など。古材ならではの足馴染みの良さを感じてもらえると思います」
生江さん「それから、フードロスにも真剣に取り組んでいるんです。パン屋さんてすごく多い量のパンを捨てるんですよ。でもうちは、廃棄はほぼゼロです」
アリス「それはすごい! どうやっているんですか?」
生江さん「まず売れ残ったパンは、スライスしてラスクになります。レジ横で売っているんですが、あっという間に売れてしまいます」
アリス「あ! このラスク、私も大好物なんです。一つの袋にチョコとか柚子とかいろんな味が入っていて、楽しいんですよね〜」
生江さん「あとはサンドイッチを作る時に切り落としたパンの耳を使って、ビールを造っています」
アリス「え!?」
生江さん「パンから作った酵母でビールを発酵させるんです。ほんのりパンの香ばしさを感じられて、こちらもとても人気です」
アリス「パンがビールに変身しちゃうなんて、本当に驚きです」
生江さん「廃棄を減らすために、余ったものを何となく使うのではなく、パンだった時よりも更においしくアップデートさせるのが、私たち料理人の腕の見せ所だと思っています」
生江さん「僕は料理人として、今年で28年目を迎えました。このカフェは、僕がこれまで培ってきた経験をより多くの人に伝える場になればいいなと思っています」
アリス「ファインダイニングが非日常だとすると、ここはより日常的な場所として使えますよね」
生江さん「日常的に食べるパンの中でも、高い方だとは思うのですが、月1回、あるいは週1回、本当においしいパンが食べたいなと思った時に、無理なく使っていただける価格帯ではあるかなと思っています」
世界でもトップレベルのシェフとしてキャリアを築いてきた生江さんだからこそ、生み出せるおいしさ。それを1,000円台で楽しめるなんて、夢のような話です。そして、フードロス問題などソーシャルな取り組みにも力を注いでいることを知り、ますます大好きになりました。
※価格はすべて税込。