カフェ飯と聞くと、「サンドイッチやパスタを食べるにはいいけど、ちゃんとしたごはんにはもの足りない」って思っていませんか? それはもう昔の話。「レストランという形にとらわれず、もっと自由な形でお店を持ちたい」とカフェをオープンする新進気鋭のシェフが今増えています。そんな面白いバックグラウンドを持ったシェフたちに、カフェマニアのモデル・斉藤アリスが会いに行く連載企画。そのおいしさの秘密に迫ります。
本当においしいカフェごはんVol.1
HOME PLANET
第1回は、2020年11月に吉祥寺にできたカフェバー「HOME PLANET」。友達に誘われて今年5月に初めてお店を訪れたのですが、その滋味深いおいしさに感激!
大柄でいつも笑顔のジョージさん、一目見たときから「この人はおいしいものを作ってくれそう!」と確信していました。
最初に私が食べたのは、おばんざい定食。どれもシンプルなんだけど、一つ一つが記憶に残るおいしさでした。
「おばんざいの内容は、スタッフみんなのノウハウをぶつけ合って更新しています。料理でセッションしている感じです」とジョージさん。
「日本の食材なのでどれも和の要素が入ってくるんですけど、アウトプットの形は和でも洋でもない。たとえば、ひじきを洋風に味付けにしてみたり、紫キャベツなんだけど、おばんざいらしさがあったり」
そう話すジョージさんは、イベントの企画制作や空間デザイン、音楽レーベル「FABIENNE(ファビアン)」を運営している背景があり、アートと音楽の領域で活躍してきました。
写真はこの日、調理を担当していた元俳優で絵描きの水野亜美さんが考案した日替わりパスタ。
「うちで働いているスタッフは、みんな元々アーティストなんです。ミュージシャンや映像作家、絵描きをしながら働いてくれています。だから、みんな料理をアートとしてとらえながら作っている感覚はありますね。料理も音楽もハーモニーが大切です」
メイン料理が和の料理なのかと思いきや、スパイスカレーやトルコ・イスタンブールの屋台料理「チグカフト」というのがありました。チグカフト? 何だろう、これ? 日本ではまず見ないであろう、この料理。日本では「HOME PLANET」でしか出していないかもしれない、らしい。
「チグカフト」とは、ブルグルという小麦をザクロジュースでふかしたタネに、スパイスとトマトソースを混ぜてトルティーヤで包んだ料理、とのこと。爽やかでおいしい! 音楽レーベルでヨーロッパツアーをしているときにジョージさんが一緒に旅をしていた仲間から教えてもらい、自己流でアレンジを加えたものだそう。
ジョージさん「初めて食べたときめちゃくちゃおいしいし、体にもいいし、食べて体が気持ちいい感覚があったんです」
アリス「食べて体が気持ちいいって?」
ジョージさん「口の中だけでおいしいのではなくて、細胞が元気になる感じ。体全体が喜ぶような、そんな味をつくりたいです」
アリス「ヴィーガンとかベジタリアンとかではなく、実際に食べてフィーリングでいいと思ったものを作るということですか?」
ジョージさん「そうです。シンプルにおいしいと思えるものがいいなと思うし、食べる人によって色んなとらえ方があったらうれしいです。それをヴィーガンとかローフードって言ってしまうと、料理に対するイメージを一つの方向に断定してしまうような気がしていて。なので、僕たちは言葉で定義しないんです」
アリス「なぜイベントや音楽の世界から、飲食にチャレンジしようと思ったのですか?」
ジョージさん「コロナで飲食店が開けられないときに、インターネット上に仮想都市〈デジタル吉祥寺村〉をつくったのがきっかけです。いつもカウンターに座って頼むようにお店のスタッフに料理を注文すると実際に画面にいたスタッフが自宅に届けて、画面上で常連さんたちと交流しながら飲食できるというものです」
アリス「え! すごい。画面上でいつものお店に通えるなんて画期的。料理はどこで勉強されたんですか?」
ジョージさん「料理の原点は母と営んでいたホテルです。そこでは決まったメニュー表はなく、お客さんからオーダーされたものを作っていました」
アリス「じゃあ料理はお母さんに教わったんですね」
ジョージさん「そうですね。それと自分が大好きな料理人であり友人がいるのですが、なかでもささたくや氏には強い影響を受けました。彼は料理をしない料理教室をやっているんです」
アリス「料理教室なのに? じゃあ何をするんですか?」
ジョージさん「想像の中で味をコーディネートしていくんです。目をつむって、畑にいるのを想像するところからスタートします。エゴマの葉を持ってきて、次に塩を足して、レモンを足して。と、こんな風に味覚を一つ一つ頭の中で辿っていくんですよ」
アリス「想像のなかで料理をするんですね」
ジョージさん「はい。そして最後に想像した料理に近い料理をみんなで食べて終わります。このときに得た感覚が今の料理の考え方のヒントになっています。決まったレシピはなくて、その日の食材や天気を見たり、食べた人にどんな気持ちになってほしいかを想像したり。お店のスタッフにも、その感覚を共有しています」
アリス「健康にいい料理って、だいたい味が薄いじゃないですか? でもここの料理はどれも味がしっかりしていて、それがすごくいいなって思いました。添えてあるきゅうり一つとっても、ちゃんと漬物になっていて」
ジョージさん「うちはナチュラルワインやメスカルも出しているので、定食としてはもちろん、それぞれつまみにもなるように心がけて作っています」
ジョージさん「特に吉祥寺は飲むときに体に優しいお料理を出す店が少なくて、野菜を使った料理も少ない。焼き鳥、ラーメン、タイ料理などそっち系のおいしい先輩方のお店はあるんですけどね。ただ、サラダはあるけど、一手間加えた野菜料理でちょろっとつまめる感じが少ないな、と僕が生活していて感じます。それを補う店を吉祥寺につくっていけたらいいなと思っています」
アリス「体によくておいしい上に、吉祥寺価格というか、リーズナブルなのもうれしい!」
ジョージさん「体は日々の食事が蓄積されて出来上がっていますよね。だから値段設定は高すぎず、街の人たちがデイリーに食べられる価格を意識しています」
デザインとアートの狭間で旅をしてきたジョージさんだからこそ、たどり着いたおいしさ。その秘密を少し解明できた気がします。音楽も食もハーモニー。ジャンルにとらわれず、セッションしていくことで、新しく生まれる個性がそこにはありました。