予約すら困難。だからこそ人生観が変わるかも

つづいて、全国を食べ歩く川井さんが東日本と西日本から二つずつ「いつか行ってほしい」という感動必至の名店をピックアップしていただきました。

日本料理の真骨頂を味わえる名店「もりかわ」(赤坂)

まずは東京を代表する一軒、赤坂の「もりかわ」から。

「電話番号はもちろん、住所も非公開。僕はたまたま知人のお誘いで行けましたが、行きたくても予約すら難しい店の一つです。店内には緊張感があり、撮影はNG。ひたすらに食と向き合う空間です」

川井 潤
「もりかわ」外観。料理は撮影禁止   出典:川井 潤さん

そこはピシッと張り詰めた空気がただよう、格式の高さに圧倒される世界。そして料理のおいしさは別格。「東京を代表する、日本料理の真骨頂を味わえる名店と言えるでしょう」と川井さん。

「ちょっとやそっとでは出せない、とにかくレベルが高い料理のオンパレード。走りや名残を駆使して、旬の素材そのもののおいしさをしっかり伝えてくれます。そして、そのためなら手間も調理時間も惜しまない。日本料理は全部そうですが、食材の使い方がきわめて上手く、そのトップクラス。価格も安くないですが、ものすごく重大なご褒美の時に、今一度訪れたいと思う一軒です」

サバ寿司がおいしすぎる「前田」(祇園)

次は京都・祇園の「前田」。京都にあまたある、川井さんが大好きなお店の一つだそうです。

「やはり予約は取りづらいですが、ハイレベルなお店のなかでは取りやすいお店です。ある時電話したら大将が出てくれて、しかも大将が折り返してくれたことも。そういう気さくなところ、堅苦しくないところもお気に入りです。撮影はNGですけどね」

川井 潤
「前田」外観。中の撮影は禁止   出典:川井 潤さん

聞けば、ここには川井さんの人生観を変えた料理があるとか。

「サバ寿司です。以前は苦手だったんですけど、ここで食べたサバ寿司はおいしすぎて驚かされました。ほかにも日本海や関西各地を中心に、京都に集まる恵みを生かしたご馳走の数々が味わえます。京野菜もふんだんに使いますし、京料理の神髄が楽しめるお店と言えるでしょう」

正統派料理の中に隠された遊びも深い名店「本湖月」(難波)

関西のもう一軒は、大阪から選出。難波にある「本湖月(ほんこげつ)」は、設えや器などを含めた美しさで日本食の本質を体験できる名店とか。

「こちらは、写真の撮影は禁止。芸術品のような料理が素晴らしいんですけどね。目に焼き付けるしかないですね。というのも、ご主人が骨董品のような器もコレクションしていて、それを毎月替えて盛り付けるプレゼンテーションが魅力のひとつ。料理はもちろん、器も含めて旬を表現する様式美がここにあります」

お客様による料理の撮影は禁止されています。写真:お店から

料理も格別。たとえば3月は、桃の節句。ひな祭りにちなんで、さまざまな貝を駆使した会席を提供してくれました。いっぽう、10月になれば丹波や和歌山産の松茸を柱にした、秋の味覚のご馳走に。

「基本的には正統派の日本料理ですが、遊び心も見え隠れ。たとえば、煮こごりに見立てたゼリー液に三ツ矢サイダーを静かに入れ、ベビーキウイ、シャインマスカット、カルピスで仕上げる甘味など。この柔軟なバランス感覚も素晴らしいですね。とにかく日本料理とは何かを教えてくれる、大阪を代表する日本料理の名店です

ここを目当てに秋田に行きたくなる「日本料理 たかむら」(秋田)

そして最後の一軒は東北から。秋田にある「日本料理 たかむら」を紹介してくれました。店主高村宏樹氏は、正統派江戸料理を継承した数少ない料理人であり、ここは、今となっては稀有な江戸料理の店。

「太古八」「八百善」「なべ家」。東京にあった江戸料理の店の多くがなくなり、今や「たかむら」は貴重な存在。その味を求めて全国から食通が秋田を訪れると言います。

「古風な料理かと思いきや、むしろクリエイティブ。江戸と言っても江戸前とか東京の食材ということでもなく、地元秋田をはじめ全国の食材を駆使し、丁寧に手を加えながら驚きにあふれる料理を提供してくれます」

写真:お店から

献立は、本格日本料理をベースにコロッケや和風坦々麺があるなど、自由で独創的。どうやら江戸料理は、日本料理の本質は守りつつも場所や何かの型にはまったものではなく、“粋”であることが大切なようで。

「江戸料理と言いつつ、高村さんは自由自在に秋田食材も使い中華のタレまで使う。もちろん出汁の使い方などは修行先の『太古八』で学んだものが基本になっています。

すべてがおいしいのはもちろんのこと、キビキビとした心地よい接客も好印象。江戸料理と言っても、基本は江戸時代にあった粋な生き方ができているか、店だけでなく客側も問われている、そう言った空気が面白いんです。

それでいて、価格は1万円程度からとリーズナブル。紹介制、会員制なのですが、ぜひグルメな会員と知り合って、訪れてほしいです。ここを目当てに秋田に行きたくなる、東北を代表する日本料理の名店ですね」

今回ご紹介したお店はなかなかハードルが高いものの、まずは作法を参考に、予約が取りやすい店から慣れるのもいいでしょう。次の記事では、川井さんおすすめの「日本料理入門に最適な7軒」をご紹介します! そしていつかチャンスが訪れたら、満を持して本稿の4軒にトライしてみてください。

監修/川井潤 取材・文/中山秀明

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