緊急事態宣言発令に伴う営業時間短縮の要請を受け、ランチタイム営業を開始した飲食店が増えている。なかには、これまでディナータイムやコースのみの提供で、少しハードルの高かった人気店なども。そこで、当連載でも臨時特別企画として、フードライター・森脇慶子が注目する店のランチメニューを全4回にわたり紹介。今回は、東京・東銀座の日本料理店「志翠」に注目!
【森脇慶子のココに注目 臨時特別号Part4】「志翠」
去年10月、12年間続けた地元静岡の店を閉め、念願の銀座進出を果たした前田公志さん。京都の老舗旅館「炭屋」を始め、12年にわたり関西の和食店で修業を積み静岡で独立。地元で根強い人気を誇っていたものの、45歳にして再度自分の実力を試してみたいと、新境地へチャレンジ。ここ日本料理店「志翠」(こうすい)をオープンした。だが、出店した矢先の緊急事態宣言。そこで急遽始めたのが、予約制のランチとテイクアウト。これがなかなか魅力的なのだ。
幻の和牛ともいわれる宮崎の尾崎牛をふんだんに使った「尾崎牛のすき焼き御膳」と故郷静岡で水揚げされるミナミマグロを使った「焼津のミナミマグロ御膳」の2つがそれ。いち押しは、「尾崎牛のすき焼き御膳」。今年早々に、前田さん自ら宮崎まで赴き、自身の目と舌で納得してきただけに思い入れもひとしおだ。
「尾崎牛は、脂の融点が28℃と低く、サシが入っていても全くしつこくない。健康な牛であることもおいしさの理由だと思います」と、前田さん。すき焼き御膳では、内もも肉を使用。赤身ながら程よくサシが入り、酒濃口醤油、ザラメで作る割下との相性も上々。鉄鍋に入り、アツアツで登場するその一枚を頬張れば、赤身ならではのコクのある旨味にキリリとした甘味がバランス良く絡み、しなやかに舌に纒わる食感には思わず頬が緩む。
しかも、そのざくがまた手が込んでいる。ごぼうはササガキにして実山椒で炊き、たけのこは含め煮と別々に仕立てているのだ。まさに料理屋ならではの細やかさだろう。口取り代わりに付く時雨煮も、尾崎牛のすね肉を10時間余りも煮込んだ力作。また、卵も宮崎の平飼い地鶏の初卵を使用。小ぶりながらも栄養の詰まった濃厚な味わいが特徴だ。土鍋で炊きたての白飯と共にかっこみたい。
これに先付けの桜海老の摺流しとデザートが付いて6,000円。ちなみにテイクアウトのすき焼き弁当も同じ内容(摺流しとデザートは付かない)で5,000円。
一方、「焼津のミナミマグロの鉄火御膳」は静岡の食材のオンパレード。マグロのほか、静岡・用宗(もちむね)漁港の釜揚げしらすに、卵焼きは芝海老ならぬ桜海老入り。箸休めには静岡名産葉ワサビのツンツン漬け(醤油漬け)を添えるといった塩梅だ。
主役のミナミマグロは背トロ、赤身、ネギトロ巻とバラエティ豊かに変身。なかでも小技を利かせているのはネギトロ巻だ。炭火で軽く炙って巻くことで香ばしさがプラスされ、ありがちな脂っこさは皆無。鼻腔を擽る薫香が胃袋を刺激すること請け合いだ。
マグロの造りで一杯楽しみ、最後にご飯を釜揚げしらすと自然薯でいただくもよし、マグロをご飯にのせて山かけスタイルで食べるも良し。思い思いの食べ方を楽しめそうだ。こちらも、先付けの桜海老の摺流しとデザートが付いて6,000円。お重に綺麗に詰められたテイクアウトは5,000円。どちらも前日までに要予約。
※店内、テイクアウトともに価格はすべて税抜