グリーン、ワイン、本、料理、雑貨、心ときめく何かがきっとここにある!

駅高架下の施設が完成してからさらに活気づいた中目黒だが、2019年10月、目黒銀座商店街に出現したのが、ひときわ目を引く洒落た空間「the GARDEN」である。

観葉植物があふれるエントランス。これらのボタニカルを手がけているのは、京都祇園「エルメス」のランドスケープデザインで話題騒然となった完全提案型・無店舗型花屋「MAESTRO」が初めて出した店「quartetto」だ。

お店の左側には小さな図書館のような「書房 石」。壁一面の書棚には「BACH」ブックディレクター幅 允孝さんが選んだ“未来永劫読み継がれる本”が並ぶ。雑誌、文庫、写真集、マンガとジャンルを問わず、「言葉を読み込む」「もの派」「食べる」「芸術を巡る」などのユニークな34のカテゴリーに分けられ、非常に興味をそそられる。

次に目に入ってくるのはワインショップ「HIBANA NAKAMEGURO」。今や人気絶頂の自然派ワインをセレクトしているのは「自然派イタリアワインの伝道師」と称される紹介制ワインバー荒木町「HIBANA」店主の永島 農さん。自然派好きにはたまらないワインが常時120種ほど揃っている。

ひとつの空間でそれぞれの“自分時間”をいつでも楽しめる

1階ではグリーンを愛でながらテラス、テーブル、カウンターで購入した店内の本、ワインとともに「trattoria in the GARDEN」の軽いつまみからメイン、デザートまでをアラカルトでいただける。

 

昼下がりに自家製のデザートと「猿田彦珈琲」のオリジナルブレンドを友人と楽しんだり、選んだワインとともにトリッパやパスタを頬張ったりしながら、本棚の上のデジタルサイネージに流れる本のアフォリズムを眺めていると、時の経つのを忘れてしまう。

赤ワインにぜひ合わせたいのが「ピエモンテ州伝統の仔牛の冷製“ヴィテッロ トンナート”(1,300円)」。しっかりと肉のうまみを感じる薄切りの仔牛肉をマイルドなツナソースにディップする。ケッパーベリーの酸味がアクセントの絶品アンティパストである。

地下に広がるのはシックな隠れ家リストランテ

地下へ降りると1階のナチュラルな雰囲気とは打って変わってシックでハイセンスな「ristorante scintilla」がある。火花から立ち上がる細い薄煙をイメージしたブルーグレーの壁、ゆったりとしたテーブルの配置、美しく映る照明、隙がひとつもない完璧な空間なのになぜかとても居心地が良い。カウンターは日常使いに、奥にある8席までの個室は特別な日に利用したい。

「サバティーニ」「ダノイ」「フェリチタ」などグルメ絶賛の名店で腕をふるってきた武笠裕一シェフが提供するのはしっかりと骨太なイタリアの郷土料理をシンプルに洗練させたオリジナリティあふれる料理だ。

心躍る魅惑のコースは7品9,000円と9品13,000円の2種類

こちらでは3種のメインからひとつを選ぶ7品の「stagioneコース」と、その日に入荷した最上の食材で作る9品から成る「シェフのお任せコース」がある。

最初に紹介するのは武笠シェフの思い入れがたっぷりの「メッツァルーナ」。メッツァルーナとはイタリア語で「半分の月」 という意味で、ラビオリを餃子状にした形のショートパスタ。こちらでは、ラビオリではなく、なんとマグロを使っている。赤身のマグロをしっかり塩で締め、2日間ほど乾燥させると、もちっとした食感に変わる。それをたたいて薄く伸ばし、水牛のリコッタチーズやバジルペースト、アーモンドを混ぜた餡を中に入れたシェフオリジナルレシピ。口にすると最初にふんわりとしたチーズが少しだけ顔を出し、そのあとは皮と一体になって喉を通る。ソースなどまったく必要としない異次元のおいしさだ。

キノコペーストとポルチーニの「トルテリーニ」には牛すじと野菜で作ったソースをかける。イタリア・エミリアロマーニャ地方独特のしっかりとした味わいと、目の前で削られた香り高いトリュフとの調和が見事なキノコ尽くしのひと皿だ。

メインは「ブルターニュ産のフィレキャネットと北上野菜のアロスト」だ。野性味あふれる鴨の持ち味をストレートに表現した火入れ。それに呼応するように生き生きとした野菜が彩りを添える。そして主役の鴨に匹敵するおいしさだったのが、可愛らしいミニサイズの「鴨フォアグラバーガー」である。栗粉のバンズのほんわかした香りと、イチジクをバルサミコ酢で煮詰めたジャムの甘酸っぱさがフォアグラにぴったり! ひとくちサイズでなければ実現しない三位一体の味は感動に値する。

ここには本が好きで立ち寄ったらおしゃれなラベルのワインを発見したり、コーヒを飲みながらグリーンを眺めていたら家に置きたくなったり、レストランで使っている食器が買えたりと、知らなかった世界が広がりワクワクすることがあふれている。

 

エントランスからレストランまで、どこかの邸宅にいるかのよう。こんな家でこんな風に過ごせたらという時間が体験できる。こうやって一日中、思い思いの楽しみ方ができるのが「the GARDEN」の魅力だ。

 

※価格は税別

撮影:森山祐子

取材・文:高橋綾子