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衰えるどころかヒートアップし続ける“肉食”ブーム。ステーキに焼肉、ありとあらゆる肉メニューがあるけれど、平成最後になる今、日本が世界に誇る肉料理「すき焼き」で締めくくりたい。そこで今回日本における和牛の求道者であり伝道師、小池克臣さんをお招きし、すき焼きと牛肉にまつわるおいしい歴史から、肉解説、小池さんが愛してやまないすき焼き屋までを全4回にわたりご紹介! 第3回は小池さんがおすすめするすき焼きのお店を解説と共にご紹介。ブックマーク必須!
第2回 肉を愛するなら「牛銀本店」に死ぬまでに一度は訪れるべき理由
第3回 小池さんがおすすめする“すき焼き”店
第4回 食べログマガジン連載陣がおすすめする“すき焼き”店
第3回
和牛の伝道師が持つ“すき焼き”リストを知りたい!
「焼肉店ですき焼き風の肉を出す店は増えていますが、専門店となると、どうしても老舗に足が向いてしまいます。牛肉料理の草分けですから、老舗に敵う店はないと思います。」(小池さん)
- 和田金|三重県松阪市
- 吉澤|銀座
- 人形町今半 本店|人形町
- 太田なわのれん|横浜市中区
1.自社牧場で飼育した松阪牛を味わえる、松阪でいちばん古い専門店
和田金|三重県松阪市
出典:**まろん**より
“松阪に金銀あり”と言われる牛肉料理の名店は、“銀”が「牛銀本店」、“金”がいちばん古くから続く、ここ「和田金」だ。創業は明治11年。東京の料亭で料理の研鑽を積んだ初代、松田金兵衛が、故郷に戻って開いた牛肉店がはじまりで、5年後、現在に続く、“鋤焼き”店を開店した。
「『牛銀』同様、肉のおいしさが別格です。しかも、信じられないことに自社牧場を持っていて、兵庫県産の雌の素牛を厳選。じっくりと時間をかけて、昔ながらの松阪牛を育てています」と、小池さん。嬉野黒野町に和田金牧場を開設したのは、昭和40年。店で出される肉は、すべてこの牧場で肥育されたもので、“寿き焼”は、南部鉄器の専用鍋に厚切りにした牛肉をのせ、上白糖、たまり醤油、ほんの少しの昆布だしを入れて、ゆっくり火を通すのが特徴だ。「無理にサシを入れることなく、おいしさを追求した肉は、たまり醤油に負けない濃厚な味わいです」(小池さん)
2.東京で精肉を買うならここ。松阪牛ブランドを育てた昭和2年創業の店
吉澤|銀座
出典:Slapshotさん
「松阪牛というブランドを育て、確立したのが、『吉澤』です。その松阪牛をはじめ、近江牛、米沢牛、兵庫の田村牛など、じっくり育てた、ほんとうにおいしい黒毛和牛を扱っていて、東京で牛肉を買う時は、ほぼここです」と、小池さん。すき焼きやしゃぶしゃぶなどが楽しめる「吉澤」は、昭和2年、精肉の卸しとして銀座の地に誕生した。初代の吉澤一一(かずいち)氏は、創業のころから、当時はまだ伊勢牛と呼ばれていた三重県松阪市界隈で肥育された牛を、東京食肉市場へ汽車で運んで商いをし、松阪牛ブランドの発展に大きく貢献したという。
現在扱うのは、生産者や生産年月、血統などの厳選した黒毛の銘柄牛で、しかも、脂の融点が低く、しつこさの少ない雌牛のみ。これらを水冷式の冷蔵庫で骨つきのままじっくりと熟成させ、しっとりと、深い旨みが出てきた頃合いを見計らって出している。小池さんが肉を購入するのは、レストランの隣にある精肉コーナー。ショーケースには、生産者などが書かれた肉好き垂涎の銘柄黒毛和牛が並んでいる。
3.古さをまったく感じさせない、時代とともに進化してきた老舗
人形町今半 本店|人形町
出典:グルメなusagiさん
明治28年に牛鍋屋として創業し、のちに浅草に移った「今半」の暖簾分け店として、昭和27年に開業。かれこれ60年ほど前、客からのリクエストで誕生したという二段のすき焼き弁当が評判を呼び、人気店に。時代を先取りしたこの弁当は、いまも続く看板商品だ。「老舗なのに、古さをまったく感じさせません。時代に合わせて、火の入れ方、味付けなどを少しずつ変えているんじゃないでしょうか。昔ながらのすき焼き専門店は、肉に火を通し切ってしまう店が多いんですが、ここはレアに近い焼き加減なんです」と、小池さん。
すき焼きは、鍋にまず割り下を入れ、温まったところで肉を入れて煮る関東風で、銘柄や生産地、サシの見栄えなどにこだわらず選んでいるという黒毛和牛のクオリティも高い。「時々、東京食肉市場に出向きますが、こちらの店はいい肉をせり落としていると思います。東京で肥育期間が長い田村牛を扱っているのも、『吉澤』とここぐらいではないでしょうか」(小池さん)。ちなみに、1月24日の牛肉記念日には、食べ放題を行っていて、毎年参戦する小池さんにとっては、勝負の日なのだとか。
4.角切り肉と味噌味。ほかでは出合えない元祖の味わい
太田なわのれん|横浜市中区
出典:紺青の海(4)さん
江戸末期に開港した横浜は、欧米人の食文化がいち早く広まった土地。ここで牛肉の串焼きを売っていた初代、高橋音吉が、明治元年に開いたのが、牛鍋屋の元祖として知られるこの店だ。「浅い鍋に、角切りの肉、味噌の味付け……。創業から続く牛鍋の形はほかにない独特のもので、やはりはずせません」と、小池さん。
イノシシの牡丹鍋にヒントを得て、誕生したというここのすき焼きは、角切りにした肉を鍋に並べ、江戸甘味噌を使った味噌だれをのせ、長ネギを刺し、薄めの割下を加えて煮るという独特のスタイルだ。そもそもは臭み消しの意味もあったという味噌や長ネギだが、口に運ぶと、濃厚な味噌と肉汁がひとつになって、ほかでは得難い味わいだ。ちなみに、薄切りではなく、角切りにした肉は、初代が大酒飲みで、薄切りなんて面倒だとばかりにぶつ切りにしていたことに端を発しているのだそう。
〈プロフィール〉
小池克臣(こいけ・かつおみ)
横浜の魚屋の長男として生まれるも、家業を継がずに、外で、家で、肉を焼く日々を送る。焼肉を中心にステーキやすき焼きといった牛肉料理全般を愛し、ほぼ毎晩、牛三昧。さらには和牛そのものの生産過程や加工、熟成まで踏み込んで研究を続ける肉の求道者。著書に『肉バカ。No Meat, No Life.を実践する男が語る和牛の至福』(集英社刊)。公式ブログ「No Meat, No Life.」。
文:齋藤優子