【噂の新店】無二 焼鳥YAMATO

「僕、焼き鳥は独学なんですよ」。そう語るのは、「焼鳥 YAMATO」のご主人・川口伸さん。“焼き鳥界の変態”の異名を持つ、焼き鳥職人として練達の“鶏師”だ。
焼き鳥は独学でも、鶏に関してはエキスパート。鶏肉との付き合いは、数十年に及ぶ。というのも、三重出身の川口さんは実家が鶏の卸業。それゆえ、幼少期から鶏肉の扱い方や仕込み、解体を学んでいたのだ。20歳になる頃には、鶏職人として高い評価を得るほどになっていたという。

その川口さんが、焼き鳥の道に進んだのは25年前、30歳のときだ。「お客様と話すことが好きだったので、よりお客様と接点ができる仕事をと思って焼き鳥職人に転身しました」と川口さん。2001年に最初の店をオープン後、2010年に北新地へと移転。オリジナル性の高い“唯一無二”のコースで焼き鳥界に新風を巻き起こしたことは、周知の事実だろう。

現在、香港、シンガポール、北京、アメリカなど世界への発信にも積極的な川口さんが、今回、満を持して東京へと進出。この9月、麻布十番に新店舗を構え、早くも業界の注目を浴びている。商店街に立つビルの2階にオープンした東京店は、息子の悠さんと二人三脚。有名デザイナーが手がけたという内装はスタイリッシュながら、2人のやり取りから生まれるアットホームな雰囲気が、尖りすぎない絶妙な空気感を醸し出している。

独学だからこその枠にとらわれぬ発想で世の焼き鳥ラバーをざわつかせたオリジナルコースはここでも健在。否、よりパワーアップしたといってもいいだろう。諸般の事情により“エトフェ”の鶏こそ無いものの、乳酸発酵液に漬けてから焼くささみや88℃のスチームコンベクションで1時間半ほど真空調理した鶏皮等々その変態ぶりはますます炸裂。

とはいえ、何もことさらに奇をてらっているわけでは決してない。皮にそれほど手間をかけるのも「脂の強い銘柄鶏の皮をどうしたらおいしく食べられるか。」を熟慮したがゆえ。ただ物珍しさだけで鶏を追い求めるのではなく、一般的な銘柄鶏にも価値を見いだし目を向ける。決して地鶏ファーストではない、川口さんの本質的な鶏偏愛ぶりこそ、変態たる所以。鶏によって緩急自在にアプローチを変えられるのも、鶏師として長年鶏を捌き続け、鶏のノウハウを一から知り尽くした川口さんならではだろう。

伊勢赤鶏のささみを乳酸発酵液に3〜5日漬けるのも、足りない旨みを補い、水分量を増やして柔らかくするため。「淡白なささみは、フルーツと相性がいい」というのが川口さんの持論。それゆえ、ネーブルオレンジを巻いて焼き、仕上げに酢橘のキャラメリゼを添えて提供。一口で頬張れば、キャラメリゼした香ばしさとフルーツの甘酸っぱさが渾然となってささみに寄りそい、焼き鳥というよりフレンチの一皿を食したときのような余韻が残る。不思議なおいしさだ。

コースでは、このほかにも、イワシの魚醤でマリネしたモッツァレラチーズに凍らせたトマトを削りかけた前菜“YAMATO風カプレーゼ”や、鶏もも肉の照り焼きを挟んだ“チキンバーガー”などが、焼き物の合間にお目見え。舌と目を飽きさせない。

焼き物は最初に比較的スタンダードなものが4種ほど出て、後半はややアバンギャルドな串で構成、新たな焼き鳥の世界を楽しませてくれる。油分のない砂肝はもも肉の皮と交互に刺すことで脂分を補い、肩回りの肉など端材の肉を一串に数種類刺した“ばくだん”といったサスティナブルな串もあり、いただいた命を余すところなくいただこうという思いが伝わってくる。

一見、イノベーティブなようでいて、鶏肉と焼き鳥のあるべき姿を常に念頭に置くその料理には、根っことなるべき鶏への思いがある。11月には、世界中でも、口にできるのはここだけという希少なニューハンプシャー種の鶏も入荷するとのこと。「ピュアな脂のおいしさが持ち味の鶏なので、シンプルに焼きで出すつもりです」と川口さん。唯一無二の味がまたひとつ増えそうだ。




