〈食べログ3.5以下のうまい店〉

グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回は、食べロググルメ著名人のフードライター・森脇 慶子さんがおすすめする、プーリア料理に特化した名店をご紹介します。
プーリアの郷土料理を心ゆくまで堪能できる
巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!
食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。
食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。
点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

北から南まで細長いブーツのような形をした、イタリア共和国。だが、中世以降1861年に統一されるまでは幾多の国に分かれてきた歴史を持つイタリア料理は、各州にそれぞれ特有の食文化がある。トスカーナやシチリア、ピエモンテ等々の料理が、日本では比較的お馴染みだが、今年の1月、珍しいプーリア料理に特化したレストランがオープンした。半蔵門駅から程近い「カーサビアンカ」がそれだ。

「イタリア半島のちょうどブーツの踵に位置しているのがプーリア州。この地方の料理は、素朴だけれどどこか温かみがある。また、バターをあまり使わず、オリーブオイルを多用するせいか、その分、後味が軽やか。気取りのないところも好きですね」と熱く語るのが、プーリアラバーの本間道夫シェフ。ここ「カーサビアンカ」の料理長だ。

大学時代のアルバイトがきっかけでイタリア料理への道に進んだ本間シェフ、最初の修業先は「松屋銀座」にあった「イ・プリミ」。フィレンツェの名店「エノテカ・ピンキオーリ」の姉妹店としてオープンした同店で3年半ほど基礎をしっかり学んだ後、何店舗かで修業。27歳の時に入った田町のカフェレストラン「ヌースカフェ」で出会った高橋誠シェフの一言が、今の本間シェフの料理を方向づける。曰く「一つの皿に幾つも食材を盛り込むな」。そう、主役は一つ。意味なく、見た目や彩りだけで余計な食材をのせる必要はないということを、高橋シェフから学んだという。

そんな本間シェフだからこそ、シンプルなプーリアの料理に心引かれたのかもしれない。その後、六本木「ルオーゴ」を経て麹町「ピエトラ・ビアンカ」に。この間、初めてのイタリアへ。「ローマ、ナポリ、シチリア、プーリアと回った中で、一番引かれたのが、プーリア州でした」と本間シェフ。一度帰国した後、再度渡伊。プーリアで約3カ月間研修し、現地の空気を肌で感じ、目と舌にその料理を刻みつけた。「ピエトラ・ビアンカ」から紆余曲折ある中で、より本格的にプーリアの料理と向き合いたいと始めたのが、ここ「カーサビアンカ」なのだ。

それゆえ、メニューもプーリア一色。“プレディファーベと産地直送の野菜”、“サーニェンカンヌラーテ猪肩ロースのブラチョーレ”、“チステルニーノ風ボンベッテとマッレット”等々、長年イタリア料理を食べてきた筆者も、初めて目にする料理に食欲と好奇心をくすぐられることしきり。本間シェフによれば、アドリア海とイオニア海と2つの海に面したプーリア州は、日本と同じく魚介類を生食する習慣があるとか。

マグロもその一つで、ここでは、あのカリスママグロ仲卸「やま幸」のマグロを使用。大胆にカットした赤身をオリーブオイルとコラトゥーラ(イタリアの魚醤)で和えただけながら、味は逸品。赤身のネットリとした食感とコクは、さながらイタリア風“ヅケ”。つい後を引くおいしさだ。

また、プーリアらしい一皿といえば“プレディファーべ”。ファーべとはそら豆のことで、乾燥天豆を軟らかく茹でてピュレ状にし、塩とオリーブオイルのみで味付けしたもの。プーリア州の伝統的な郷土料理で、さまざまな野菜をこの天豆のピュレに付けて食べるのがプーリア流。イタリアの穀倉地帯、ヨーロッパの菜園とも呼ばれるほど農業が盛んなプーリア州だけに、野菜のおいしさはピカイチ。それも水はけがよくミネラルに富んだ赤土の土壌と地中海の輝く太陽、そして海風のなせる技。力強く味の濃い野菜が育つ所以だろう。それゆえ「カーサビアンカ」でも野菜にはとりわけ気を配り、千葉県四街道市にある農園「キレド」の野菜をメインに、長野県東御市の「アグロノーム」、函館の「清和の丘農園」等々から野菜を取り寄せるこだわりよう。いずれも化学肥料や農薬に頼らず、土壌の持つ自然の力を引き出した有機農法で育てた元気な野菜ばかりだ。これらの中から常時8種ほどを、四季に応じて盛り合わせている。
ちなみに今回は、ナスはトマト煮、ズッキーニやシシトウ、とうもろこし、ケールはソテー、カボチャのツルは茹で、赤玉ねぎはマリネ、赤オクラはそのまま生で。と野菜それぞれに見合った調理を施している。野菜のおいしさを満喫できるはずだ。

さて、迷いに迷ったのが手打ちパスタの数々。比較的ポピュラーなオレキエッテ以外は、初めて見るパスタばかり。そのオレキエッテも、ノーマルな小麦のほか、焦がし小麦バージョンも揃えるなど、パスタからも本間シェフのプーリア愛が伝わってくる。

迷った末に、本間シェフおすすめの“サーニェンカンヌラーテ 猪肩ロースのブラチョーレマジョラム風味”をオーダー。“サーニェンカンヌラーテ”は、リボン状の平打ちパスタを螺旋状に巻いたもので、現地ではトマトソースや肉のラグーと和えるのが常套とか。本間シェフは、それを踏まえながら独自にアレンジ。ブラチョーレと呼ばれる肉のトマトソース煮とこのパスタを合わせてピアットウニコ風に仕立てている。曰く「本来、ブラチョーレは、薄切り肉でチーズやニンニク等々を巻き、ソースと合わせた肉巻きを煮込んでいますが、ここでは猪の肩ロースをやや大きめにカットした塊を赤ワインとトマトソースでじっくり煮込んでいます」とのこと。現地では、まず肉を食べ、残ったソースにパスタを絡めて食べるスタイルがおなじみだそうだが、それをパスタメニューにと一工夫したわけだ。それだけにボリュームたっぷり。ねじれた部分にソースが絡むパスタも、もちもちとしておいしい。最後まで飽きずにいただける。

さて、件の肉巻きがここではメイン料理の一品として登場。“チステルニーノ風ボンベッテとマッレット”がそれだ。このボンベッテとは肉バクダンの意で、薄切りにした豚ロースでカポコッロ(豚の生ハム)とモッツァレラチーズを巻き、焼き上げたもの。中から、とろけるチーズが飛びだすところからの命名らしい。もともとは、精肉店が店の脇で、炭火で焼いて売っていたストリートフードだったそうだ。一方、マッレットは内臓料理。現地では羊の肉で羊の内臓を巻いて作るそうだが、本間シェフは、日本では手に入りにくい羊の内臓の代わりに牛の肺と鶏レバー、豚のハツを網脂で巻いている。チーズと肉汁が飛び出すボンベッテに対し、こちらは牛肺のふわふわ感やハツのコリコリなどさまざまな食感の妙が楽しい一品。内臓で気になりがちな臭みは皆無。にんにくが風味を引き立てている。

肥沃な土地に恵まれながら、社会構造のために貧しい生活を余儀なくされたプーリアの農民たち。だからこそ生まれた“クチーナ・ポーヴェラ”は、身近にある小麦の残りや野草、オリーブをどうにかしておいしく食べようと知恵を働かせた、今でいえば、差し詰めサステナブルな料理ということになるのだろう。だが、プーリアの料理には、そんな建前だけではない、日々の生活から生じた説得力がある。派手さもなく、特別な食材も使わない。けれども、冒頭で本間シェフが語ったように、肩肘張らぬ温かさがある。そう、毎日でも食べられそうな生活感のあるおいしさなのだ。

いずれの皿も、2〜3人で楽しめるボリュームも良心的。アラカルトの他、9,500円のプリフィクスコースもある。



