【噂の新店】OSAKA TONKATSU CLUB

大阪・北浜にあるビルの地下へ。隠れ家というより、むしろ“秘密基地”と呼びたくなるような場所に「OSAKA TONKATSU CLUB」はある。
「2025年大阪・関西万博」に出店し、大きな話題を集めた「とんかつ 乃ぐち」。店主の野口典朗さんが、新たな拠点として立ち上げた。目指すのは、単に新たな専門店をつくることではない。「次の世代に技術を継承していきたい」。そう話す野口さんの思いが、「OSAKA TONKATSU CLUB」には詰まっている。
実はこのビル、野口さんにとって縁の深い場所。かつてイタリア料理店の店長を務め、その後、独立して店を買い取ったフロアでもある。一度は手を離れたが、ビルのオーナーから「もう一度ここで店をやってほしい」と声がかかり、再び戻る形で野口さんによる挑戦が幕を開けた。
閉ざされた扉の奥にある、カウンター8席だけの異空間

とんかつを味わうための空間、その入口には、重厚な木の扉が。「わざと閉ざされた扉にしたんです。“この奥はなんなんだろう?”って、ワクワクしてもらいたくて」。野口さんがそう話す扉の向こうには、わずか8席のカウンターが広がる。
厨房機器などは、大阪・関西万博で使用したものを一式、移設した。さらに、万博のヨルダンパビリオンを手がけた左官職人・久住有生さんが、土壁を手がけている。

カウンターに立つのは、野口さんと、彼の思いに共鳴したスタッフたち。なかでも野口さんの技術を継承する料理人が、乃美修太さんだ。とんかつ専門店での修業経験は長く、かつて御殿場で野口さんがプロデュースした、とんかつコース専門店で、店長として腕を振るっていた。「大阪のとんかつシーンをもっと盛り上げたい」という野口さんの思いを受け継ぐ。

2021年、大阪・中津の文化住宅の一角で「とんかつ 乃ぐち」を始めた頃、野口さんはこう話していた。「お腹を満たす”とんかつ”から、感じる、知る“豚カツ”へ」。そこには、「とんかつ」という馴染みのある日本在来料理ジャンルの、急激な発展を見据えた狙いがあった。
「“とんかつコースを食べに行こう”というお客様の選択肢をつくりたい。定食だけじゃなく、コース料理として豚カツを楽しむ文化を広め続けたい」。つまり「OSAKA TONKATSU CLUB」は、その思いを具現する場所であると同時に、次世代のとんかつ職人を育てる場所でもある。
4種の豚カツを一切れずつ。最高の瞬間に
「OSAKA TONKATSU CLUB」のおまかせは、昼7,000円、夜8,000円。
月替わりのメニューは、季節のスープに始まり、前菜4種、豚カツ4種、〆もの、デザートまで。その構成はレストランでコース料理を味わうような趣だ。
まず目を奪われるのが、カウンターに並べられた豚肉の数々。黒豚、赤豚、白豚とタイプの異なる10銘柄ほどを用意し、さらに2週間ほど冷蔵庫で手当てを施す。肉の弾力とキメが整ったタイミングを見極めるという。

その後、コース料理は始まる。前菜の一皿目は「鮑と夏野菜」。

静岡産の鮑は低温のスチームで熱を通してから、150℃の油で短時間揚げる。添えるのは鮑の肝を使ったソースだ。ふっくらとした身に、衣の香ばしさ。とんかつだけではない“揚げ”の技術も、このコースのポイントの一つ。
主役の豚カツは、肩ロース、リブロースなど4部位を銘柄ごとに時間差で提供する。
「一番おいしい、その瞬間を味わっていただきたい」と、まるで鮨のように、一貫ずつ提供するスタイルで。
豚カツを担当した乃美さん曰く、「打ち粉をまとわせ、卵液にくぐらせ、低糖度の生パン粉をつけています」。その所作にも注目したい。握りながら角度を変えてパン粉をまとわせることで、衣を二層に編み込んでいく。肉はまず90℃で芯まで温度を上げ、その後150℃の油へ。約1分揚げ、さらに6分ほど休ませてから、客の目の前で切り分ける。

包丁が入ると、断面がぷっくりと膨らみ、湯気がふわりと立ち上がる。
「平田牧場」のバークシャー50のヒレを、まずは何もつけずに。「衣の両端を箸で持って、まずは赤身から食べてください」と乃美さん。その流儀に従い、ひと口。繊細な肉質とストレスを感じさせない歯切れ。その後に続くサクッ、ふわっとした衣。肉と衣のバランスが美しい。
「2口目はお好みで」。3種をブレンドしたという塩をはらり。すると肉の味わいが、ぐっと濃くなる。
「揚げた瞬間がピーク。うちの豚カツは、寿命がめちゃくちゃ短い」。乃美さんの隣で、そう言って微笑む野口さん。その一瞬を逃さず味わえるのが、この8席のカウンターなのだ。


コースの最後には、「乃ぐち」では提供していなかったラーメンも。カツ丼、カレー、ラーメンの3種から選べる〆まで含めて、最後まで“豚”を楽しみ尽くす構成だ。
10月からは、野口さんがカウンターで「串揚げ」を披露!?
「OSAKA TONKATSU CLUB」のもうひとつの大きな仕掛けが、10月から始まる新業態だ。野口さん自身はエントランス付近にあるコの字カウンターへ。そこで始めるのは、なんと「串揚げ」だという。

「150℃の油で、ほかの食材を揚げたらどうなるんだろう?」。豚カツで培った低温調理の技術を、魚介や野菜など別の食材へ応用する。一般的には180℃前後の高温で揚げることの多い串揚げを、あえて低い温度で揚げたらどうなるのか?
もちろん、「串揚げ」カウンターに立つのは野口さん本人だ。
「たとえば神宮の参拝って、特別参拝は入りづらいけど、表口は気軽に入れる。そんなイメージでしょうか(笑)」。本格的な豚カツのコースを提供する一方で、もっと気軽に楽しめる入口もつくる。「とにかく、お客様と気軽に触れ合いたい一心です。串揚げは10月くらいから始めます」。
一方で、乃美さんが「豚カツ」部門を率いる。「OSAKA TONKATSU CLUB」は、野口さんが自らの技術を披露し続けるためだけの店ではない。乃美さんをはじめ、次の料理人へ技術を繋げ、豚カツの新たな可能性を切り拓いていくための拠点なのだ。
※価格はすべて税込・サービス料別


