スープ・ド・ポワソン

【噂の新店】SOZEN

店名の「SOZEN(素然)」は、「素材」と「自然」を掛け合わせた造語

料理はもちろんのこと、飲食店の空気にはシェフの人柄が宿る。そしてそれはゲストにも伝播する。2026年6月6日に中目黒に誕生した「SOZEN(素然)」は、料理や空間、サービスに至るまで、シェフの等身大で自然体な雰囲気が気持ちよく表れたお店だ。

厨房を任されたのは、丸の内の人気フレンチ「CIRCULO(シルクロ)」でシェフを務めた高山憲介さんだ。高山シェフは、「東京チャイニーズ 一凛」やイノベーティブレストラン「TexturA(テクストゥーラ)」など、ジャンルの垣根を越えた人気店を展開する株式会社ウェイブズの一員。

高山憲介シェフ

系列のスペイン料理店やビストロで経験を積んだ後、2020年に渡仏し、シャンパーニュ地方の「L’assiette Champenoise」で約1年間腕を磨いた。帰国後は「CIRCULO」のシェフとして人気店を牽引。そして自らの理想を形にする場所として「SOZEN」を立ち上げた。

高山シェフが掲げるテーマは「五味の調和」だ。甘み、酸味、塩味、苦み、うまみ。5つの味覚を緻密に設計しながらも、難解さではなく、誰もが直感的に「おいしい」と感じられる料理を目指す。その思想は、コースの一皿一皿に鮮やかに表れている。

全16席の店内は、炭モルタルを用いたカウンター席や、グレーの壁面、ペールブルーのスウェードソファが映える

目指したのはトレンドではなく、「帰ってこられる場所」。等身大なシェフの雰囲気と料理、お店のナチュラルなインテリアからも、そんな思想が伝わってくる。

コースの始まりと終わりをつなぐ福岡・オーム乳業のチーズ

蓋付きの器を自ら開ける演出も楽しいアミューズ

現在ランチコースは5,000円~、ディナーコースは9品で12,000円と、フレンチでありながら手が届きやすい。コースの構成で印象的なのが、最初と最後を同じ素材でつなぐストーリー性だ。

幕開けを飾るアミューズには、シェフがその味に惚れ込んで仕入れを決めたという福岡・オーム乳業のマスカルポーネを使用している。ミルクのフレッシュさとふくよかさが共存するマスカルポーネに、旬のイチジク、生ハム、オリーブオイルを合わせ、心地よい酸味を持つハーブのオゼイユや、可憐なエディブルフラワーで飾り付けている。

夏の時期はイチジクが入っているが、季節に応じて旬のフルーツに入れ替わる

スプーンで一緒に頬張ると、チーズのコク、果実の甘み、生ハムの塩気、ハーブの酸味が重なり、五味が美しく調和する。そしてコースの最後には、同じオーム乳業のフロマージュブランを使ったクレームダンジュが登場し、始まりと終わりが呼応する演出も心憎い。

デュカが香る、江戸前ハーブを主役にしたタルタル

中東のスパイスとナッツのミックス「デュカ」をアクセントにふりかける

続く前菜「東京 マイクロハーブ」も「SOZEN」らしい一皿だ。通常は料理を彩る脇役として扱われるマイクロハーブを、ここでは主役に据える。東京・平和島の「江戸前ハーブ」が手掛けるマイクロハーブは、完全室内栽培で青々とした力強い味わいだ。日替わりで4〜5種類のマイクロハーブが皿いっぱいに盛り付けられ、その下には黒毛和牛ヒレ肉のタルタルが隠されている。エシャロットやケッパー、中東のスパイスとナッツのミックス「デュカ」、マスタードを加えたタルタルは、ハーブの個性を受け止める土台の役割を担う。

「動物性の良質な脂とスパイスを使って、ハーブというサラダをおいしく食べてもらうための仕掛けです」とシェフ

毎朝届けられるハーブは一枚一枚の葉が驚くほど肉厚で、噛みしめるとしっかりとした苦みや辛み、大地のエネルギーを感じる力強い味が広がる。そこに細かく仕立てられたタルタルのコクやスパイシーさが重なり合い、余韻が長い一皿だ。さらに砕いたポテトチップスとデュカが食感のアクセントとなり、料理にリズムを生み出している。

穴子を最高においしく食べるためのスープ・ド・ポワソン

この日は岩手県産の穴子を使用。時期によっては穴子以外の魚介類を使うこともあるという

そしてコースのハイライトが、「スープ・ド・ポワソン」だ。「CIRCULO」時代から磨き続けてきた高山シェフのスペシャリテであり「SOZEN」を象徴する一皿でもある。

ベースとなるスープには、穴子や金目鯛、甘鯛など複数の魚のアラを使用。魚を細かく攪拌してうまみを余すところなくあらごしし、魚の骨や皮の周りにある濃厚なうまみとコラーゲンを極限までスープに溶け込ませている。さらに海老の出汁を加え、火を止めた後に焼きあご出汁を投入。青魚の香りだけを移し、和のニュアンスをさりげなく重ねている。

最後にレモンの皮を削りかけ、オリーブオイルを回しかけている

主役の穴子は低温スチームでゆっくりと火入れし、提供直前に皮目だけを炙る。味付けは塩と、フランス・バスク地方の唐辛子「ピマン・デスプレット」のみ。辛みよりも果実のような香りが特徴で、穴子の繊細なうまみを引き立てる唐辛子だ。底に忍ばせた冬瓜にはムール貝の出汁を含ませている。

穴子は白焼きのような食感。ソースのようなスープは、ついついバゲットを追加したくなる

穴子を崩しながらスープと一緒に味わえば、魚介のうまみが幾重にも重なり合う。「スープ・ド・ポワソンには、少し青魚のニュアンスが入っていた方が、うまみに深みが出ます」というシェフの読み通り、火を通さずにあご出汁の純粋な風味だけを乗せることで、西洋と東洋の味を融合させたかのようなうまみがある。魚を最高においしく食べるための“ソースのようなスープ”だ。

料理の「五味」を完璧に引き立てる充実のドリンクラインアップ

左から「レトル·デロイーズ」「アルシミー」「ヴィザン・ブラン」、陶器ボトルが目を引くロゼ「アール・ド・ヴィーヴル」「キュヴリエ・ルージュ」「ラ・パール・デ・ザンジュ」

SOZENのワインセレクトを担当するのは、ウェイブズが展開する系列店「一凛」のソムリエである村上氏だ。元々はフレンチの世界で長くソムリエとして活躍していた経歴を持つため、高山シェフが作る料理の意図や味の構成を理解している。

ワインはフランス産がメインで、フランス・ロワール地方の名手による「ドメーヌ ド テール ブランシュ サンセール」をはじめ、日本を代表する酒蔵がフランスの地で手掛ける「ドメーヌ クヘイジ(KUHEIJI) ブルゴーニュ アリゴテ」など、流行を押さえつつも料理に寄り添う綺麗な一本が揃う。赤ワインに目を移せば、特別な夜に開けたい「ドメーヌ ベルターニャ ヴージョ プルミエ クリュ」といった本格派から、軽やかに楽しめるボルドーやブルゴーニュのピノ・ノワールまで、幅広い客層やシーンに応える盤石の布陣だ。グラスワインは銘醸シャンパーニュの「ローラン・ペリエ ラ キュヴェ」が1,800円で楽しめるほか、白・赤ともに1,300〜1,600円という手頃な価格帯で常に数種類が用意されている。 

器は茨城県笠間市を拠点に活動する陶芸家・Keicondo氏によるもの

フランスで培った経験、日本各地の生産者とのつながり、そして五味を調和させる感性、そのすべてを自然体で表現する料理。ゲストを迎える空間には「不易流行」の普遍的なおもてなしの心が満ちている。

※価格は税込・サービス料別。

文:中森りほ
撮影:佐藤潮