日本全国のグルメ情報を網羅する食べログが有するメディア、食べログマガジン。だがしかし、東京のグルメ情報に少々偏りすぎでは? そんな疑問を編集部にぶつけてみたところ、「それでは我妻さん、地方グルメを取材してきてください」と仰せつかることに。

 

今回目指したのは、青森県・青森市。名作邦画として名高い『八甲田山』(※)までは、車で約40分ほどの距離に位置する青森県の県庁所在地である。青森出身者にいろいろと聞き込みをしてみると、八甲田山にほど近い酸ヶ湯温泉には名物のそばがあるという。

 

おまけに豪雪ツアーなんてものも開催されていて、雪の壁や美しい樹氷の数々も見られるとか! 東京での生活では絶対に不可能な体験も待っているならば、これは行かない手はない。作品の影響もあって“怖い”というイメージが強い八甲田山だが、実態はどんな感じなのだろうか?

 

ふたを開けると、“極寒から極楽へ”という言葉がぴったりの八甲田山体験。

「楽しい」「美しい」「おいしい」が詰まった青森の冬の新しい魅力、味わわなきゃもったいない!

 

※映画『八甲田山』は1977年公開。新田次郎原作の小説を映画化。日露開戦が差し迫るなか、日本陸軍は寒地訓練として八甲田山での雪中行軍を命令。しかし連隊が遭難し、多くの隊員が命を落とすことに。日本登山史における最大級の山岳遭難事故として名高い。

天は我々を見放した!?あの八甲田山で最高の極寒体験

美しい樹氷と冬山の銀世界。ここがあの八甲田山と信じられるだろうか?

 

打ち付ける雪と、猛烈な風によって舞い上がった雪で視界が奪われ、前後左右が認識できなくなる“ホワイトアウト現象”も珍しくない八甲田山。ところが、晴天に恵まれると目を奪われること間違いなしの美しい光景が眼下に広がる。

 

しかし! ひとたび悪天候になれば、流行語にもなった映画『八甲田山』の北大路欣也のセリフ「天は我々を見放した」と叫びたくなる状況に! もはや映画のワンシーンのようである。

 

現在、青森県は冬の厳しさを物語る際にフィーチャーされる八甲田&酸ヶ湯温泉のイメージを逆手に取った新たなツアーを開催している。「極寒クレイジーな超絶ホワイトアウトツアー」と「日本一の豪雪パラダイス566ツアー」という二つのツアーを主に定期催行しており、超豪雪地帯ならではのすご味を体感することができるのだ。

 

実は八甲田&酸ヶ湯はJR青森駅から車で40分ほどの距離にあり、意外に近いことは知られていない。八甲田ロープウェー山麓から酸ヶ湯までの雪道は、車で約10分というお隣同士なので、青森駅を利用することがあるなら、ぜひとも訪れてほしい。

「極寒クレイジーな超絶ホワイトアウトツアー」は、ロープウェーで山頂付近まで向い、晴天時は樹氷群観察、悪天候時はホワイトアウト体験を行う。そして下山後に、雪原散策や、「雪に埋まる」「ビーコン(雪中に埋まった人の捜索のために作られたトランシーバの一種)で遭難者を探す」といった疑似レスキュー体験ができる。

 

「日本一の豪雪パラダイス566ツアー」は、スノーシューと呼ばれる現代版かんじきを履いて(これを履くとまったく雪に沈まなくなる)、酸ヶ湯温泉のすぐ隣にある積雪5メートル66センチを記録したアメダス観測地点をはじめ、温泉周辺の雪原散策を行う。気軽に豪雪体験をしたい方は、こちらのほうがいいだろう。

 

どちらのツアーもウェアやブーツなどのレンタルが可能(別途料金)。交通機関は、酸ヶ湯温泉行きの無料送迎バスもあるので安心だ。ただし、発着時刻が決まっているため、参加する場合は、ツアー開始時刻を含め、「また旅くらぶ」に問い合わせることが望ましいだろう。

ここは極楽浄土か……酸ヶ湯温泉の霊泉と名物そばで温まる

雪原で思いっきり冬の寒さを体感したからこその極楽感。湯治場として300年の歴史を誇る名湯・酸ヶ湯温泉、その象徴が総ヒバ造りの大浴場「ヒバ千人風呂」である。脱衣所から湯船に足を踏み入れた際の、硫黄とヒバの混成した匂いが鼻腔を抜けるときのやすらぎといったらない。湯につかる前だというのに、すでに「いい湯だな」と気分がいい。

160畳もの浴室には、熱湯、冷の湯、四分六分の湯、湯滝など4つの源泉の異なる浴槽があり、およそ300人が入湯できる。大黒柱を含め柱が一本もないヒバ造りの内観は荘厳で、なにゆえ酸ヶ湯温泉が“霊泉”と呼ばれるか納得だ。

 

樹氷群、ホワイトアウト、そしてヒバ千人風呂……冬だからこそ可能な対極にある異空間の共演。これほど“生”を連続して体験できるコンテンツはそうそうない。

冬の八甲田&酸ヶ湯、最高すぎるでしょ。

 

「ヒバ千人風呂」は混浴だが、午前8時~9時、午後8時~9時の間だけは女性専用時間となる。ぜひとも、どっぷりと肩まで、その魅力に浸かってほしい。

さてさて、酸ヶ湯温泉で温まったら隣接しているお食事処「鬼面庵」で、酸ヶ湯名物のそばを食べるに限る! 八甲田山&酸ヶ湯では何度もクライマックスが訪れるが、何と言っても“食”を追い求めてきた人々にとってのクライマックスは、酸ヶ湯ならではのそばだ。これを食べるための極寒体験だと思えば、テンションが自ずと上がってくる。

 

「酸ヶ湯そば」は昔から雲谷地区(酸ヶ湯から30分程青森方面へ下った地域)に伝わる独特な製法を受け継いだ、100%そば粉だけで作られる純粋な日本そば。つなぎ粉を使用していないため、そばがぷつぷつと切れやすいことが特徴だ。陸奥湾のいわし焼干をベースにしただし汁との相性も良く、昔ながらのおそばの味を楽しむことができる。じっくりと源泉に浸した滋養いっぱいの温泉卵もおいしい!(酸ヶ湯温泉卵そば 650円)

より酸ヶ湯そばの触感と風味を感じたいなら、冷たいそばの方がいいかもしれない。中でも、青森県産の長芋と地鶏温泉卵が入った「冷やしとろろそば」1,000円は逸品だろう。シンプルなそばの味と、根菜の名産地でもある青森県(南部地方)で取れた長芋の“芋ならではの甘み”が合う! 「鬼面庵」で一息ついて、心身ともにリラックスして、帰路につく。

 

誰もが知っている八甲田、そして酸ヶ湯だからこそ、楽しさや美しさだけではなく、厳しさや恐ろしさも全部ひっくるめた雪中ツアーが実現できる。

 

「冬の八甲田山でサバイバルな体験をしてきた」

 

誰かに伝えたくなる誇らしい冬の体験。冬の八甲田、寒いけど……面白すぎです。

 

 

■極寒クレイジーな超絶ホワイトアウトツアー

料金:公認ガイド1名につき35,000円(1名~7名まで/例:7名で参加する場合は一人5,000円)※ロープウェー料金別途
催行人数:1名~7名
所要時間:最大120分
実施日:3月まで(ロープウェー運休の場合はフィールド変更、または中止)
集合場所:八甲田ロープウェー・山麓駅
申込:基本7日前(要相談)

■日本一の豪雪パラダイス566ツアー

料金:一名 3,000円(ガイド料、温泉入浴(タオル付)、スノーシューレンタル料込み)
催行人数:1名~
所要時間:最大120分
実施日:3月まで
集合場所:酸ヶ湯温泉
申込:基本3日前(要相談)

問い合わせ先:
株式会社また旅くらぶ http://matatabi-club.com/
電話 017-752-6705
メール info@matatabi-club.com

 

取材・写真・文:我妻弘崇(アジョンス・ドゥ・原生林)