〈食べログNo.1には理由がある!〉うどん・東京編

食べログのジャンル別ランキング〈うどん〉において、都内1位(2020/2/13付ランキング)に輝いた「手打ちうどん すみた」。その人気の理由を探るべく、うどん研究家・ライターとして活躍中の井上こんさんとともに赤羽へ。“コシ”のある口福の一杯を味わいながら、店主の鈴木達矢さんにお話を伺いました。

教えてくれる人

井上 こん(いのうえ こん)
うどん研究家・ライター・週がわり小麦のうどんスナック『松ト麦』店主。記事やコラムの執筆のほか、イベント主催や監修、メディア出演などを通じてうどんの世界を紹介。2018年より西武線沿線うどんラリーアドバイザー、筑後うどん大使を務める。著書『うどん手帖 死ぬまでに一度は食べたい!! 全国の名店50+α』(スタンダーズ)が好評発売中。

先代から受け継いだ讃岐うどんの精神を一杯にこめて

全国からうどん好きが集まる店「手打ちうどん すみた」。JR赤羽駅東口を降り、赤羽スズラン通り商店街を抜けて少し行くと、控えめな看板と暖簾、それに提灯が掛かったその店が現れます。ここはもともと讃岐うどんの本場・香川の名店「手打うどん源内」で修業した先代店主が1999年に十条でオープンした店。店はその後現在の赤羽に移転しています。現在の店主である鈴木達矢さんはその味に惚れ込み、3年の修業の後、この店を継ぐことに。

先代の頃から東京屈指の行列店として知られていましたが、現在もその人気は変わらず。平日でも1時間待ちは必至です。それでも食べたい!と全国からうどん好きが集まるのは、やはりここだけのおいしさがあるから。うどんだけでなく、日本酒にぴったりのおでんの存在も、昼夜を問わず熱狂的なファンが集まる理由のひとつかもしれません。

井上さんが考える、すみたのうどんが支持されるワケ

「代替わりした時、うどんマニアの世界はかなりザワザワしたんです。でも、麺と出汁の完成度は先代の頃から変わらずのクオリティで安心。ちょうどいいストライクゾーンを攻めているんですよね」と絶賛する井上さん。彼女が指摘する「すみた」の重要ポイントは次の3点。

1. 柔らかすぎず、硬すぎない、軽妙な歯触りの麺

2. 節系の酸味といりこの甘み、昆布のまろやかさのバランスが抜群の出汁

3. これだけでお酒が進む! 揚げたて&本場の味のかしわ天ぷら

さて、その圧倒的な強さの理由とは? 井上さんとともに解明していきましょう。

輪郭がはっきり。正統派手打ち麺の存在感

この店の一番人気は?と店主の鈴木さんに尋ねると、「『かしわおろしぶっかけ』か『親子ぶっかけ』ですかね。あとはいろいろなものが出ますけど……」との答えが。「かしわおろし」には揚げたてのかしわ天3つと大根おろしが、「親子」にはおなじくかしわ天3つと温玉、ちくわ天が載っています。ここではシンプルに「かしわおろし」をチェック。

「かしわおろしぶっかけ」900円

器の中にはつやつやと輝く麺と、ひとくちサイズのかしわ天ぷら、そして海苔・白胡麻・小ねぎが。輪郭がシャッキリと立った麺は、パワフルだけれど、コシが強すぎず、かといって大阪や福岡の柔らかな麺とも違う、なんともバランスのいいもの。「『すみた』さんの麺は“すぎない”のが魅力。プリッと軽妙な歯触りで、出汁との一体感が楽しめるんです」と井上さん。

常に揚げたて! 讃岐名物かしわ天ぷらに舌鼓

「鶏肉がしっとりしていて本当においしい! これを目当てに来店する人も多いはずです」と井上さんが絶賛するかしわ天ぷらは、「醤油を立たせすぎておらず、ちょうどいい」ぶっかけ出汁との味のバランスも絶妙。揚げたて、熱々のかしわ天ぷらは「これで日本酒が飲みたい!」と井上さんに言わしめるほど。

ファン多数! 正統派カレーうどん

「カレーうどん」900円

讃岐系ということでぶっかけうどんが人気の店ではありますが、実はカレーうどんもファンの多い一品。麺が隠れるほどひたひたに注がれたカレー出汁は、ちょっと餡かけっぽいトロトロ感で、懐かしい味わい。

 

「最近のカレーうどんにはスパイスカレーの流れを受けたものも多いけれど、ここのカレーうどんは王道系。私は今日初めていただいたのですが、出汁の完成度が高いから、カレーが主張し過ぎていない感じです。ほろほろの牛肉と玉ねぎにもしっかり存在感が。後味に胡椒が感じられるのもいいですね」と井上さん。メニューには“大人の辛口”と書いてありますが、いわゆるスパイシー系ではないので、辛いものが苦手な人でも心配しなくて大丈夫。

年に8種類。季節ごとの限定メニューにも注目

春の季節メニュー「あさりバターうどん」900円

季節ごとに2種類ずつ、年に8種類登場する限定メニューにも「すみた」らしさが。取材時には毎春人気の「あさりバターうどん」が出ていました。こちらも初めてトライしたという井上さん、「かけ出汁ベースにあさりとバターの香りと塩味が加わって、もう一杯!と食欲をそそる仕上がりになっています。釜玉うどんにバターを加えるのはよくありますが、かけ出汁とバターという組み合わせはあまり見たことがないかも。味の表情が変わって飽きずに楽しめます」と笑顔に。

おいしさと人気の秘密を店主に直撃!

店主の鈴木達矢さん。「サラリーマン時代にうどんにハマって、十条の店に通うように。その頃は自分が後を継ぐとは思ってもみませんでした」と話す。
 

井上さん

1999年に先代がオープンした「すみた」を引き継がれて早3年。熱狂的なファンのいるお店だっただけに、代替わりした時にはいろいろ悩みもあったと思います。変えられない部分もあれば、新たな挑戦をしている部分もあると思いますが、そのあたりはどう考えられたんでしょうか。

 

店主・鈴木さん

僕はもともと先代のうどんが好きで修業させてもらうようになったのですが、独立する前提でやっていましたし、後を継ぐことについては本当に悩みました。先代の下で弟子として3年働いて、2年経った頃にそういう話が出てきたんですが、やるからにはきちんと店の看板を守っていかないといけないし、自分一人でできるのかな、と。お客様の中には十条時代から通ってくださっている方もいらっしゃいますから、基本的には麺も出汁も変えていません。ただ、季節限定メニューに関しては、夏の「夏野菜カレーうどん」の内容が先代の頃より豪華になっているなどのマイナーチェンジはありますし、これから創作うどんもいろいろやっていけたらな、とは思っています。

「かけ」600円
 

井上さん

「すみた」さんは出汁がめちゃくちゃおいしいですよね。だから、出汁を使った夜の一品メニューなんかも上品な味。この出汁にはどんなものを使って、どんな風に作っていらっしゃるんでしょうか。味のバランスが本当に綺麗!

 

店主・鈴木さん

ありがとうございます。先代からの作り方を守ってそのまま続けているんですが、とにかく時間をかけて出汁はとっていますね。毎朝6時入りなんですが、3時間かけて出汁をとって、ぶっかけ出汁とかけ出汁に作り変えています。基本は宗田節とごまさば節、いりこと利尻昆布と花鰹。

 

井上さん

粉は何を使っていらっしゃいますか?

 

店主・鈴木さん

これも先代が使っていたものと同じ、讃岐うどんでは一般的な、オーストラリア産の粉です。本当は国産に切り替えてもいいかなとも思うけれど、同じ食感や味、風味の麺を求めて来てくださるお客様がいるので。うちの麺って不思議な食感してますよね? ああこれね、という麺じゃない。それは、僕が客として来ていた時に惹かれた部分でもあります。だからこそ、僕の代になって「変わっちゃったね」と言われるのは寂しいことだなあ、と。ただ、いつかは粉のブレンドを試してみたいという気持ちはあります。

 

井上さん

かしわ天ぷらのおいしさの秘密も聞かせてください。

 

店主・鈴木さん

かしわ天ぷらは揚げたてがいいので、完全に効率は無視して、毎回ご注文ごとに揚げています。鶏肉は普通の国内産の若鶏だし、下味は塩胡椒をふるだけ。ただ、衣だけは小麦粉と卵と冷水の昔ながらのやり方で、天ぷら屋さんに負けないものをと思って作っています。

鈴木さんは「夜のうちは回転が悪いんです」というのも納得、の居心地のいい店内。

 

 

取材を終えて……

「すみた」は全国のうどんを知り尽くし、年間400杯ものうどんを食べるという井上さんが、プライベートでも足を運ぶ店。舌の肥えたうどんマニアたちが愛してやまないのにはやはり理由があるのだということが、今回の取材を通じてわかりました。

「手打ち、手切りのうどんの魅力は、2種類のタンパク質の網の目の出来かたが一辺倒にならず、また手で延ばして切ると自然なウェーブをかけることもできます。もちろん、手打ち、手切りのうどんにもいろいろあって、『すみた』さんのうどんはここでしか食べられないもの。 私の好きなうどんは“でんぷんが生き生きしているうどん”で、ちゃんと茹でることででんぷんが花開くと考えているんですが、ここのうどんはまさにそんな感じ。また、出汁の完成度の高さも魅力ですが、今回、鈴木さんに出汁についても伺うことができて、なるほど、やっぱり、と思いました」

日本酒は常時20種類ほど揃う。冷・常温・燗と好みに合わせて。

そう話す井上さん。彼女はまた、「最近はお酒の充実ぶりもあって、うどん好きの友達と『昼行く? 夜行く?』みたいな感じで相談するほど」とも。店主の鈴木さんは自他共に認める日本酒好き。店内には他の店ではあまり見ない銘柄の酒も並びます。お酒とともにおでんやかしわ天ぷらをつまみつつ、締めにうどん、という楽しみ方もできそうです。

 

文:山下紫陽
写真:山田英博