フライにすると“甘みが増す”“香りが増す”“身が大きくなる”
青森駅から徒歩4~5分。駅から目と鼻の先に、青森ならではのホタテのおいしさを伝える名店「柿源」はある。
実は青森県、ホタテの生産量が北海道に次ぐ全国第2位を誇るホタテ大国であることは、あまり知られていない。青森市の東隣・平内町は、養殖ホタテの名産地。養殖ホタテを育てる陸奥湾は、八甲田山系と白神山地の深いブナ林から栄養たっぷりの雪解け水が注がれているため、エサとなる植物プランクトンが豊富。十分なミネラルを含んだ青森県産の養殖ホタテは、優しい甘味と肉厚な身を備え、今では青森を代表する美味食材となっているほどだ。
青森県は、ホタテの聖地――。だからこそ、ここでしか食べられないものがある。それが「活ホタテのレアフライ」だ。もしもあなたが、青森駅に降り立つ機会があるなら、ぜひ「柿源」を訪れてほしい。きっとホタテの印象が、ガラッと変わってしまうだろうから。
「青森では冷凍は使いません。すべて生のホタテを使用します」
そう話すのは、「柿源」4代目店主・高杉さん。一般的に知られている「ホタテフライ」はボイルしたホタテを使用することがほとんどだが、青森の「ホタテフライ」は、当日水揚げされたホタテを使う。まるで鮮度が違うというわけ。
また、ホタテの旬は夏場と言われているが、養殖であれば通年の生産が可能となる。「夏場にとれるホタテ貝は、身こそもっとも大きくなりますが、味に関しては差異はない」と高杉さんが言うように、季節に関係なくおいしい「活ホタテのレアフライ」を食べられるのは、なんともうれしい限りだろう。
と、ここで気になるのが、「刺身じゃダメなの?」ということ。もちろん、刺身で食べたっておいしい(に決まっている!)。でも、「フライで食べてみてほしい」と、高杉さんは笑う。
「フライにすることによって、まず“甘みが増す”。次に、“香りも増す”。そして、“身が大きくなる”。新鮮なホタテは、フライにすると旨味成分が膨張して大きくなるんですね。私は、フライが一番おいしい食べ方だと思います」(高杉さん)
新鮮ゆえに、フライにすると3倍おいしくなる! あっさり&上品で超良質なホタテが、プロの料理人の絶妙な火加減による“レア揚げ”によって、“甘みが増す”、“香りが増す”、“身が大きくなる”のトリプルスリーを実現する。おいしいホタテのお刺身は、他の所でも食べられる。だったら、青森に来たらフライをぜひとも食べてほしい。
見てください、この光り輝く断面を。レアで揚げるからこその、照り感。5カラットくらいあるんじゃないでしょうか。「まずはそのまま食べてみてください」という高杉さんのアドバイスにしたがって、何もかけずに一口食べてみると……。
ほんっとに上品な甘さが口の中を包み込む。そして、ジュワ~っと旨味が染み出してくる。ホクホクな食感もたまらない。間違いなく刺身では体験できない口福。牛肉の焼き加減がレアでおいしくなるのであれば、ホタテだってレアで食べればおいしいに決まっている。なんでそんな簡単なことに今まで気が付かなんだ。青森でユリイカ。
何度も伝えたくなるくらい上品な甘さが絶品。ソース、しょうゆも合うけれど、この旨味と甘みを楽しむなら、何もかけなくてもいいくらい。
「皆さん、ホタテのバター焼きが好きだと思うのですが、青森では塩焼きのほうを好んで食べます。というのも、新鮮なホタテ特有の甘みがあるため、バターで焼くとしつこく感じてしまう。素材が持つ本来の甘さを楽しむのであれば、バター焼きではなくて“塩焼き”がおいしい」
そんなことを優しい笑顔で言われたら、食べるしかない。言われてみれば、ホタテの塩焼き、食べたことがない。その矢先、「ほたて塩辛も珍しい一品だと思いますよ」。隣で女将さんが悪魔のささやきをする。
とんでもなくおいしいホタテの塩焼き
「塩こうじでちょっと和えて、彩りを豊かにするためにサーモンを混ぜています。お酒のあてとしても最適ですよ」
その言葉通り、この後に仕事がなければ間違いなく呑んでいたことでしょう。我慢した自分を褒めたい。名前こそ塩辛だけど、しつこさはまったくなく、あっさり。清涼感があって、噛めば噛むほどホタテの旨味が染み出してくる最高のあて……嗚呼、呑みたかった。
そして、塩焼き。テーブルに置かれた瞬間、その香りに驚く。さっと焼いてバーナーであぶったホタテから立ち上る香りに、「絶対に旨いやつ」と胃が開く。味は……もう言葉では説明がつかない。信じられないくらいおいしい。
「ホタテに合う塩を選んでいる」というだけあって、塩を振りかけることで甘さが引き立ち、甘さの後にすばらしく絶妙な塩味が訪れる。おいしいスイカにおいしい塩を振りかけると、ものすごくおいしくなるように、このホタテの塩焼きにも同じような現象が起こる。
塩によって、上品な甘さが引き立たされ、その後に、ずっと噛んでいたくなる塩味が到来する。食感の違う、ひも部分もブラボー。もう一回、言わせてほしい。信じられないくらい、おいしい。
再び、女将が「ホタテには、『田酒』が一番合いますよ」とささやく。だろうな! 次、来たら絶対に呑もう。死ねない理由が、一つ増えた。