〈モンブランの履歴書〉『料理通信』君島佐和子さん編/Vol.3

別格の才能が生み出した、クリエイティブなモンブラン

モンブランの変遷(日本式モンブラン、フレンチタイプ、和栗、イタリア版、デザートタイプ、和菓子系……)やバリエーション(スポンジ系、メレンゲ系、タルト系、ムース系、カップ系、栗以外の素材……)をずっと見てきた今、好みを聞かれたら「“和栗のクリーム+無糖のシャンティイ(※)+メレンゲ”に尽きる」と答えます。

 

シンプルなのが好き。素材の味がストレートに出ているのが好きです。そんな中で、王道じゃないかもしれないけれど、推したいのが「ジャン=ポール・エヴァン」の「モン フジ」です。エヴァンさんはあまたいるパティシエの中でも別格の才能の持ち主。エヴァンさんが創り出す味覚の世界にはいつも魅了されています。これまで数多くの取材を経験してきましたが、エヴァンさんのクリエイティビティにはやっぱり感銘を受け続けています。(君島さん)

 

※シャンティイ→泡立てた生クリーム

富士山の名を冠した、緑色のモンブラン

「ジャン=ポール・エヴァン」モン フジ

君島さんが、緑色のクリームをまとったモンブラン「モン フジ」を知ったのは、エヴァン氏と一緒に訪れたプレスツアーでのことだったそう。

 

「ジャン=ポール・エヴァンと聞くとショコラのイメージが強いかもしれません。でも、エヴァンさんは、MOFというフランスでも最高難易度の職人資格を、ショコラティエとしてではなくパティシエとして取得している、超ハイクラスのパティシエです。

 

取材でしばしばお世話になっているエヴァンさんと、2013年、ドミニカ共和国のカカオ農園を訪ねるプレスツアーにご一緒しました。食事のときやお茶の時間にいろんな話をお聞きする中で、強力におすすめされたのが、この「モン フジ」です。エヴァンさんご自慢のピスタチオクリームで作る緑色のモンブランです。日本びいきのエヴァンさんはそのお菓子に『富士山』の名を付けたんですね」

 

この「モン フジ」、スイーツ好きなら既知のことだが、期間限定で展開する、かなりの“レアもの”。

 

「当時、『モンフジ』が日本で発売されていたのか、いなかったのかは定かでないのですが、エヴァンさんは『パリに来たら、モンフジを食べてね』と。でも、パリのお店でも週一しか販売されていないレアもの。タイミングが合わなくて、パリで食べることは叶わずにいたところ、ふと気付くと日本でも食べられるようになっていました。ありがとう、エヴァンさん! 期間限定であることには変わりませんが」

 

現在「モン フジ」は、日本でも期間限定で展開することがある。エヴァン氏の才能とクリエイティビティがぎゅっと凝縮された名品。次回発売の際は、狙いをさだめて手に入れ味わいたい。

取材班が見つけた、「あ、これもください」

残り期間わずか! 季節限定の定番モンブラン

モン ブラン 735円(金・土・日・祝日限定)。4月21日までの販売。急いで!

 

いわゆる定番のモンブランは、毎年、9月から春までの期間限定&週末および祝日限定で発売される。この時期を心待ちにするファンも多く、期間中はリピートする人も多いのだとか。

 

コクのあるたっぷりシャンティイを覆うのは、風味豊かで濃厚なマロンクリーム。それらが、さくさくのアーモンド風味のメレンゲとからまり、モンブランならではの幸せの三重奏が口いっぱいに広がる。品の良い栗の香りが鼻孔をすりぬける贅沢な余韻は、世界的パティシエが作るモンブランならではの貫禄。カップスタイルの軽やかな見た目ながら、重厚な味わいでそのギャップがたまらなく、お酒との相性もばっちり。

チョコレートケーキを引き立てる、ショコラショー

ショコラ ショ パリジャン  1,242円、ショコラ フランボワーズ 756円

 

全国に13店舗ある、ジャン=ポール・エヴァンのショップのなかには、カフェスペースを備えている店舗がある。今回取材した、表参道店もそのうちのひとつ。

 

ショコラティエでもある、ジャン=ポール・エヴァンの真髄を味わうなら、看板メニューであるショコラショーとチョコレートケーキの組み合わせがおすすめ。

 

今回選んだのは、昨年、2018年10月にリニューアルした、ショコラ フランボワーズ。ショコラ×フランボワーズの王道コンビネーションも、エヴァン氏の手にかかれば、さらに先を行く奥深く重層的な味わいに。ヴェネズエラ産カカオを使用したビタームースチョコレートに、フランボワーズのジュレ、フランボワーズシロップをしみこませたマジパンを使ったチョコレート生地を重ねている。フランボワーズのパート ドゥ フリュイがみずみずしさをプラスし、見た目も鮮やかに。

SHOP DATA

ジャン=ポール・エヴァン 表参道ヒルズ店

2017年にリニューアルオープンした表参道店は、ボンボンショコラをはじめ、ガトーのほか人気のマカロンも豊富に取り揃え、ジャンポール エヴァンの創作を全方位で楽しめる、都内でも屈指のショップ。ショーケース内のアイテムは、店内でのイートインOK。場所柄、観光客ほかインターナショナルな客層が多いのも特徴。老若男女に支持されるブランドだけあってギフト需要も多いとか。

 

ジャン=ポール・エヴァン 表参道ヒルズ店
住所:東京都渋谷区神宮前4-12-10 表参道ヒルズ 本館 1F
TEL:03-5410-2255
営業時間:[月~土]11:00~21:00(L.O.20:30)、[日]11:00~20:00(L.O.19:30)
定休日:不定休(「表参道ヒルズ」に準ずる)

おしえてくれた人

君島佐和子(きみじま・さわこ)

栃木県生まれ。早稲田大学第一文学部演劇専攻卒。株式会社パルコ、フリーライターを経て、1995年『料理王国』編集部へ。2002年より編集長を務める。2006年6月、国内外の食の最前線の情報を独自の視点で提示するクリエイティブフードマガジン『料理通信』を創刊。編集長を経て、2017年7月から編集主幹に。辻静雄食文化賞専門技術者賞の選考委員。日経新聞の日曜朝刊「NIKKEI The STYLE」に寄稿。デザイン専門誌『AXIS』、マガジンハウス『アンド プレミアム』でコラムを連載。著書に『外食2.0』(朝日出版社)。

 

写真:山下みどり