2018年も京都は国内外からの訪問客で賑わいました。初めてでも、数十回目でも、何度通っても飽きることのない魅力に満ちているのが京都。もちろん、美味しいものもたくさんあるこの街で、この季節に買い求めたい手土産候補をフードジャーナリストの小松宏子さんにセレクトしてもらいました。仕事にもプライベートにも京都にも足繁く通っている小松さんによるチョイスは、どれも知るひとぞ知る美味しいものばかり。年末年始のご挨拶や自分へのご褒美、プチギフトまで、是非とも知っておきたい内容です。

1 ニッキの香る和製マシュマロは、花街で愛される庶民の味

 

ニッキ餅という名前に、もっちりとした餅菓子を想像しているなら、大間違い。口に入れるとふわりと溶けてニッキの香りが広がる、くせになるような美味しさのお餅です。

町のざっかけない和菓子屋さん、そんな風情の「名月堂」は、昭和25年に創業。京都の五大花街の一つである宮川町に移転したのが昭和54年のことです。現在は二代目が、初代の味を受け継ぎ、一つ一つ丁寧に手作りしたお菓子が地元で愛されています。なかでも一番人気は、経営の神様と呼ばれた松下幸之助さんも大好物だったというニッキ餅。羽二重粉を蒸して、泡立てた卵白、漉し餡、砂糖、肉桂を入れて練って作るのだそう。

初代が考案したニッキ餅はもう少しかたいものでしたが、二代目が改良を重ねて、今のふわふわの食感にいきついたと言います。ほかに黒糖と抹茶味もあり、いずれ劣らぬ美味ですが、京都らしさといえば、やはりニッキ味でしょう。1個120円(税込)という良心的な価格もあって、お土産にしたいと、6個、10個と箱に詰めてもらう客が引きも切らず訪れます(箱代別途50円)。日持ちは3日間ですが、冷凍できるという奥の手もあるそう。必ず喜ばれる、知る人ぞ知るお土産の名品です。

2 これだけあれば、ほかに何もいらない、究極の酒肴

高台寺に風雅な数寄家を構える、名料亭「和久傳」。たぐいまれな美意識をそのまま受け継ぐ、おもたせの専門店「紫野和久傳」で、12月1日に発売になったばかりの、からすみとブルーチーズの米味噌糀漬け「丹稲菹」。珍味好き、お酒好きなら、うっとりするほどの美味しさです。

和久傳のルーツは京丹後の料理旅館。40年ほど前に京都へ移ったあとも、地元農家の方々と無農薬でお米や野菜を作っています。京丹後で育った米から作る甘糀と米味噌に、さらに炊いたご飯を加えて発酵・熟成させた特製の米味噌糀。その床に漬けた野菜をご飯のお供として出したところ大変に評判で、おもたせにもと、2018年初夏、夏野菜の甘味噌糀漬けが丹稲菹として販売されました。そして、さらに研究を重ねてできたのが、ブルーチーズとからすみを漬け込んだこちらの丹稲菹です。

柔らかく干し上げた自家製のからすみの丹稲菹は、米味噌糀の甘みや旨みを含んで、それだけでも十分に美味しいからすみが、さらにねっとりとして、複雑な旨みやほのかな甘みをたたえ、えも言われぬ滋味を呈します。ブルーチーズのそれは、ぴりっとした辛味や強い塩味がまろやかになり、あとを引きます。うま口の純米酒、ワインならジュラの白ワインや甘口のソーテルヌなどを合わせれば、まさに口福! 比較的日持ちがするうえ、残った米味噌糀に野菜や鮭などを漬けたり、料理にも使えるので、年末年始のお楽しみのお土産にぴったりです。

 

12,960円(税込)*数量限定。なくなり次第終了。

3 西京味噌のほのかな甘みと、こっくりした脂の甘みが絶妙の「蔵みそ漬」

味噌の焼ける芳しい香りとほのかな甘み、ふっくらやわらかで脂ののった魚の身。魚の味噌漬けは皆が好きな人気の高い料理です。今では、白味噌に漬けたものを広く西京漬けと呼んでいますが、本来は、京都の白味噌しか名乗ることのできない、西京味噌をベースにした味噌床に漬け込んだ魚や肉のことを言います。
「京都一の傳」は、西京漬けを作り続けて100年の老舗。京都でも有数の老舗から取り寄せた西京味噌に、伏見の蔵元「松本酒造」の純米料理酒「厨酒」、「澤井醤油本店」の木樽で3年間熟成させた醤油などを合わせた秘伝の味噌床に、塩をして身を締めた魚の切り身を二昼夜以上漬け込みます。季節や気温、また魚の種類に応じて微妙に漬け込む時間を変える職人技が、ほかにはない繊細な美味を生み出します。この手間ひまかかる漬け方を、京都一の傳では「蔵みそ漬」と称しています。


魚はさわら、鮭、さばなどさまざまな種類を加工しますが、一番のおすすめは脂ののった銀だら。味噌の旨みと銀だらの脂の旨みが一つになって、ご飯のお供にはもちろん、日本酒が進むことは言うまでもありません。
上手に焼くには、ペーパータオルなどでしっかり味噌をふき取り、手で揉んで皺をつけたアルミ箔の上にのせ、充分に熱した魚焼きグリルでこんがりと焼きます。こうすることで、アルミ箔の皺に余分な魚の脂が落ちて、ふっくらかつさっぱりと焼き上がります。味噌だけでなく、味噌床に加える酒も醤油も京都の老舗の品を使用していますから、京都の美味土産にはまさに最適。年末に差し上げれば、正月の食卓が華やぐことでしょう。

 

銀だら蔵みそ漬 1切れ780円(税込)

4 古都の伝統にヨーロッパの技術を加えた、古くて新しい食べる宝石

受け取った方が「わ、可愛い!」と目を輝かすに違いない、小さな手毬のような京あめ。真っ白でモダンな店内には、日本書紀にまでそのルーツを辿れるという京都の飴の伝統にヨーロッパの技術を加えたという色とりどりの飴が、まるでジュエリーのように、ショウケースの中に並びます。水色にピンク、赤と緑、紫に……どの組み合わせも美しく、目移りしてしまいますが、一つ一つの飴の味が違うのはもちろん、すべての色に意味があるのだとか。平安朝の十二単の色目や万葉集の歌になぞらえたものから、ヨーロッパ王宮の流行色まで、ネーミングと色の意味が書かれているプレートを読んでいるだけでも楽しくなります。

ところで京あめの定義とは? 水飴を核にしてグラニュー糖を加え、それを加熱してとろとろの状態にし、そこに色素や香料などを加えて飴にする。これは世界共通の飴の作り方。この熱い粘土のようなかたまりを練ることで色が均一化し、引っ張ることで酸素が加わり、輝きが増します。スペインのパパブブレなどはここで酸味料を加えて、さっぱりとした酸味を出すとともに飴の輝きが増しますが、京あめは酸味料を使わず、職人の手で何度も引っ張ることで完成させます。つまり、より職人の経験と技術が必要なのです。

古都の伝統に新しい技術や感性を取り入れて、さらに優れたものを生み出していこうとする精神こそが京都の歴史を育んできたのでしょう。写真右の白い手毬は一番人気の、レモンライム味の「白絹手鞠」、水色は京都限定のヨーグルト味「シェルブールの雨傘」、赤はさくらんぼ味の「唐紅山吹」(店頭販売のみ)。

季節限定品や本店にしかないフレーバーもたくさん。コンパクトでかさばらないことや日持ちがする点は、京土産としてだけでなく、お礼や季節のご挨拶のプチギフトにも最適です。

 

各1個648円(税込)

*上記の他、ジェイアール京都伊勢丹「京あめクロッシェ 袿」でも購入可。

撮影:久保田狐庵