だんだんと涼しくなってきた秋の夕暮れは、日本酒が恋しくなるもの。そこで、かるく飲んでつまんで満たされたい時におすすめの「そば前」が充実した3軒を、そば研究家の前島敏正さんに教えていただきました。

 

「そば前」とは、そばを食べる前にお酒と肴を楽しむこと。そばをすすりながら飲むのではなく、肴をつまみつつほどほどにお酒を楽しむのが「そば前」です。

 

食べログ そば 百名店 2018」の中には日本酒も肴も充実したそば店がたくさんありますが、前島さんが敢えて「そば前を楽しみたい時」に推薦するのは、日本酒や肴のラインナップが個性的なお店。昨年は「秋は“そば前”の季節。じっくり飲んで食べたい東京の3名店」として「蕎麦切り 酒 大愚」「丹想庵 健次郎」「土家」をご紹介しましたが、好評につき、今年も新たな3軒をご紹介します。

手打ちそば  もり

今回取材に伺ったのは、高田馬場の明治通り沿いにある「手打そば もり」。亀有の名店「吟八亭 やざ和」で修業した森稔さんが1998年に開業した、カウンター8席のみのそば店です。

日本酒は、森さんが厳選した生原酒を中心とする定番5種類と、その時のおすすめが1種類。芋、麦、蕎麦の本格焼酎も、常時5種類用意されています。日本酒はグラス310円(1合840円)、焼酎は6勺630円からという、お手頃価格も嬉しいところ。

牡蠣の蕎麦粉焼き

馬刺し

 

そんなお酒とともに楽しみたい酒肴は、約13種類。お品書きの中には「板わさ」「玉子焼き」「鴨焼き」といったそば店の定番もありますが、前島さんのおすすめはオリジナルメニューの「牡蠣の蕎麦粉焼き」(870円)と、「馬刺し」(650円)です。広島産の新鮮な牡蠣にそば粉をつけて揚げ焼きにした「牡蠣の蕎麦粉焼き」は、衣の香ばしさと牡蠣の旨みがマッチした濃厚な一品。貝割れとおろししょうがで味わう「馬刺し」も濃厚な旨味にあふれ、しっかりした味わいの生原酒と抜群の相性です。

玉子とじそば

 

〆のそばは、石臼挽きの北海道石狩沼田産のそば粉を二八で打ったもの。前島さんおすすめの「玉子とじそば」(1,080円)は、ふわふわのかき玉をたっぷり浮かべた温かいそばです。ほどよく甘辛いつゆとかき玉、そばの風味が相まった「玉子とじそば」は、飲んだ後の胃に染みわたるよう。取材時に「玉子とじそば」を作ってくれた森泰基さんは、「美味しく作るコツは、鍋の中でつゆをかき混ぜて流れを作り、そこへ一気にとき卵を流し入れることです」と教えてくれました。

「手打そば もり」では、現在、そば打ちと料理を親子交替で行っており、店主の森稔さんは土日祝日、2代目の森泰基さんが平日の担当です。小さなお店ですので、予約して訪れることをお勧めします。

※価格は税込です。

 

東白庵かりべ(神楽坂)

2軒目の前島さんのおすすめ「東白庵かりべ」は、千葉県柏の名店「竹やぶ 柏本店」で修業した苅部政一さんが、2011年に開業したそば店。神楽坂の路地裏に佇む風流なそば店には、純米吟醸を中心とした日本酒と、豊富なワインが揃っています。

 

「入手困難な『鄙願』を限定入荷で用意するなど、厳選した日本酒の品揃えが見事です」(前島さん)

 

お料理はコース(昼3,200円〜、夜8,500円〜)とアラカルト(一品450円〜)があり、前島さんのおすすめは「竹やぶ 柏本店」ゆずりの天ぷら。秋には牡蠣や秋刀魚など、旬の食材の天ぷらを楽しむことができます。〆には、二八の「田舎」や十割の「せいろ」をどうぞ。どちらも細めで喉越しがよく、飲んだ後にするりとおさまる逸品です。

牡蠣の天ぷら 出典:bottanさん

せいろ 出典:bottanさん

 

※価格は税込です。

蕎麦 土(葉山)

最後にご紹介する「蕎麦 土(そばえど)」は、葉山の古民家を生かして2006年に開業した、完全予約制のそば店です。「立川の名店『無庵』で修業した土靖さんが作るそば懐石コース(昼5,000円〜、夜8,000円〜)は、地元産の自然栽培の野菜や鮮魚などを生かしたもの。お酒は料理に合わせた季節限定の日本酒やワインが揃っています。コースの〆のおそばは、有機栽培の玄そばを仕入れ、毎日手臼で挽いている「せいろ」。秋の小旅行がてら、親しい人とゆっくり訪れてみてはいかがでしょうか。

コースの一部 出典:スイーツハンターKさん

手挽きの「せいろ」 出典:スイーツハンターKさん

 

※価格は税別です。

前島敏正  (まえしま・としまさ) そば研究家。ほぼ毎日そばを食べ歩きながら、ブログや本でのそば情報の発信、そば同好会のセミナー主宰など、幅広く活動している。「蕎麦鑑定士」「江戸ソバリエ及びルシック(ソバリエ上級者)」の資格を保有。訪問した全国のそば屋約1,000軒のデータベース化をしている。

 

撮影:大谷次郎(「手打ちそば もり」分)

取材・文:小松めぐみ