2026年9月

朝「鳥椿 鶯谷朝顔通り店」(東京・鶯谷)

happy&orion
外観   出典:happy&orionさん

朝飲みである。人気居酒屋、鶯谷の「鳥椿」が、朝10時から店を開いているというので、行ってみた。

なんと満席である。皆さん、朝から旺盛に食べ、ぐびぐびと飲んでいるではないか。推定60代もいれば、20代もいる。

日本も捨てたもんじゃないなあ。ぼくも負けじと、頼む。メガハイボールに、チューリップ、ハムカツ、ポテトサラダをお願いした。

売りはチューリップの唐揚げで、1本90円から、99本8,910円まで頼むことができる。最高記録は、2人で60本食べた人たちだという。

「チューリップ揚げ」1個90円

鶏の手羽肉を骨から外して、端に寄せてひっくり返したのがチューリップだが、骨が露出しているので食べやすい。皮を少し外して飛び出させて揚げていて、そのカリカリした部分とむっちりとした肉の部分の対比がたまらない。

焼酎ハイボールを飲みながらやっていると、いくらでも食べられてしまう。といっても、1人10本が限界だろう。

お相手には,メガハイボールがいい。グラスも中身も普通の倍以上あるというが、中身は3倍近くある。だから重い。取っ手を掴んで飲んでいると、3杯目には腱鞘炎になるほどである(少し大袈裟)。

「ポテトサラダ」400円

他で面白い料理は,胡瓜も人参も入らぬシンプルなポテサラに、卵ふりかけをかけること。急にジャンクな味になって、妙な汚し方がクセになる。

「名物ハムカツ」500円

さらにハムカツのハムが分厚いのもいい。ハムカツのハムは薄い方がいい主義だったが、ここのハムカツを食べて宗旨替えした。ボンレスやロースでなく、ちょいと下品なプレスハムは、厚くてもいい。

「アボカド鶏メンチ」650円

他にも面白い料理がある。「アボカド鶏メンチ」なる料理があり、タネをくり抜いたところにミンチを入れてフライにしているのだという。これもまた食感の妙があり、衣のカリリの下から、ねっとりとしたアボカドの食感が広がり、中から肉の強い存在感が現れる。世にいる多くの揚げ物ラヴァーでも体験したことのない食感に、やられるのであった。

「冷たい麻婆豆腐」600円

まだある。冷たい麻婆豆腐である。恐る恐る頼んだら、かなりいけていた。詳しく説明してしまうと興醒めだろうから、訪れて頼んでほしい。

こうして楽しい、個性あるつまみを食べながら飲んで、気がつけばもう12時を過ぎていた。皆さんいい感じに酔っ払っている。

まだお天道さんは高い。良き大人たちが、昼過ぎだというのに酔っている。そんな非日常を赤の他人と共有できる幸せがここにある。

昼「Salon de fable」(東京・赤坂)

内観 写真:お店から

「嫌いな食べ物はなんですか? 」とよく聞かれる。「ありません」と、答える。すると大抵の人は、残念な顔をする。

本当に嫌いな食べ物はない。だが、苦手な食べ物はある。 食欲がわかないというか、積極的に食べようとは思わない料理である。一つが「フルーツサンド」だった。

存在として、ケーキなのか食事なのか?あるいはそのどちらでもないのかがわからない。スポンジケーキならまだクリームと果物の出合いは許されようが、食パンはどうなのだろうという疑問もある。何より問題は、食べていると飽きてきて、一皿を持て余してしまうことだった。

だが賢明な読者は気づいたことだろう。「フルーツサンド」だったと、過去形で書いていたことに、気づいただろう。これまでの概念を覆すフルーツサンドに出会ったのである。

赤坂にある、小さなサロンだった。フルーツサンドが名物だという話を聞いて真っ先に想像したのは、映えを意識した姿である。果物が何種類もこれでもかと身を寄せ合っているか,大きなカットで挟んでいるものかもしれない。だが想像とはまったく逆のサンドイッチだったのである。

「フルーツサンド」2ピース 590円

まず、切り幅がいい。一般的なフルーツサンドの半分程度という、切り幅がいい。

なぜかというと、幅がある場合は、パンを上下にして食べるので、舌は、パン、クリーム、フルーツという順番で感知する。だが薄いため、縦にして食べると、フルーツが皿に落ちてしまう。そのため横にして食べることになる。するとフルーツがまず舌に来てから、クリーム、パンの順に味わう。つまり主役であるフルーツの甘酸味や香りを感じてから、クリームとパンが追いかけるのである。

さらに油脂分35%を使い、挟んでから1日寝かしたというクリームは軽く、ほのかにバニラの香りがするから食べた後には、脂肪分が口に残らない。残るのは果物の甘酸味と甘い香りだけとなる。

これなら10切れはいける。手が止まらないフルーツサンドなのであった。

サロンと呼ぶだけあって、店内はゆったりとした時間が流れている。悠然とフルーツサンドを食べるには、最適な空間である。

「フルーツカレー」1,800円

ちなみに人参と林檎のコールドプレスジュースや、フルーツカレーもおいしいので、セットにして食べるのもおすすめしたい。ここもまた、「鳥椿」とは異なる非日常があるのであった。

夜「すし春」(東京・月島)

外観

その店は、ぽつんと一軒佇んでいた。まだ日が落ちはじめた細い路地で、「すし春」と書かれた提灯を灯している。

「いらっしゃい」。威勢のいい声に出迎えられて店に入ると、カウンターが奥に延び、親方と女将さんが2人で板場に立たれていた。年の頃は60くらいだろうか。親方の雰囲気から、おいしい気配が伝わる。

壁に並ぶ品書き

一番奥の壁には、品書きが並んでいる。50種類くらいだろうか。魚の名前と料理名が、ずらりと張り出されていた。

ああ、ほしがれいにイワシ、ごま鯖酢〆、青柳もいいな。子持ち昆布にイカゲソ焼き、イワシ南蛮漬けも食べたい。食欲が、グングンと競り上がってくる。

コースやおまかせは、ない。好きなものを好きなだけ頼める寿司屋なのである。昨今、以前は普通であったお好みで注文できる店が増えてきた。「すし春」も、お好みを貫く、昔ながらの寿司屋なのである。

「ほしがれいにコハダ、白いかゲソとシャコをつまみでください。お酒は菊正宗を燗でお願いします」

「お造り」

菊正宗は1合700円、2合頼むと1,200円と安くなるのがうれしい。お造りが運ばれた。コハダの手前のガリには胡麻が散らされているのが憎い。

「マダコ煮」

お造りで1合をやり、おかわりする。次に頼んだ「マダコ煮」は、柔らかくしっとりと仕上げられて、酒が進む。「インゲン胡麻和え」と「イワシ焼き」でもう1合やり、握りに移行することにした。

「赤身と白いかをください」

「赤身」

マグロの鉄分とイカの甘みを味わった後、イワシのキレのいい脂と、身が締まって品のある脂が漂う萩のアジを楽しんだ。酢締めしたごま鯖をいただいた後に、隣の客が食べていた赤貝がおいしそうだったので、お願いする。

ご主人が赤貝をケースから出そうとして一瞥し、言う。「すいません。赤貝だれてきたので、勘弁していただけますか?」

「青柳」

その誠実さにうれしくなり、代わりに青柳をお願いする。青柳は最近寿司屋では見かけない。貝柱である小柱は置いてあるのに、生粋の江戸前のネタである青柳がないのは、なぜだろう。

「穴子」

車海老と穴子を最後に握っていただいた。いずれも質がいい。

「この品書きは、ご主人が書いていらっしゃるんですか?」。そう聞くと「メニューはかみさんが書いているんです。私は、恥をかくのは気にならないですが、字を書くのは苦手でね」。

ご主人はそう言って、微笑んだ。

教えてくれた人

マッキー牧元
株式会社味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。立ち食いそばから割烹、フレンチ、エスニック、スイーツに居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ・テレビ出演。とんかつブームの火付け役とも言える「東京とんかつ会議」のメンバー。テレビ、雑誌などでもとんかつ関連の企画に多数出演。

※価格は税込です。

文・写真:マッキー牧元