本場の技を“東京らしく”

リストランテからバールといった店の位置付けにはじまり、料理の多様性についてはもはや説明不要なイタリアンだが、最近の東京イタリアンの面白いところは郷土系と革新系に大きく二分されるところだろう。

 

日本では肉ブームの後押しもあって、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ(フィレンツェのステーキ)を売りにしたトラットリアや、それこそ肉料理をメインに供するビステッケリアのオープンが続いた時期もあったが、日本人シェフの感性が息づいた繊細なイタリアンもまた、東京イタリアンの人気をずっと支えてきた。

シェフの佐々木泰広さん

 

今年7月に恵比寿から代官山に移転した「アルモニコ」は、いまの東京らしさを表現する軽やかで繊細なイタリアンだ。シェフの佐々木泰広さんは、モデナの「Osteria Francescana(オステリア フランチェスカーナ)」をはじめ、本場での修行経験を持つが「日本人が作るイタリアン」に対する誇りと思想は、年々強くなっているようにも見える。

生まれ故郷の鮮魚で、旬の味わいを表現

恵比寿時代から自分が生まれ育った大分・豊後水道で揚がる魚介を積極的に料理に取り入れてきた。自身が働いたエミリア・ロマーニャ州にも漁業が盛んな地域があり、その経験を重ねている部分ももちろんあるが「日本の旬を感じられるイタリアンを追求したい」という佐々木さんの料理は、とりわけ魚介使いが印象的だ。

今回の移転にあたって、ディナーは7品構成の8,800円(税別)のコースのみに。関アジのカルパッチョや紫うにの冷製フェデリーニ、イサキのフリットなど、その日の仕入れで軽妙にコースを組み立てる。以前と変わったのは、新たに炭火を導入したこと。

 

「炭を扱うのは簡単ではないけれど、僕、じつは肉を焼くのも得意なので、これを機会にチャレンジしていきたいなと思っているんです」と話す。

東京イタリアンの“今”を感じる空気感

席数もぐっとコンパクトになったが、カウンター6席と1テーブル、個室が1室という造りは“活き”のよいシェフの料理を一番よい状態でゲストに楽しんでもらえるベストな空間だ。シェフとの距離感は近いが、洗練された雰囲気や料理はあくまでリストランテの構え。だが、気負わない空気感が断然、今っぽい。

恵比寿でひとつの時代を経てきたシェフも脂がいい具合にのりつつ、いい意味でどこか肩の力が抜けた様子。悠々自適に料理を楽しむ佐々木シェフの姿を眺めていると、東京イタリアンは伝統と革新のはざまで、確実に進化していると思える。

写真:上田佳代子

取材・文:小寺慶子