定食王が今日も行く!Vol.58

深夜でもあったかい定食が食べたい!魚、ご飯、味噌汁に癒やされる定食夢芝居

呑んべえの聖地、三茶三角地帯で

22時に開く深夜食堂

 

厳しい暑さの夏もほぼ終わり。まだまだ暑い日々が続く9月、今年も残すところあと4カ月。最近では「働き方改革」が世間でも叫ばれ、徹夜することも少なくなったが、10年ほど前までは、終電で帰れない、徹夜作業で朝帰り、翌日昼に一時帰宅は当たり前という、まだまだブラックな働き方をしていた。そんな時にお世話になったのが、三軒茶屋の深夜食堂「おさか」だ。

呑んべえの聖地、三軒茶屋の三角地帯にあるお店は、深夜22時に開店し翌日の昼まで営業している。深夜帯になると、どこからか人がたくさん出現し、この場所を舞台に『真夏の夜の夢』のような喜劇が始まる。著名人や華麗な酔っ払い達が集う不思議な舞台になる。

この店の暖簾には「千客萬來」とある。この店に訪れる人々は飲みに来る人、飲みの締めのご飯、残業後の深夜飯、夜遊び明けの朝ご飯に訪れるなど、使い方は様々だ。深夜営業だけで食堂を続けられる店は少なく、2007年から10年以上営業を続ける貴重なお店だ。

店主の篠塚さんは、老百男女問わず、忙しく暮らす人にちゃんと朝ご飯を食べてほしいという思いから創業したのだとか。定食以外のメニューの数も多い。食材も厳選されており、薀蓄を書いた紙が壁やテーブルなどに見られる。

天日干しで旨味が詰まった

西伊豆の干物が主役

 

入店すると「オススメは魚です」と推しを紹介してくれる。西伊豆直送の、旬の魚を使った天日干しの干物をメインのおかずにした定食が、この店の名物だ。

自分がよく頼むのが金目鯛。身はふっくら皮はパリパリで香ばしい。薄味で、ガッツリ飯をかっ喰らう!というよりは、ゆっくりと深夜飯、朝ご飯を楽しむのにほどよい塩加減がうれしい。

夏の終わり、秋の始まり、今の時期には秋刀魚のみりん干しもおすすめだ。 

主役の干物だけでなく、3つの小鉢が戯曲『夏の夜の夢』に出てくる3匹の妖精のように名脇役を務める。この日はおぼろ豆腐、ブロッコリー、やまやの明太子に柴漬けがお盆を彩っていた。

 

使用しているお米は岩手県北上市特選のひとめぼれ。炊飯器で炊いているそうだが、雑誌などメディアでも取り上げられるほど、繊細な洗米でふっくら炊き上げている。ちなみに塩は沖縄産の「青い海」と呼ばれる海水塩だ。

すまし汁が選べる味噌汁に!

〆のTKGでフィナーレを

 

おさかの定食のフィナーレを飾るのが、この店の真骨頂とも言えるすまし汁だ。「西伊豆田子港で親子で手作りの鰹節と枯れぶし、四ヶ月〜五月かけて作るとても美味しい!ものです」との紹介文が壁に貼られている。以前紹介した「かつお食堂」でも使用されている「カネサ鰹節商店」のものだろうか?

化学調味料に慣れてしまっている私たちの舌でも、ゆっくりじっくり煮出したダシは、体の芯まで染み渡る上質で純粋な味がする。

もちろん、そのままでも十分なほど美味しいのだが、最後は5種類の選べるお味噌を溶かして、自分だけのお味噌汁を作ることができる。「信州、山形、仙台、八丁、麦麹」の5種類。香り高い鰹節のすまし汁なので、「八丁味噌」や「仙台味噌」を選ぶことが多いが、自分なりに組み合わせてみても良いのでは。

そして定食のフィナーレは「どくだみ卵」のTKGだ。どくだみを食べて育った北九州産の鶏が産む卵は、ぷりっぷりだ。黄身の立ち上がりがよく、すくっと凛々しい顔をして白飯の舞台の中央にそびえ立つ。ここではご飯にしょう油をかけて、その後に卵をなじませていく方法をオススメしている。ちなみにしょう油も「薄口、濃口、たまり」の3種類から選ぶことができる。

自家製の香ばしい味ごま、しょう油の旨味が、卵で包み込まれる。口の中で「夏の終わりのハーモニー」が流れる。いよいよ幕が下りる。

 

こんなに素朴な店ながらそれぞれの料理がしっかり名脇役として脇を固め、小さい定食という舞台の中で、壮大な真夏の終わりのファンタジーを紡ぎ出す。

 

夢はいつか覚めてしまうが、深夜に定食という素敵な夢物語に酔いしれて、帰宅して眠りにつく。残業で帰りが遅くなった日や、徹夜明けの日は、深夜食堂で夢芝居を観に行ってはいかがだろう。きっといい夢が見られるはずだ。