〈おいしい歴史を訪ねて〉

歴史があるところには、城跡や建造物や信仰への思いなど人が集まり生活した痕跡が数多くある。訪れた土地の、史跡・酒蔵・陶芸・食を通して、その土地の歴史を感じる。そんな歴史の偶然(必然?)から生まれた美味が交差する場所を、気鋭のフォトグラファー小平尚典が切り取り、届ける。モットーは、「歴史あるところに、おいしいものあり」。

第8回 富士吉田の「うどん」と、日本一の「コロッケ」

富士吉田は標高800mほどの高原都市だ。
その昔、お江戸日本橋から甲州街道をたどり、大月、吉田を経由して富士山へと向かう道を「富士山道」と呼んだ。江戸時代に富士山をお参りする登山グループ「富士講」という大ブームがおきた。江戸から歩いて、まずは2泊3日で富士吉田までが一区切り、少し休んでこの鳥居をくぐり、富士山頂に挑戦する。今では考えられない超豪華なレクリエーション・スペクタクルだ。なんでも往復すると縁起が悪いので御殿場などを経由して江戸に戻ったという話もあった。とにかく日本人はそういう迷信やげん担ぎが大好きだ。衣装も身を清めて霊峰富士を仰ぐということで、白装束「行衣(ぎょうい)」を着用、汚れのない清い体で死ぬ覚悟で登りなさいということだった。眺めれば眺めるほど確かに富士はどんと大きくそびえているなあ!

北口本宮冨士浅間神社の立派な鳥居

ここが最初の入り口「馬返(うまがえし)」だ。むかし馬で来た人はここまで、あとは歩きなさいという場所である

見上げると存在感がすごい! ああ、頂上ははるかかなただ
幻想的な富士を富士五湖で一番大きくて近い山中湖から望む

 

とにかく腹が減っては神聖な富士山には登れない。皆さん穢れのない白い吉田うどんを食べ、白物づくしの縁起を担いで体も清め、頂上をめざす。道しるべには10.4km 512分と書いてあった。

 

この一帯では、富士山の影響で溶岩流や火山灰が土地を痩せさせている。そのために雑穀類(ひえやあわや大麦・小麦)の栽培を主としており、汁の中に「すいとん」にして野菜と一緒に煮込んで食べる習慣ができたそうだ。

白く清める、吉田うどんの元祖名店

桜井うどん

この桜井うどんはお店に入ると、温かいの冷たいの?と聞かれる。つまり2種類しかないのだ。いたってシンプルである。もう少し食べたい人は追加で替え玉うどんを注文する。

富士山湧水仕込みの歯ごたえがある麺に、茹でキャベツの付け合わせと出汁のきいた味噌と醤油の合わせつゆが、なんといってもうまい。桜井うどんはお揚げと特産品キャベツの組み合わせがベストマッチである。

 

ここ富士吉田では女性が一家を支えており、1000年以上もの前から自宅ではハタオリの音が鳴り響き、男性は主夫として昼間はうどんを捏ねていたそうだ。織物の機械を動かしている女性の手が荒れないように食を男衆が担当。いつの時代も、かみさんには頭が上がらない。働かざる者食うべからずだ。力任せに一生懸命こねているので吉田うどんはアルデンテ、実に食感が男らしい。ハタオリとうどん文化はすばらしい。吉田うどん屋さんは、なんと40軒はある。すこしずつ食べてはしごするのも良いかも。僕は「みうらうどん」もお気に入りだ。

桜井うどんの暖簾も実に良い味を出している

富士山と並んで、日本一に認定したい絶品コロッケ

お惣菜の店 ふるや

河口湖町にあるこのコロッケ屋さんは、きっと富士山と並んで日本一である。
どうしても皆さんにお教えしたかった。

コロッケは買い食い専用だ。できたてのホクホクしたカリカリした食感は絶品で、中身はじゃが芋だけとシンプルなんだけど、ほんとうまい。

ほかのメニューもたまらない。ハムかつは少し厚めなおいしいハムで、ジューシー。これ、歩きながら食べたら最高。とんかつは衣がすこし厚めでお肉は薄めな、お上品なとんかつ。何枚でも食べられる。アジフライもお気に入り。なかなかこんなヘルシーな揚げ方はできない。衣の中からアジの身がふわっと湧き出る。魚フライは、白身の魚と衣がマッチングしたフレンチとでもいうか、タルタルソースが相性バッチリ。

最後に写真家岡田紅陽は、すべての人生をかけて魂のある富士山を素晴らしいモノクロ写真で切り取っている。遠く北アルプスから見る富士や生活の場としても厳寒の様子が写真からうかがえる。時間があったら是非、忍野村にある岡田紅陽写真美術館に立ち寄って欲しい。

 

写真家は、いつもその場にカメラを持って存在していることが常に大切だ。スマホでも良いので皆さんも良い瞬間を切り取って欲しい。そして富士には素晴らしい脇役である天然の湧き水がある。この湧き水が全てのおいしいものをわれわれに与えてくれる。富士山のふもとにある「忍野八海(おしのはっかい)」は、富士山の伏流水が湧き出た池が点在する、清涼感たっぷりのスポットだ。

 

浅間神社の紫陽花が見事だった。ついつい綺麗なお花はカメラで記録したくなる

朝焼けの赤富士は世界一だ。眺めては食べていそがしい!

 

写真・文:小平尚典