これまでにない挑戦をパッションで伝えることの大切さ

季節限定、好評だった「鮎とズッキーニ」のピッツァ 写真:お店から

本田:お客さんの反応はどう?

冨永:お客様はすごく喜んでくれていて、驚きもしてくださっています。ただ、やっぱり、今やっていることの概要というか全体像が見えないので、実際に店に来て食べて、こういうことなんだと理解すると、面白いねと。こんなにピッツァはおいしくて、楽しめるんだという反応はいただいています。

本田:来てもらうまでが大変だよね。それを理解してもらうまでが。

冨永:そうですね。そこが一番のネックですね。足を運んでもらうまでが難しい。

本田:何で北千住に店を作ったの?

冨永:一番は自分が住んでいて、地域のことがわかっていること。一緒にイベントをやったりなど近くの飲食店とのつながりもあります。あとは足立市場があるので、自分の目で見て魚介類とかを購入できる。懇意にしているワインショップもあって、自分で出向いて素材を手に入れられるところが結構あるので、そこが魅力ですね。

本田:お客さんの入りはどう?

冨永:正直、まだ芳しくはないですね。知ってもらうまで全容が見えないというのが一番難しいところだと思います。ランチに来てもらえば、ピッツァ自体のおいしさはわかってもらえるかなとは思います。それを夜につなげて、知ってもらう機会になればいいなという感じです。

写真:お店から

本田:知ってもらわないと、来てくれないからね。お客さん自身に発信してもらうのと、後、やっぱり、自分の発信をもっとした方がいい。もっと貪欲にやった方がいいんじゃないかなって気がする。

冨永:そこは足りてないところだと自分でも思います。

本田:こういうことやっているから、こういうふうにしたい、こうやっているんだよということを伝える力が必要だと思う。Tommyのやっていることは単なるピッツァじゃないじゃん。日本人は、まだピザのコースに対する理解がないというか、存在することすら知らないわけじゃん。だから、コースの哲学とかを伝える力が必要だと思うんだよね。ぺぺさん(フランコ・ペペ)とかと話すとさ、あの人もすごい哲学者じゃん。ピッツァイオーロ(ピッツァ職人)とかへの思いがすごくあふれてきてさ。俺はこんなことやりたいんだ、伝えたいんだみたいなのがある。新しいことをやる時には、あの熱意というかパッションが絶対必要だと思うんだよね。

冨永:自分の中でこれをやっていくという表現自体がまだうまくできてなくて。最初の師匠はナポリの人で、何に対しても情熱を持っていて、すべてに一生懸命な人でしたね。その師匠から教わった言葉に「ピッツァイオーロは疲れないんだ」というのがあります。ピッツァイオーロは常に働き続ける。ピッツァ生地は発酵なんで、常にその様子を見てなきゃいけない。あと、窯も常に火を焚いてないといい状態で焼けないので、その様子も見なきゃいけない。とにかく頭の中で、今の状況だとどれがベストか、今の環境でどうしたいのかを常に考えないといけない。そういった精神を教えてもらいました。それが、今も自分の中に強く生きています。

トロトロのトマトソースも絶品と評判 写真:お店から

本田:そういった話をもっといっぱいした方がいい。学んだことや、そこからこういうふうにやりたいんだということを伝えた方がいい。

冨永:ピッツァ作りには粉へのこだわりもあると思うんですが、最初の師匠からは、逆に、そこが重要じゃないというか、生地を作っていくプロセスがあるから、結果としておいしい生地ができていることがベースの粉よりも大切だと学びました。イタリアでは、ケータリングというか、個人の家や別荘に出向いて生地を焼くということがあります。生地をあらかじめ準備して持っていくんですが、窯などはそこにあるものを使い、食材も自身でその近くで調達します。そこでは、そういった店と環境が違う中でどう対応するかを考えることが、ピッツァイオーロとして必要なんだと学びました。ある時知り合い経由で、子ども誕生会があるから焼いてくれという依頼があって。初めて一人でピッツァイオーロとして対応したことがありました。その時、依頼主のイタリア人の方々がめちゃくちゃ喜んでくれて。イタリアの人が自分のピッツァを認めてくれた、ピッツァイオーロとして認めてくれたというのが、本当にうれしかったですね。イタリアに来て学んでよかった、天職としてやっていきたいと思いましたし、自信にもつながりました。

本田:そういうとこだよ、そういうのを伝えたいね。