こんな体験は初めて! ピッツァ デグスタツィオーネとは

ランチはピザ1枚にサラダとドリンクがつく。写真は定番の「マルゲリータ」 写真:お店から

本田:この間体験させてもらったデグスタツィオーネ。いろんな種類の生地を使っていて、日本にはなかなかない形で面白かった。ほぼこのスタイルで店でも出している?

冨永:スペシャルな部分もありましたが、ベースはすべてあの通りです。

本田:この対談を読んでいる人にも紹介したいから、どんな感じのコースなのか教えてください。

冨永:ピッツァは全部で7ピース、コース最後にはデザートが出ます。ピッツァは1ピースずつ、トッピングや形、生地がすべてが異なり、いろいろなピッツァを楽しんでいただけます。生地は3種類使っていて、最初が普段使っている高加水の生地。その次がシチリア産TUMMINIA(トゥミニア)という古代小麦を使った生地。ナチュラルな風合いの生地で、少しシナモンのような香りがします。最後は最初より加水率が高い、ピッツァというよりはフォカッチャの形の生地です。この3種類を使い分けて、形状も変えながら、ピッツァを楽しんでいただく感じですね。

本田:それぞれの生地をもう少し詳しく紹介してもらえますか。

冨永:普段使っている生地は、BIGA(ビガ)という発酵種を用いた生地で、日本でも知られるようになった“コンテンポラネア”というモダンなスタイルの生地です。2日ぐらいかけて発酵させ、クラシックスタイルの生地より高加水。加水率は大体、70〜72%ぐらい。同じ生地のグラム数でも水分が多いということは、その分小麦を減らすことができるのでより軽い生地になっています。また時間をかけて発酵させることで小麦を消化しやすい形に変えているので、軽やかに食べられます。もう一つの古代小麦を使った生地。こちらは古代小麦自体、グルテンが非常に少なめなので、食べた時にあまり胃もたれしません。ナチュラルな小麦のため、精製された小麦よりビタミンなどの栄養素が損なわれず、風味と味わいのコクが濃いのが特徴。最後の高加水のフォカッチャの生地は粉より水分が多く、110%の水分を入れて焼き上げています。焼きたては外側がバリッとしつつ、中は水分が多く、モチモチ。そのコントラストが特徴で、他にはないような生地感になっています。

ディナーピッツァコース、9,000円(税込) 写真:お店から

本田:Tommyがコース作る時に自分の思いとか、哲学とかさ、こういうふうにしたいから、このコースにしたというのはあるの? お客さんにどういうふうに感じてほしいかとか。

冨永:コースにしていることで、若干ハードルが高く感じられてしまっているかなとは思います。ただ、いろんなピッツァの楽しさとか可能性を感じていただきたいですね。高加水の生地だったり、薄く焼いてパリッとしたせんべいみたいな生地だったり。小麦だけでなく形も味も変えています。日本ではピッツァというと、具材に注目されがちで、トッピングやチーズで味を楽しんでいる部分が大きいと思います。うちの店では生地から楽しんでもらいたい。生地の縁を残しがちだと思うんですが、そこがおいしいんだよということを伝えたいし、楽しんでいただきたいですね。

ピッツァのピース一つ一つに異なる味わいがある 写真:お店から

本田:コースにした一番の目的は? 日本ではさ、ピッツェリアでコースをやっているとこってまだ少ないじゃん。わかりやすくマルゲリータとかマリナーラとか。そういうところがほとんどだと思うんだけど、あえてコースにした理由は何かあるの? チャレンジだと思うんだよね。日本でこれを理解してもらうのがさ。価格的なものもそうだし。

冨永:最初はイタリアで受けた自分の衝撃、今まで見たことない、日本でもまだやってないことを自分の店でやってみたいという思いがありました。他の店と同じことをしていても仕方がないというのもあって。あとはやっぱり日本人ならではの、いろんなものをちょっとずつ食べたいという願望が、このスタイルでは叶えられるとも考えました。いずれ受け入れてもらったら、こんなに楽しめるんだということを知ってもらえるかなと。コースにはマルゲリータといった定番を入れていくだけでなく、日本の食材を使って、より独自性を出していきたいですね。日本にいるのにイタリアだけにこだわる理由はないわけですから。日本で良い食材に出会える機会があったら、それをどう生かせるかを楽しみたいですね。お客様にもいろんな食材を知ってもらえる機会を増やして、より良い食材を提供できる場所になって、少しでも生産者の方たちに喜んでもらえればいいですね。そうすれば食の豊かさや文化も育まれていくんじゃないかという思いがあるので、そういった挑戦をやっていきたいです。

本田:例えば、どういうふうに?

冨永:ピッツァにレンコンをトッピングした時、東京ではあまり知られていない岩国れんこんを使いました。岩国には母方の実家があるんです。自分を知ってもらう意味を込めつつ、その地域にフォーカスして選んだ食材です。そのほか、広島市出身なので、スポットで広島の三良坂という地域にあるモッツァレラを使ってみたり。あとは、食後酒でリモンチェッロを出してるんですけど、そのお酒は、しまなみ海道にある大三島産レモンで造られています。そういったものを、これからも使っていきたいと思っています。