〈日本初出店記念〉Restaurant TOYO Tokyo師弟シェフスペシャル対談

 

世界的デザイナー・髙田賢三氏の専属料理人だった中山豊光氏が2009年にフランス・パリにオープンした「Restaurant TOYO」は、予約が取りづらいほどの人気を博すカウンターフレンチ。2018年3月には、遂に故郷日本に出店する夢を実現し、東京ミッドタウン日比谷に「Restaurant TOYO Tokyo」をオープンした。

 

そのオープンを記念し、中山シェフと厨房を預かる大森雄哉シェフに、出会いのきっかけからRestaurant TOYO Tokyoの今後の展望までを語ってもらった。

お互いの師匠の紹介を通じて生まれた新たな師弟関係

中山豊光 地元の高校卒業後、大阪の料理専門学校に進む。 神戸のフランス料理店「ジャン・ムーラン」で修行を重ね、1994年渡仏。1996年パリの本格的な日本料理店「伊勢」で働き始め、厨房のトップを任される。 常連客であった髙田賢三氏に手腕を認められ、同氏の専属料理人となる。 2009年に「Restaurant TOYO」をパリにオープン。フランス内外のメディアにも取り上げられ、 予約が取りづらい名店として注目を集めている。

 

中山 大森シェフと初めて会ったのはパリの店が開業した半年後でしたから、2010年の3月です。パリで修業したいということで僕の店にやって来たんですが、きっかけは師匠の紹介です。僕が昔神戸で働いていた「ジャン・ムーラン」という店のオーナーが、大森シェフの熊本時代の師匠と知り合いだったんです。お互いの師匠の紹介を通じて知り合ったというわけですね。

 

大森雄哉 2004年辻調理師専門学校卒業。同年、(株)ハウステンボスホテルズ入社。アラン・シャペル氏の弟子の上柿元勝氏に師事。2008年大阪フランス料理店「エプバンタイユ」入社。同年、熊本・「洋食の店 橋本」入社。2010年渡仏「Restaurant TOYO」で中山豊光氏に師事。その後、中山氏のもとで研修後、帰国。2015TOYOプロジェクト参画。20173月再渡仏 「Restaurant TOYO 」にて中山豊光氏に師事。20183「Restaurant TOYO Tokyo」(東京ミッドタウン日比谷)シェフに就任。

 

大森 はい。語学学校に通いながら3カ月研修させていただいたのですが、料理のシンプルさや、中山シェフの素材との向き合い方がすごいと思いました。その後、諸事情で帰国せねばならなくなったんですが、ずっとパリに戻りたいと思っていたので、2015年に「TOYO project」が始まった時に迷わず参加させていただきました。

 

 

中山 「TOYO  project」は、「巣立った弟子と一緒に何かできれば」という思いから始めた活動です。最近は小さい規模のレストランが増えて、料理人同士のつながりがなくなってきているので、自分のスタッフを育てていかないと、と思っているんです。それが「いつか日本にレストランをオープンしたい」という思いとつながり、東京店オープンに至ったわけです。

素材を最大限に生かし、シンプルであることこそTOYOの真髄

©️Restaurant TOYO Tokyo

 

中山 料理に関しては、パリ店も東京店も同じくシンプルです。私は食材が本来持っている旨みを活かしたいと考えているので、なるべく少ない調理工程で、盛り込む要素も最小にとどめています。

 

 

大森 食材はその時に市場で手に入る一番いいものを使いますので、料理の内容はその都度変わります。一般的なフレンチのレストランは「A」というメニューの内容を細かく決めますが、ウチは食材によって臨機応変に「A」というメニューの内容を変えていくスタイルですね。

 

 

中山 店の造りに関しては、東京店はパリ店より少し小さいですが、カウンターが中心なのは一緒です。カウンタースタイルにしたのは、お客さまと何気ない会話を交わしたり、料理のプロセスを見て楽しんでいただきたかったため。パリの店は半分ぐらいが常連さんで、有名人も普通の人も関係なくしゃべっていますが、東京店もそんな店に育ってほしいですね。カウンターのお客さん同士がしゃべるぐらいになってほしい。

 

 

大森 はい、がんばります。お客さまの好みや体調に応じて、味も量も臨機応変にアレンジしていくことが大事ですね。

 

 

中山 そうそう。僕は、常連さんを増やすためには、特別扱いすることも大事だと思います。「お客さまのために特別なものを作っています」とね。賢三さんの家で色々なお客さんの好みに合わせてきたので、その影響が大きいのかもしれませんが。

パリと東京の楽しみ方の違いは“メニューの存在”にあり

中山 パリと大きく違う点は、メニューの存在です。東京店のメニューは「おまかせ」ですが、パリではお客様が注文する前に食材を確認できるように、メニューをご用意しています。

 

 

大森 お客さまの宗教による食材の制限もありますし、フランス人はあまり変わった調理法のものを食べませんので、説明する必要があるんですよね。

 

©️Restaurant TOYO Tokyo

 

中山 20年ぐらい前は、お鮨もシャリだけ食べたりネタだけ食べたりする人がたくさんいたぐらいです。当店の定番の「ブイヤベースカレー」も、今でこそ好評ですが、8年前は「何だこりゃ?」と言われていたんですよ。このカレーは賢三さんの家でも作っていたブイヤベースを漉してルーを溶かし込んだもので、いわゆる日本式のカレーなので、受け入れられるようになるまで結構時間がかかりました。パリの人々に評価されるようになった理由は、自分ではよくわからないものですが、ニセモノが嫌いな賢三さんのもとで働いた経験は少なからず関係していると思います。ブイヤベースは、サントロペの有名店に作り方を学びに行ったんです。

 

 

大森 私もその作り方を中山シェフから教わり、トンコツスープのように強火で乳化させて作っています。

 

 

中山 他の違いといえば、東京店は小さいので、店をスマートにせざるを得ない部分があるところですね。

 

©️Restaurant TOYO Tokyo

 

大森 はい。東京店は食材をストックできるスペースが少ないので、お鮨屋さんのように仕入れを少量ずつ頻繁に行い、いいものを使い切っていくつもりです。僕は築地で選ぶ魚を活かしたシンプルな料理が得意なので、新鮮な鮨種レベルの魚を使って、小さくてもインパクトのあるお料理をお出ししたいと思っています。

 

 

中山 東京店は大森シェフに暖簾分けした店なので、どんどん大森シェフのカラーを出してほしいですね。見た目をきれいに見せようとしてゴチャゴチャさせたりとか、「Restaurant TOYO」のコンセプトと違うことはダメですけど。

 

 

大森 中山シェフはとても優しい方ですが、料理に対する気持ちが中途半端だったり考えが足りなかったりすると怒られてしまうので、肝にじます。

 

 

中山 そのうち誰も言ってくれなくなるから、本当は自分で気をつけないとね。東京店では、大森シェフにも後輩を育ててほしいと思います。とにかく、まずは東京店に常連さんが増えるように!

 

 

 

取材・文:小松めぐみ

撮影:松園多聞