本田直之グルメ密談―トップシェフが内緒で通う店
「トップシェフたちはどんな店に行っているのか」。食に興味のある人なら知りたいこのテーマ。プロたちはどのような視点で店を選び、通うのか。そこにはきっと“点数”だけではない独自の基準があるはずだ。
そんな疑問を、直接シェフたちにぶつけるのはハワイ、東京を拠点に、世界中のフィールドで活躍している本田直之さん。B級から最高級レストランまで、日々食べ歩くと共に、シェフや生産者とのネットワークを築き上げている本田さんがホストとなって、「The Tabelog Award」ゴールド受賞店のシェフたちに「店選び」について問いかけていく。
第2回は「CHIUnE」のオーナーシェフ、古田諭史さんがメディア初登場。2016年のオープン以来、瞬く間に人気となり「The Tabelog Award2018」では、オープン1年余りでゴールドを受賞。若き気鋭のシェフが行くお店とはいかに?
深夜の〆ジンギスカン
本田 メディア初登場だよね。
古田 はい。取材とか全部断っていて。
本田 そうか、その貴重な機会をありがとう。早速だけど、結構食べに行ったりしてるのかな? 最近よかったところってあった?
古田 昨日も行ったんですけど、麻布十番の「ヒツジサンライズ」はよく行きますね。
本田 昨日も(笑)。結構行ってるの?
古田 札幌を経験してる人間に言わせると、ジンギスカンは定期的に行かねばならないと。
本田 札幌まで行かなくても、東京で食える(笑)。しかもうまいし。
古田 深夜も行けるじゃないですか。ススキノみたいに〆のジンギスカンができるように、木・金曜だけ2:30がラストオーダー。
本田 へえ、いいね、それ。
古田 仕事終わりが0時過ぎ。そこからでもまだ〆ジンギスカンに行けるという。しかも国産で、石田めん羊牧場というレストランにしか卸してない羊が食べられるんです。
本田 ジンギスカンに出すにはレベルが高いんだ?
古田 それが一人前2800円。
本田 おおー!
古田 安くない、決して安くないんですけど、でもうまいし、ちゃんとしてますね。オーストラリアのラムも冷凍チルド状態で来ているので、臭くないんです。
本田 レベル高いんだね。
古田 それともうひとついいのは、従業員が焼いてくれるんです。
本田 自分で焼かなくていいの?
古田 ええ、「よろにく」方式。個人的には自分で焼いてもいいんですけどね。
本田 まあシェフはね、でも一般的には焼いてくれる方がありがたい。
古田 そうですね。ワインも多少あったり。使い勝手がとにかくいいんです。それと僕が気に入ってるのは、塩で食べるところ。お店の人から「塩で食べてください」って言ってくれて。だからこの店に行くと、口の中が平和に。深夜に食べても平和に終わる。疲れない。
本田 食べ疲れしないやつね。知り合いなの?
古田 知り合いじゃないです全然。オーナーの方が中心で、スタッフが数名という感じですね。昨日の話によると、独立される前に、「羊の牧場を見たい」って、オーストラリアの協会のようなところに直接電話して、「牧場紹介してほしい」と頼んで現地まで行ったそうです。
本田 おー、それは熱いね。
古田 そうなんです。熱いんです。
本田 そこも、またいいんだよね。
古田 ええ。思いがのっかりますよね。
本田 料理人にそういう情熱がないと、つまんなくなっちゃうよね。作ってる人の思いが感じられないと。
古田 そうですね、だから真剣に食べますよ。いつも真剣ですけど、より真剣に(笑)。
本田 やっぱりそういう店に行きたいよね。行くのはお客さんと行ったりとか、友達のシェフと行ったり?
古田 そうですね。仕事終わりにしか行かないので、その時間で動ける人間限定で誘っていくっていう感じ。
本田 深夜営業してる木、金に行ける店になってくるよね。
古田 今度来てくださいよ、〆ジンギスカンに。
本田 〆ジンギスカンって、なんかありがたいよね。悪いことしてないって感じ、罪悪感がないって感じ。
古田 融点が高いですからね、羊の脂は。
本田 ラーメンとか食うより全然いいよね。炭水化物入る余地全然ないから。行くと何を頼むの?
古田 羊に関しては全部お任せです。昨日は6種類くらい出してくれました。国産で3種類と、ニュージーランド、オーストラリア、フランス産それぞれ。
本田 やっぱり国産が好み?
古田 そうですね。ラムとマトンの間にホゲットというサイズがあるんですけど、輸入では入れていないんです。だから、ホゲットは国産でしか食べられない。
本田 へえ、ラムとマトンの間?
古田 ええ、味わいとしては一番しっかりしている。においもないんです。
本田 じゃあ、味がちょっと強くてにおいがしない、いい感じなんだ、ホゲットは。
古田 品種ごとの説明もしてくれるんですけど、羊に特化してるから、料理人としても勉強になりますし、お客さんでも興味がある人はまた行きますよね。
シェフへのリスペクト
本田 へえ。再来週一緒に行くこと決定! 楽しみ。 じゃあ他の店は?
古田 「ロマンティコ」ですね。明確なんですよ、全て軸がはっきりしてるっていうか。塩もしっかり利かせてるし、うま味もしっかり。僕、淡い料理が好きそうなイメージを持たれるんですけど、決してそんなことはなくて、芯があるっていうか、味わいが淡いか濃いかではなく、その芯が濃厚なものが好きなんですよね。
本田 かなり、濃厚?
古田 しっかりはしてますよ、めちゃめちゃ。鼻血が出るほど濃厚っていうことではなく。ピエモンテ料理とかそういう感じではないです。
本田 塩の利かせ方はイタリアっぽい感じ?
古田 ですね。あと、一人でお店をやられてるんです。それが職人からすると、一人でこなしている手際のよさを見るのもすごく楽しいんですよね。
本田 サービスもいないの?
古田 いないです。ワンオペでやってるから、お客様はそれを理解してほしい。すごくいいお店なんですけど、人によっては無愛想に感じる人もいるかもしれなくて。よく、そういう話題が上がるじゃないですか。
本田 上がるねえ。それはそういう理由なの?
古田 一人でやっているので、無駄な会話とかしないんです。ただ、仲良くなるとすごく話してくれる。
本田 無愛想ではなくって料理に集中したいんだよね。そういうシェフもいるよね。普段はすごいしゃべるのに、厨房に立つと全くしゃべらない人って。ま、わかるよね。終わって、落ち着いた時に話しかけるとかね。
古田 一人でやっているのに、夜はアラカルトもあるので。コースもあり、ごちゃごちゃじゃないですか。だから話してる時間はないと思いますよ。洗い物もやって、ドリンクもサービスして…。
本田 ピークタイムはそうだろうね。深夜に行くの?
古田 いや、僕はお昼が多いですね。夜も行きますけど、いつもお任せでお願いしてます。月一くらいで行ってますね。もともと「わさ」の山下さんに紹介してもらって、そこから通うようになったんです。で、その3か月後にイタリア旅行に誘ってもらって。
本田 へえ! イタリアにはいつ行ったの?
古田 3年前の夏ですね。エミリアロマーニャの「オステリア フランチェスカーナ」とか「イル ポーベロ ディアヴォロ」とか。
本田 「イル ポーベロ ディアヴォロ」のピエール・ジョルジョシェフ、どこか行っちゃったんだよね。俺、すごい好きだったんだよね、ハーブの使い方とかさ。ハーブの辞典見た?
古田 辞典は見てないですね、ハーブ園は全部見せてもらいました。
本田 イチジク食べた? ウイキョウのっけて、これが料理だって。それがめちゃくちゃうまくて、すげーなーって思って。彼、繊細なイタリア人って感じでさ。手帳作ってて、ハーブの何百種類だったかな。すっごい丁寧な字で書いてあるわけ。昆虫採集やってる子供みたいな感じで。
古田 マメな感じですよね。あの場所であのスタンスで、あんなゆったりした流れの場所で。
本田 そう。ロマンティコに話を戻すと、飲み物はどうしてるの?
古田 昼行くときはグラスで、スプマンテから白・赤くらいですけど、夜行ったらボトルで通してますね。味わいがしっかりしているので、赤な感じでいけますよね。
本田 赤な感じ?
古田 赤で結構いけますね。もしくは、しっかりした白。白が好きなんです。豚肉なら、白と合わせたり。
本田 白でうまいのは永遠にそれだけでいけちゃう。
古田 そうですね。そういうので、頼んだりもしますね。スペシャリテがトロフィエのジェノヴェーゼなんですよ。
本田 毎回出てくるの?
古田 毎回出るわけじゃないですけど、パスタはいつも2品くらいだしてもらってて、一品はショートで、一品はロングで、両方とも手打ちなんですけど、トロフィエとタヤリン、ピチ(もっちりした少し長めのパスタ)とか。
本田 シェフ、ピエモンテにいたとか?
古田 どうだろう? 北の方の料理のイメージですね。もともと学者になろうとしてたみたいなんですよ。イタリアの文化について、食文化について、この料理がなぜ生まれたのかとか……、全部答えてくださるんです。すごい面白いんですよ。メディアには全く出ないし。
本田 そうだよね。シェフの写真も見たことないもん。ロマンティコは誰と行くの?
古田 一人で行くことが多いですね。空気読める人じゃないと連れていけない(笑)。特に、料理人を連れていくとなると、選ぶ。シェフが好きそうな店のシェフでないと、ちょっと連れていけないですね。
本田 なるほどね。かなり気になる店だな。ここも一緒に行くこと決定! 和食となると? 鮨とかは?
古田 鮨は「きよ田」さんですかね。大変嬉しいことなんですが、きよ田さんと共通のお客様が多くて。「きよ田」さんの寿司は引き算の寿司なんですよね。
本田 高いでしょう?
古田 5〜7万円くらいですかね。
本田 お好みもあるの?
古田 僕はいつもおまかせでいただいています。常連さんになったらお好みもお願いできるかもしれませんが、お任せするのが一番いいと思います。木村さん(きよ田のご主人)、とにかく、カッコいいんですよ。着ているものとかもいつもおしゃれだし、人間としての風格があるんです。寿司ってある意味、究極の料理で。というのも、料理人が思ったバランスでしか、客は食べることができない。そういう料理ってそう、多くはないですよね。そのバランスが最高。
本田 なるほど。
古田 はい、やり過ぎていないところがいいんです。うま味が強過ぎると、舌も疲れるんですよ。木村さんは余裕を残して作っている感じがすごくいいんです。
本田 どれくらい食べるの?
古田 時期によって変わるのですが、10貫くらいでしょうか。ほどよく終わりたい、品よく食べたい感じですね。値段ははるけれど、毎日通いたいと思いますもん。
長年変わらないものが好き
本田 いいねえ。行かないといけないね、これは。フレンチとかは?
古田 「ラ シェット ブランシュ」ですね。
本田 あ、そこなんだ。「コート ドール」出身のシェフだよね?
古田 フレンチはクラシックが好きなんです。クラシックって、つまり昔からあるものじゃないですか。それをずっと続けられるというのは、芯がぶれずにある方ということですし、また、食材に敬意を感じている人だと思うんです。塩の塩梅もよくて、ちゃんと、着地しているのが心地よくて。
本田 値段の安い店には行かないの?
古田 僕自身の料理が引いていく料理なので、いい食材を使っている料理の方が共感が持てるんですね。ラシェット ブランシュも、引き算の料理だと思います。
本田 シェフとは交流あるの?
古田 ないです。人と交流したいタイプのシェフじゃないと思うんですよね。帰り際に少しお話するぐらいです。
でもシェフとは料理に対する価値観が近いと思うんですよ。自然なタイミングで話したいと思っています。
本田 どのくらいの頻度で行くの?
古田 年4回です。ちなみに、コート ドールは年3回しかメニューが変わらないんです。だから、コートドールには3回。どっちの店も流れる雰囲気が好きです。カッコいいと思いますね。洋食はえてして命が短いのに、究極のオリジナリティですよね。やり続けて今だに古くなっていないというのは稀有な例です。
本田 本当にそうだね。故郷の岐阜ではどこかお気に入りある?
古田 「つるつる亭」っていううどんとそうめんの店です。岐阜から車で2時間くらいですね。山菜も有名で、山に、ふきのとうを一緒に取りにいったりしました。雪の中に室があってそこで保存しているのですが、そうすると、すごくいい香りになるんです。あけびの花とか変わった山菜を昔から使っていて。
本田 へえ。どの辺になるんだろう、場所は。
古田 高山の駅から歩いて10分強くらいです。そばのコースで4,000円だから安いですよ。僕は密かに“山の神”とか呼んでます。
本田 食材にフォーカスした店としてはすごく面白いね。ワイワイガヤガヤ系で安くておいしいとこは行かないの?
古田 そんなことないですよ。「TAMA」も好きだし。
あとは、仕事帰りに行くのが「クッチーナ アッラ バーバ」。実は、開化亭でアルバイトしていた方が独立して開かれたお店なんです。
本田 行くのは夜中?
古田 そうですね。早い時間に行くと、うちのお客様がいらっしゃったりするので、申し訳ないな、と。
本田 なるほど。
古田 はい、だから、0時過ぎにしか行きません。洋食屋なんで、基本は中華か和食に行きたいんですよね。
本田 その方が勉強になる?
古田 それもありますけれど、その方が疲れない。
本田 へえそうなんだね。結構色んなところ行ってるよね。「ブレがない」「軸がしっかりしてる」っていうのをすごく大事にしてることがわかった。あとやっぱり、料理人は料理人のことをよく見てるよね。店やシェフの観察の仕方や距離の取り方とか、すごく勉強になった。
★CHIUnEの古田諭史さんが通う店はこちら
・ヒツジサンライズ
・ロマンティコ
・きよ田
・ラシェット ブランシュ
・コートドール
・つるつる亭
・琉球チャイニーズTAMA
・クッチーナ アッラ バーバ
聞き手・構成:小松宏子
撮影:大谷次郎