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年に1回、食べログユーザーからの投票で決まる「The Tabelog Award」。全国に星の数ほどある飲食店から選び抜かれる受賞店の魅力を伝えるとともに、店主の行きつけの店をご紹介。幅広い経験と柔軟な発想で食通をうならせる「レンゲ エキュリオシティ」のシェフが選ぶ名店をご紹介。
〈一流の行きつけ〉Vol.22
中華料理・イノベーティブ「レンゲ エキュリオシティ」銀座
高評価を獲得した全国の店の中から、さらに食べログユーザーたちの投票によって決定する「The Tabelog Award」。どの受賞店も食通たちの熱い支持によって選ばれただけに、甲乙付け難い店ばかりだ。
当連載では一流店のエッセンスを感じてもらうべく、受賞店の魅力やこだわりとあわせて店主が通う行きつけの店を紹介する。
第22回は、2017年を皮切りに「The Tabelog Award」でSilverとBronzeを受賞、「食べログ 中国料理 TOKYO 百名店」にも選出されている「レンゲ エキュリオシティ」。オーナーシェフを務める西岡 英俊氏に話を伺った。
店は都内きっての実力店が集まるビルの9階に
銀座、新橋、有楽町、どの駅からも徒歩圏内、都内きっての実力店が集結する「GINZA745ビル」の9階にあるのが、西岡氏がオーナーシェフを務める「レンゲ エキュリオシティ」だ。
店の前身は、2009年に新宿三丁目にオープンし人気を誇ったモダン中華「チャイニーズ タパス レンゲ」。2015年に勝負の場をここ銀座に移し、開放感と広さのあるオープンキッチン、カウンター4席、テーブル14席を備える“新生レンゲ”が誕生、間もなく10年目を迎える。
店名の「レンゲ」はチャイナスプーンのレンゲ、「エキュオリシティ(EQURIOSITY)」は「方程式(EQUATION)」「好奇心(CURIOSITY)」「探究心(INQUIRY)」を掛け合わせた造語で、中国料理の枠にとらわれず、より自由に自身の料理を表現したいという西岡氏の思いが込められたものだ。
料理は移転を機にアラカルトの提供をやめ、小ポーションの多彩な料理で構成する完全予約制のコース料理に一本化。全国の生産者を西岡氏自ら訪ねて厳選した食材たちが、ジャンルにとらわれない唯一無二の料理となって昇華、訪れるゲストの胃袋と心をがっちりつかんでいる。
料理で大切と感じるのは「普遍性」
西岡氏が修業を積んだのは、新宿御苑にある上海料理の名店「シェフス」。創業者の故・王恵仁氏による、食材そのものの繊細な味を大切にする“引き算の料理”は、新たな中国料理の境地を開き、西岡氏をはじめ数々の名シェフを輩出してきたことでも知られている。
中国料理にとどまらず、スペイン料理、イタリア料理、和食の修業を重ね、幅広いジャンルの知見を深め自身の料理に生かす西岡氏。「師匠は上海の出身で、師匠が生きていた時代の上海は、さまざまな国の料理やものに対してとてもオープンだったと聞いています。その影響を受け、中国料理の枠を超え、素材で食べさせる料理や地方で変わってくる料理などを学びました」
そんな西岡氏が目指す料理は「普遍性」だ。「料理名は時間軸でとらえれば一瞬のもの。そういうものではなくて、例えばフェラン(料理界に革命をもたらしたとされるスペイン人シェフ)が見つけたタイムと柑橘など、誰かが発見した組み合わせが100年経っても残っているような、普遍的なものを見つけられたらという思いで料理をしています」
西岡氏は続ける。「普遍性が大事と感じていても、時代で人の味覚も変わりますし、肉などの食材も変わっていきます。中でも、糖度の上昇など野菜の進化は目覚ましく、同じ野菜でも昔からある野菜を今食べると、おいしくないと感じることも。そういうことを考えると、自分が思っている『普遍性』を追求することはとても難しいかもしれません。でも、そこをきちんと考えておきたいですね」
限られた時間、料理のアイデアが浮かぶのはレム睡眠
シェフとしてうれしいと感じることは、との問いに「プロならおいしいものを作るのは当たり前で、何らかのフックがあって、それをお客様が選んでいます。2回目の予約が入ったときは、本当に気に入ってくれたのだとうれしく思います」と西岡氏。
続けて「実際にメニュー化するかは別として、食材の組み合わせなど新しい料理のアイデアが生まれたとき、自分の頭の中で考えたことを具現化しようとするときが、一番うれしいときかもしれません」と話してくれた。
とはいえ、日々やらなければいけないことがたくさんあり、アイデアを考えられる時間は、そう多くは得られない。「最近、レム睡眠中だと思うのですが、寝ていても半分覚醒している感覚があり、寝ながらアイデアを考えていることがあります。新宿で店を始めた頃もよくありましたが、それもまた楽しいんですよね」
西岡氏には、今考えていることがある。「1人でもできるキャパシティと内容で何ができるか、何をしてみたいかを考えたとき、夜は鉄板焼き、昼は週何日かラーメン店という業態はどうだろうと。鉄板焼きの可能性は無限大で、大抵のものが作れますし。あくまでも今考えていることで、変わるかもしれませんが」
こう話す西岡氏の可能性もまた無限大。柔軟な発想としなやかな感性で、これからも大いに楽しませてくれるに違いない。