コースではなく、単品で好きな串を食べる昔ながらのカタチ

「シンプルに焼き上げるのが一番うまい」と焼鳥の王道を突き進む

 

船井さん

「串焼き」と名がついた品書きには「きも」190円、「もも」200円など手頃な串が約20種そろいます!

街で見ることが多くなった高単価の「焼鳥コース」ではなく「単品」で好きな串を食べることができる、昔ながらのスタイルがうれしい。「串だけで営業を続けるのは厳しいけれど……(笑)、焼鳥の王道を貫くだけです」と微笑む吉田さん。

主役の鶏は、三重県産の伊勢赤鶏。「程よい歯ごたえと、しっかりとした旨みがあります。その持ち味を知っていただきたい」と意気込む。「炭も調味料も普通です」と謙遜するが、長年培った焼きの技が、どの串にも潜む。

左から「地鶏串」300円、「はつ」190円、「つくね」200円、「かわ」190円

伊勢赤鶏を使った串の数々。ソリレス(写真中央)は、モモ肉の付け根のくぼみに付いた肉。その身はブリッと弾力があり、溢れ出す肉汁が堪らない。一方で、注文を受けてから成形をする、つくね(右から2番目)は、口に含んだ途端に、ふわっとくずれる絶妙な食感! モモ肉を使った地鶏串(写真左)は、グッと跳ねるような食感が印象的で、焼いた鶏ガラを加えたすっきりとした味わいのタレが、モモ肉の旨みを助長させる。

「焼きのテクニック? 適当ですよ」と吉田さんはいつも言う。うんちくなんて不要だし「やってきたことを、これからもやり続けるだけ」というスタンスなのだろう。だから気兼ねなく、フラッと訪れたくなるのだ。

ジェラシー? いとこ焼き? ユニークなメニューの謎解きも楽しい!

メニュー表にじっくり目をやると、実はユニークな料理名が潜んでいる。
「ジェラシー」「いとこ焼き」!?  謎解きの気分でちょっと考えながら、答えを吉田さんに求めてみては?

ちなみに「ジェラシー」とは日本語で……嫉妬、つまり「やきもち」。って焼き餅やん!(笑)と、ボケツッコミを一人でやるのもなかなか楽しい。
「いとこ焼き」であれば「うずらの卵を使っているから、いとこなんですわ」と吉田さん。モモ肉とうずら卵を交互に串刺しにして焼き上げている。頬張れば、卵がプチッと弾けると同時に、黄身のまろやかな味わいとモモ肉の旨みが心地よく調和する。

「ジェラシー」400円、「いとこ焼き」200円。瓶ビール中550円

小皿料理には「手づくりレーズンバター」500円や「ガーリックトースト」500円などアテも豊富。ハイボールは、ブラックニッカスペシャルほか4種の銘柄から選べるし(各500円)、生レモンをはじめ4種のサワーも500円均一。お酒をしっかり楽しまれる人にもおすすめしたい“飲ませる”焼鳥屋なのだ。

カレーライスが0円! 〆のはずがそうはならない欧風カレー

メニューの謎解きでもう一つ。「カレーライス0円」って、ほんまですか吉田さん!?と、思わず叫んでしまった。

「カレーライス」0円。一口サイズ、ではなく結構ボリュームがある

漆黒のそれは、スキレット風のボウルにこんもり入って登場。
「カレーはほぼ毎日、サービスですわ。〆に食べてもらうんです」と吉田さんはニンマリ。そこにはいくつかのワケがある。
「焼鳥屋を再開する前に、串カツとカレーの店をやっていたでしょう。当時の味を、絶やさないようにという気持ちもあってね」。しかも、店では焼鳥も一品料理もサービスも一人でこなす吉田さん。「メニューに手間のかかるご飯ものもあるんですが……作るのが大変やから、とりあえずお金要らんからカレー食べて」というワンオペらしいエピソードもあった。

 

船井さん

とても艶やかな欧風カレーです。骨離れのいい手羽元がゴロッと入り、食べ応えしっかり。

香味野菜をじっくり炒め、鶏がらからひいたスープと手羽元を加えて煮込んでいる。赤ワインやハチミツ、カレー粉、さらにはザラメを真っ黒になるまで焼き切ったカラメルを加えることで、ビターな味わいに仕上げている。

「焼鳥のタレはつぎ足しなし。なぜって、タレは生ものやから衛生面を考えてね。だけど、このカレーだけはずっとつぎ足しを続けています」
店の歴史とともに大切に育ててきた、奥深い味わいの欧風カレーは、〆どころか、そうにはならない。一瞬、甘っ?と感じさせながら、じわじわと辛みやほろ苦さが押し寄せる奥行きのある味。だから思わず「吉田さん、ビールに戻ります、ラスト一杯ください」となり、挙げ句の果てには「これが最後の一杯です。ハイボールで」など、杯を進ませる味わいなのだ。

客の中には「吉田さん、タダのカレーいただくから、代わりに何か一杯飲んでください」という常連の姿も。タダで終わらせないのが、店と客との絆なのだろう。

焼鳥屋なのに不定期でライブも実施

現在は、焼鳥屋としての営業をメインに、フォークロックやアコースティックギターなどのミュージシャンによるライブイベントも不定期で開催。その際は、客層がガラリと変わり、音楽好き&ぶんぶん堂をこよなく愛するお客さんで賑わう。

入り口すぐの壁には、若かりし頃のボブ・ディランの写真が掲げられている

「あくまでもウチは町の焼鳥屋。今日は焼鳥の気分やな、と思ったら、ふらっと来て食べてもらいたいし、それが本来の焼鳥屋の姿やなと思います」と微笑む吉田さん。「ぶんぶん堂」は、これからもずっと地元客やファンに愛され続けるに違いない。

※価格はすべて税込

文:船井香緒里、食べログマガジン編集部 撮影:竹田俊吾