【食を制す者、ビジネスを制す】

ビジネス街のカレーライスはいかが?

哲学者になりたかった投資家

ジョージ・ソロスという投資家をご存じだろうか。90年代にイギリス政府の為替介入に対して空売りで競り勝ち、約15億ドルの利益を得て「イングランド銀行をつぶした男」として一躍有名になった投資家である。彼の率いるヘッジファンド「クォンタム・ファンド」は、その後も大きな収益を上げ続け、2000年代にかけて投資の世界を一斉風靡した。

1930年ハンガリー生まれのユダヤ系アメリカ人。現在87歳で奇しくも富豪投資家であるウォーレン・バフェットと同い年である。ソロスはイギリスの名門大学の一つであるロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)を卒業後、一時雑貨や宝飾品などのセールスマンを経験し、1953年ロンドンの証券会社のシンガー & フリードランダー社に入社。26歳でアメリカのウォール街に移り、いくつかの証券会社を渡り歩いた。その後、39歳で独立してクォンタム・ファンドを立ち上げた。

ただ、ソロスは当初から投資家を目指していたわけではない。大学在籍中は哲学者になりたかったという。彼が師事したのは、20世紀を代表する哲学者であるカール・ポパー。30代のころ、一時投資の仕事に行き詰っていたソロスは、3年間を哲学書の執筆に費やしたが、結局完成するには至らなかった。

博識な駐在イギリス人のおつまみ

ソロスは投資家として成功した後も、哲学者になることに未練があったようで、自身の哲学理論を紹介した『ソロスの錬金術』(邦訳)という本を刊行している。それは彼の考えた「再帰理論」について書かれた難解なものだが、実際の彼の投資理論にも適用されたというから哲学の勉強は投資の仕事にも役立ったようだ。

実はソロスのような欧米投資家の中には、学者のような知性を持った人たちも少なくない。私がよく行く都内のバーにも、ときどきそんなイギリス人投資家がやってくる。日本在住30年以上で日本語はペラペラ。現在はヘッジファンドを主宰しているが、若い頃に歴史や地政学に基づいた独特な投資分析で名を上げ、いくつかの経済書を著す一方で、経済系ミステリー小説を書いたり、寺山修司の短歌を英訳したりするなど幅広い好奇心と知識を持ち合わせた人物だ。

そんな彼がバーに来て、いつも白ワインのほかに必ず注文するのが、なぜかカレーなのである。彼は毎度のようにカレーをおつまみにお酒を飲むわけだが、あるとき不思議に思って訊ねると、こう答えてくれた。

「パブリックスクールで、まずい食事ばかりを食べてきたから、舌がばかになっているんでしょうね。でも、カレーなら味もわかるし、おいしいから、いつでも食べている」

彼はオックスフォード大学の出身なのだが、そのほとんどはパブリックスクール出身者でもある。よくイギリスの食事はまずいと言われる(最近はおいしいものも増えているらしい)が、イギリスのエリート層は味に無頓着の人が少なくないようだ。

 

大阪の名店が丸の内に進出した理由

出典:ぴーたんたんさん

 

それでもカレーは頭や身体が疲れたときに食べたくなるものだし、気軽に食べることができるうえ、当たりはずれも少ない。投資家である彼も日々考えを巡らし、脳みそをフル回転させて疲れているからこそ、カレーのような辛いものを欲するのだろう。

もちろん日本のビジネスパーソンだって、カレーは大好きだ。とくにカレーライス。皆さんも「カレーなら、この店」という自分のお気に入りの店を持っているだろう。

そこで今回お薦めしたいのが、東京駅からほど近い丸の内の東京ビルTOKIAの地下1階にある「インデアンカレー 丸の内店」だ。大阪発祥の店で関西出身者には名高い店でファンも多いが、東京ではビジネス街に位置する丸の内店の1店舗しかない。そのため、東京の人は知らない人が少なくないのかもしれない。

店内はすべてカウンターでテーブル席はなし。したがって、1~2人で行ったほうがいい。カレーライスの「インデアンカレー」を注文すると、最初にキャベツのピクルスが出てきて、それをつまんでいると、きれいにルーのかかったカレーライスが供される。フルーツや野菜の甘さとスパイスの辛さがバランス良く、次第に病みつきになるような味だ。

私は店では「ルーダブルで、ライス大盛り」というように注文する。ルーの大盛りもできるが、2人前くらいがちょうどいい。ほかにもスパゲッティやハヤシライスなどがある。

営業時間は午前11時から午後10時までの通し営業なので、いつ行ってもいい。ランチどきは混むので、午後1時以降に行くといいし、小腹が空いた午後3~5時の中途半端な時間帯でも利用することができる。ちなみに午後2時ごろ、大手化粧品会社の社長さんが部下と2人でカレーライスを頬張っているところをかつて目撃したことがある。

ビジネスパーソンは頭を使うからこそ、カレーを食べたくなる。そう考えると、関西の名店が東京のビジネス街に出店したこともうなずける。