片手には下町のソウルドリンク“ボール”を欠かさずに!

キリッと濃いめがクセになる「焼酎ハイボール」

9割の客がこの焼酎ハイボールを目当てに来るという。390円

昨今は若者にも人気のチューハイだが、その元となったのは、1950年前後から東京の下町で飲まれてきた「下町ハイボール」だと言われている。特に葛飾区や墨田区といった城東エリアを中心に広がり、庶民に愛されてきた。

冒頭で紹介した通り、伊勢元は城東に属する江戸川区の小松川が創業の地。そんな流れから、同店では下町ハイボールこと「焼酎ハイボール」が外せない一杯となっている。

この泡が炭酸の濃さの証拠

そんな焼酎ハイボールだが、店毎に味に個性があるという特徴がある。材料は、焼酎と炭酸、そして“謎のエキス”。なんとも怪しげな響き。その実は希釈用のシロップなのだが、焼酎をウイスキーハイボールの味にどうにか近づけられないかと試行錯誤の末に生まれたシロモノ。このシロップの割合や使う焼酎によって店毎の味を作れる、というわけだ。

お通しも酒がすすむ、呑兵衛好みの味付けだ

伊勢元の焼酎ハイボールといったら、明利酒類の焼酎(25度)を使い、強炭酸で割った、“濃さと強さ”がウリ。ガツンとくる一杯だ。

なみなみと注がれているから、まずは“口からいく”のが鉄則。グラスへ顔を近づけると、パチパチと炭酸が弾ける音に期待が膨らむ。一口飲めば、強めの刺激と共に鼻を抜ける爽やかな香り。すぐに腹の底から幸福感が込み上げてくる。

よく冷やされた薄づくりのグラスも口当たりの良さに貢献し、スルスルと入ってくるのでくれぐれもペース配分には注意が必要だ。長居をせず、粋な飲み方ができるのも下町の大衆店らしさでもあるのだが。

 

マッキーさん

下町ハイボール界のシャンパンと呼びたい。特別製炭酸により泡が細かく、強い。繊細さとたくましさを併せ持った“ボール”です。

手作りの「ポテサラ」にはポテサラ学会会長、マッキーさんも太鼓判!

ポテサラ330円、ビール大660円

ポテサラをこよなく愛し、ポテサラ学会の会長を務めるマッキーさんが「ピクルスがきいていてボールが進みます」とオススメしてくれたのが、同店の「ポテサラ」だ。

芋は国産の男爵を使い、ほどよくゴロゴロ感を残して蒸かし、そこへキュウリ、ニンジン、玉ねぎなどを加える。味付けも塩コショウ、マヨネーズとシンプルだが、マッキーさんの言う通り、アクセントに刻んだピクルスを加えているのが、良い仕事をしている。

器にこんもり盛られて330円というコスパも魅力

ピクルスの程よい酸味が加わることで全体的に爽やかな印象となり、お酒との相性もぐっと増している。全年齢に食べやすい味なので、シェアするにもぴったりだ。また、すぐ出るメニューゆえ、“最初はビール派”の人にもオススメだ。

満足感のある大振りサイズの「もつ焼」

おまかせ5本。580円

さぁ、本命の「もつ焼」の登場だ。ご覧の通り一本一本にしっかりとボリュームがあるが、伊勢元のこだわりは、大きさのみにあらず。やはりもつは、鮮度と処理。さらに部位にもこだわり、付き合いの長い板橋の問屋から仕入れているという。

一見なら、まずは「おまかせ5本」を。この日は、レバー、ハツ、ハラミ、カシラ、シロ。角が立ったレバーは少量のごま油と塩でいただく。新鮮さに自信があるからこその味付けだ。ハラミは味が濃くジューシーで、カシラは、厳密な部位で言うとカシラとアブラの部分を使っており、サクサクとした食感が小気味よい。タレで供されたシロは、一般的に上シロと呼ばれる部位のみを使い、パリパリとした焦げ目も食欲をかき立てる。

手際よく焼く様は見ていて飽きない

何を食べてもうまいと納得させられる味は、素材の良さも然ることながら、焼き手の技術があってこそ。その技を間近で見ながら飲みたい、という玄人も多いはず。それならば、焼き場の目の前のカウンター席へ。伊勢元は注文が入ってから串を打ち、焼くスタイルゆえ、臨場感たっぷりに楽しめるはずだ。

ちなみに、もつ焼きは1度の注文で最低2本からがルール。種類の組み合わせは自由だ。

とろろのフワトロ食感&お焦げが食欲をそそる「ピンピン焼き」

ボリュームたっぷりなので、お腹に余裕があればぜひ頼みたい。680円

最後にマッキーさんがオススメするのが「ピンピン焼き」だ。栄養価が高いとろろをたっぷり使った鉄板料理で、食べると元気が“ピンピン”出る、というのが名前の由来と言われている。福井県発祥の料理だが、伊勢元では30年ほど前から提供してきた人気メニューの一つだ。

 

マッキーさん

お好み焼き風に焼き上げる独自の技に注目です。

このピンピン焼き、中には海老などの海鮮が入っていて、味のベースである白だしと、青のりや鰹節の風味が相まって意外にも深い味わい。なにより堪らないのが、フワットロッとした食感で、フワフワな長芋に粘り気のある大和芋を8:2の割合で混ぜ、絶妙な食感を演出しているという。

中央にのった黄身を混ぜながら食べるのがオススメ。清酒(390円)と合わせたい

そして食べ進める内に、底の方ではお焦げが育ってくる。白だしの香ばしい香りがしてきたら、スプーンで丁寧に底を剥がし、大胆に頬張る。これがまたどんな酒にも合う。食べているそばから元気が湧いてくる味なのだ。

キレイなお焦げを作る抜群の火加減は、まさに“技”だ

味よし、酒よし、値段よし。物価上昇が続く昨今、こうした大衆酒場は希少な存在だ。表にはあまり出ない真面目な店主は「厳しいのはどこも同じですから」と言う。

「うちはあくまでも大衆店なので、常連さん同士で会話を楽しんだり、テレビを見ながら飲んだり、そうやって気軽に過ごしてもらえる店であり続けたいですね」と店主。

自慢のもつ焼きと焼酎ハイボール。そして、コスパの良い一品料理。酒場に欲しい要素を詰め込んだ伊勢元は、大塚という街に収まらない魅力で溢れている。酒場好きを自称するならば一度は訪れるべき名店の一つと言えよう。途中下車と言わず、ぜひここを目指して行ってみてほしい。

※価格は税込。

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認ください。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

撮影:佐藤潮
文:石井良、食べログマガジン編集部