〈福岡のソウルフード〉

熱々の鉄板とともに運ばれてきたのは、パスタの上に、どさっとのった牛肉炒め。紙ナプキンで洋服をガードして、特製のバーベキューソースを手際良くかけてもらうと、じゅわ〜っという音、そして、湯気とともにぐっと強くニンニクが香ります。五感を刺激するその姿に、思わずおなかがぐるっ、唾をごくり。これぞ長きに渡り、福岡市民の胃袋をつかんできたソウルフード、グルメ風月の「ビーフバター焼き」をご紹介します。

教えてくれたのは

戸田千文

愛媛県出身。広島、東京生活を経て、転勤族の夫とともに2018年夏に福岡暮らしをスタートした。情報誌やレシピ本、WEBコンテンツの企画・制作を通して出会うローカルのおいしいモノ・楽しいコトが大好き。

1968年に洋食店「グルメ風月」で生まれたオリジナルメニュー

グルメ風月 西鉄福岡(天神)駅店。改札すぐの場所にあり、ランチタイムはビジネスマンらでにぎわう

「ビーフバター焼き」の名を初めて聞く方は、多くいるのではないでしょうか。それもそのはず、ビーフバター焼きは福岡・天神にある洋食店「グルメ風月」のオリジナルメニューなのです。1949年に天神に喫茶店としてオープンした風月は、1951年にレストラン事業へ参入。当時は、九州で初めてのオープンキッチンを備えたレストランということで評判となりました。そして1968年、店舗の改装に合わせて誕生したのが、今も福岡で愛されているビーフバター焼きです。

グルメ風月を運営する風月フーズ株式会社の河津美香さん

「天神の中心地に店を構えていた当時からビジネスマンのお客様が多かったようです。そのため、リーズナブルで、おなかがいっぱいになるメニューとして『ビーフバター焼き』が誕生したのでしょう。当時は、熱々の鉄板で出す料理は珍しかったようで、そのことも人気のあと押しとなりました」。そう教えてくれたのは、グルメ風月を運営する風月フーズ株式会社の河津美香さん。半世紀以上にわたり市民の胃袋を掴み続けるその魅力について伺いました。

味の決め手は、生野菜たっぷりの特製バーベキューソース

カウンター越しに、牛肉を焼く香りがすでに食欲をそそる

「ビーフバター焼き」は、具なしのパスタの上にビーフソテーをのせ、バーベキューソースをかけていただく、一見するととてもシンプルな料理。ビーフにバター、さらにバーベキューソース……イメージするとなんだかこってりとしていて、食べ応えはあるけれど、一度食べたら十分!と思うかもしれません。でも、実際に口にしてみると想像以上にあっさり。一度食べるとやみつきとなり、ふとした瞬間に思い出して2度3度と定期的に食べたくなる逸品なのです。その秘密は、バーベキューソースにあり!

厨房を任されている宮崎慎也さん

「バーベキューソースは、グルメ風月オリジナルの味。日本人好みの醤油ベースで、レモンとニンニクを利かせさっぱりしたあと味になるよう仕上げています。また、ソースには生野菜もたっぷり使用。ソースを長く保存するには一度加熱した方が良いのですが、生野菜の食感や味を生かすために、あえて非加熱のままご提供しています」(河津さん)

ソースはスタッフの方がかけてくれるので、紙ナプキンを使ってハネを防ぐのをお忘れなく

ソースは、提供後、目の前でかけてくれるのもにくい演出。熱々の鉄板からはすでにおいしそうな香りが漂っているのですが、その上からさらにソースをかけることで、じゅわ〜っという音とともに、ニンニクの濃厚な香りがあたりを包み、食欲をかき立てるのです。香りでご飯が一杯食べられそう……。「鉄板の熱でソースにも火が入り、そのおかげで酸味の角が取れ、ライスとの相性もばっちりです」と河津さん。

ビーフバター焼きセット(Mセット1,180円、Lセット1,380円)。スープに、ライスかパンが付くがほとんどの人がライスを選ぶ

ほんのりと香ばしく香るバターに柔らかな牛肉、まろやかな酸味と野菜のうま味あるソースの相性は抜群! 柔らかなパスタともよく絡めて、大きく一口で頬張れば、鼻に抜ける香りとともに、自然に頬が緩みます。時折ある、焦げてカリッとなったパスタの香ばしさがいいアクセントに。もちろん、ソースが絡んだビーフソテーをライスと一緒に食べるのも良し。パスタ×ライスという、なんとも背徳的な炭水化物の組み合わせですが、ほとんどのお客さんがライスをセットで頼むというのも納得の味です。

レバーステーキにハンバーグ、隠れた人気メニューにも注目!

レバーステーキ980円。厚切りのレバーは食べ応えあり

グルメ風月では、ビーフバター焼きのほかにも、ほかではあまり見ないメニューがあります。それがガーリックオイルで国産豚レバーを焼いた「レバーステーキ」。こちらもバーベキューソースに、お好みでマスタードとともにいただきます。外はカリッ、中はしっとりと焼き上がったレバーステーキは、特に女性に人気で「レバーは苦手だけど、このレバーステーキは食べられる!」という声もあるほど。

これぞ洋食店の味。「風月ハンバーグ」1,300円

また、ビーフ100%の「風月ハンバーグ」は、世代を問わず愛される味。ぎゅっとしっかりした食感に、じわっとにじみ出る肉汁、玉ねぎのシャクッとした食感と甘さにデミグラスソースがよく合います。

ビーフバター焼きや特製ソースは、お取り寄せも

冷凍ビーフバター焼きとオリジナルのバーベキューソースはオンラインショップのほか、西鉄福岡天神駅店、福岡空港店でも購入できるので、お土産にもおすすめ

福岡で愛されるソウルフード、ぜひ現地で味わっていただきたいものですが、なかなか訪れる機会がないという方に朗報です。グルメ風月では、ビーフバター焼きの冷凍販売を昨年からスタート。公式オンラインショップからお取り寄せして楽しむことができます。

「お店で提供するものと、冷凍でお届けするもの、どちらも同じ味、クオリティを目指したので、開発はとても苦労しました。試作品は全社員で試食して、何度も味やソースの量を調整して出来上がった自信作です」(河津さん)。トッピングにたまごや野菜炒め、チーズなどを用意するのもおすすめ。

また、オンラインショップではオリジナルのバーベキューソースも購入できます。自宅でビーフバター焼きを再現するのはもちろん、野菜に和えてマリネにしたり、鶏肉や豚肉を炒めて味付けに使ったりとさまざまな楽しみ方できます。

変わりゆく街で、変わらない“天神の味”を

西鉄福岡(天神)駅店の店内。「懐かしい味」「定期的に食べたくなる」と、親子や祖父母らとそろって訪れる人も少なくない

「風月が喫茶店として誕生した1949年からこれまで、天神の街はどんどん変わっていきました。ビーフバター焼きは、そんな天神で生まれたメニュー。街が変わっていくなかでも、いつまでも変わらない懐かしい味と言ってもらえるように、これからもこの味を守り続けたいです」と河津さん。

100年に一度と言われる街の大改革期を迎え、「天神ビッグバン」プロジェクトが進む福岡の中心地・天神。大きく姿を変えるこの街で、昔と変わらない“天神の味”を召し上がってみてはいかがでしょう。

※価格はすべて税込。

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

文:戸田千文、食べログマガジン編集部 撮影:濱田陽守