完成度の高いオリジナリティあふれるお品書きを堪能

ラーメン王の心を一瞬でつかんだビジュアルのラーメンは、醤油ダレの「The Black.」と塩ダレの「The White.」、そしてつけ麺の「The Dip.」。一度味わうと、同じメニューを食べ続ける客が多いほどはまる人続出だそう。

複数の醤油を独自ブレンドした香り高き「The Black.」

毎日変わる温度や湿度に合わせて微調整する打ち立ての自家製麺

専門業者から特注麺を仕入れて使うラーメン店も多いが、ラーメン Achigoyaでは手間を惜しまず自家製麺を使用する。食感と小麦の香りを少し強く出すために、小麦粉に全粒粉を混ぜるのが今井さんのこだわり。よく見ると全粒粉の粒々も見える。

「特製 The Black.」1,000円(基本の「The Black.」は750円)

2021年春のオープン時からの看板メニューが醤油ダレの「The Black.」である。味のベースとなるのは香りが高くうま味も強い再仕込み醤油。そこに複数種類の醤油をブレンドしたかえしを作り、丸鶏をベースにした店内炊きの特製スープで割っている。

基本のトッピングはチャーシュー、麩、海苔、三つ葉、ほうれん草。250円追加で特製にすると、味玉が加わりチャーシューと海苔が増量される。すっきりしたデザインの白い切立丼に濃いめのスープの色が映え、全体の彩りも美しく、ブレンド醤油の香りがやさしく鼻腔を刺激する。まさに申し分のない“見た目と香り”である。

 

小林さん

このビジュアルを初めて見たとき、心をぐっと鷲掴みされた気がしました。立地は決していいとは言えませんが、これはぜひ食べてみたいと思わせる魅力がありました。

真っ白な切立丼に「The Black.」ならではのスープの色が映える

今井さんが「The Black.」でもっとも大事にしているのは、火入れの温度だ。「鰹節や煮干し、昆布などで作っただしに醤油を合わせるときの火入れが強すぎると、せっかくの醤油の香りがとんでしまう。かと言って火を入れなさ過ぎでは、おいしいだしにならない。そのバランスを大切にしています」

複数の醤油をブレンドしたスープは、これまでに味わったことのないような奥深さ。一口すすると、いい意味で、ん!とうなるような複雑な味わいが口中に広がり、一度でも味わうとクセになってしまう。

低温調理で仕込んだチャーシューはジューシーなピンク色

チャーシューは、豚肩ロース肉をじっくりと低温調理したものを使用する。この調理法は、肉そのもののおいしさがダイレクトに伝わるだけに、味が落ちやすい外国産や冷凍ものではなく、国産豚を生の状態で仕入れているという。うっすらピンク色をしたチャーシューは、やわらかで食べやすく、かむほどにうま味が感じられる。

複雑な味わいのスープがストレートの自家製麺によく絡む

小麦の香りを感じる麺は1.4mmの中細麺。スープとの相性、喉ごしともによく、なにより店内打ち立てのフレッシュな麺を味わえるのはぜいたくだ。小麦粉に全粒粉を独自ブレンドしているので、食物繊維やビタミンなどの栄養が含まれているのもうれしい。

 

小林さん

しゃっきりとした食感の自家製麺は、とても居酒屋の二毛作とは思えない手のかけようを感じます。

魚介系のうま味とコクをしっかり感じる「The White.」

「特製 The White.」1,000円(基本の「The White.」は750円)

煮干し、アサリ、かつお節などをブレンドした特製塩ダレを「The Black.」と同じ丸鶏ベースのスープで割った淡麗系の塩ラーメンが「The White.」だ。香り付けに、淡い琥珀色をした白醤油が使われている。

チャーシューや味玉などの具は「The Black.」と同じだが、柑橘のさわやかな香りが立つすだち、スープに白ごまを散らしてあるのが特徴だ。

 

小林さん

今は具の盛り方を変えて統一しているそうですが、僕がうかがったときの提供時に利き腕を聞かれたことが印象的でした。具への箸の入れやすさを考えてのことだそうで、細やかな心遣いに感心しました。

淡麗系の澄んだ美しいスープ。すだち、三つ葉、ごまの香りもたまらない

透き通った黄金色のスープは魚介のうまみたっぷりで、あっさりしていながらもコクがあり、しゃっきり食感の自家製麺が実によく合う。看板メニューは「The Black.」だが、今では後発の「The White.」が人気を二分していると今井さんが話すのもうなずける。

とろろを絡め最後の一滴まで味わう「The Dip.」

「The Dip.」1,000円

英語で「浸す」という意味の「The Dip.」という洒落たネーミングのつけ麺もおすすめだ。ラーメンより少し太めな、エッジの利いた麺とともに丼に盛られているのは、真っ白なとろろ。

つけ麺の麺の持ち上がりをよくするために、がごめ昆布のだしを絡めた麺とつけ汁で提供するスタイルが昨今の流行りだが、山芋をすったとろろを合わせるのは珍しい。

「居酒屋の売りが山芋ステーキで、これを使ってAchigoyaらしさを出せないかと考案しました。麺にとろろを絡めて食べてもいいですし、麺を食べ終えたらつけ汁をだしで割ってスープにすると、とろろの食感を楽しみながら最後の一滴までおいしく飲み干せますよ。つけ汁が冷めていたら温め直しますのでおっしゃってください」

 

小林さん

つけ汁は塩ダレベースで、紫玉ねぎのみじん切りのシャキシャキ食感もいいですね。つけ麺は麺をたっぷり食べたくなるので、麺ダブル無料というサービスも実にありがたい。

目指すは地元に愛されるラーメン店

引退した母からのさまざまなアドバイスも「先輩として感謝しています」と今井さん

店は川崎南部の下町・浅田にある。最寄り駅はJR鶴見線の武蔵白石だが、バス停がすぐ近くにあるので、川崎駅東口から臨港バスを使うのがおすすめだ。すぐ近くには京浜工業地帯があり、30年続いた「飲み喰い処えちごや」は地元客や仕事帰りの常連客などでにぎわってきた歴史がある。

オープンから約1年。「駅前など利便性のよい立地ではないので、まずは近隣のお客様に長く愛される店になれたら」と謙虚に話す今井さん。家族連れが楽しめる子ども用ミニラーメン「The Kidz.」もメニューに並ぶ。

ラーメン店ではあるのだが、メニューもそこに流れる空気も、一般的なラーメン店とは大きく異なるラーメン Achigoya。元営業マンの極意を存分に生かした渾身の一杯を味わえるのは、おそらくここだけ。ぜひ五感をフル稼働させ味わってほしい。

※価格はすべて税込です。

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認ください。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

撮影:齋藤ジン

文:池田実香・食べログマガジン編集部