お菓子の歴史を語らせたら右に出るものはいない! といっても過言ではない、お菓子の歴史研究家・猫井登先生が、現在のトレンドを追いつつ、そのスイーツについて歴史を教えてくれちゃうという、一度で二度おいしいこの連載。第27回は特別編として、東京にいながら食べられる、世界の知られざるスイーツの専門店を紹介します。Part2の今回は、トルコ共和国・レバノン共和国・アラブ首長国連邦(UAE)のお菓子に特化したお店をフィーチャー。何かと遠出しにくいこのご時世、知っておくと体の中からハッピーになれるかも!

【猫井登のスイーツ探訪・特別編】ちょっとニッチな世界の知られざるスイーツ〜トルコ共和国・レバノン共和国・アラブ首長国連邦(UAE)編〜

【トルコ菓子】トルコの名物スイーツを持ち帰りでも堪能「東京ジャーミイ・トルコ文化センター」

トルコ共和国はヨーロッパとアジアの2つの大陸にまたがる国であり、古くから東西文明の十字路とされる。現在の首都はアンカラだが、最大の都市はイスタンブール。ローマ帝国、ビザンティン帝国、オスマン帝国などの首都として栄え、ローマ帝国時代のキリスト教文化とオスマン帝国時代のイスラム教文化という2つの文化に彩られた都市でもある。

スイーツ的にも両者の要素を受け継いでおり、イスタンブールの大きな菓子店に入ると、西洋菓子と中東菓子の両方が陳列されている。

さて、中東菓子の代表格とされるのが「バクラワ」と「カダイフ」。どちらも、この地を長きにわたり支配したオスマン帝国の宮廷文化が生み出したものといわれる。まずは、バラクワを供するお店から見ていこう。

「東京ジャーミイ」は、東京都渋谷区の代々木上原にある日本最大のイスラム教寺院(モスク)。駐日トルコ共和国大使館の所属で、宗教法人「東京・トルコ・ディヤーナト・ジャーミイ」が運営。イスラム教やトルコの文化を紹介する「トルコ文化センター」を併設している。

2Fのカフェでは「バクラワ」やチャイも提供されている。カウンター左の自動販売機で食券を購入。カウンターで渡し、番号札を受け取る。用意ができると番号で呼ばれるので、自分で取りに行くというシステムだ。

「バクラワ」400円、「チャイ」200円(ともに税込)

バクラワとは、小麦粉と水を練って作った「フィロ生地」と呼ばれる極薄の生地を何枚も重ね、ナッツを細かく砕いたものを挟んで焼き上げてシロップをかけたスイーツ。ナッツはピスタチオが一番ポピュラーだが、クルミ、アーモンド、カシューナッツなども使われる。

バクラワの歴史には諸説あるが、古くはメソポタミアの時代に遡り、アッシリア人が小麦粉を水で練った生地にナッツをのせて焼いて食べたのが始まり、などの説もある。現在見られるバクラワは16世紀のオスマン帝国最盛期にトプカプ宮殿の厨房で形成されたといわれる。

今回はオーソドックスなピスタチオを使ったバクラワ。シロップでベタっとなり、歯が落っこちてしまいそうな激甘のバクラワも多い中、こちらのバクラワは、小気味の良い食感を残しつつ優しい甘さで、香ばしい生地の旨味と小さく砕かれたピスタチオの味わいが一体となって感じられる。カフェでお茶を楽しんだ後は、1Fの「ハラールマーケット」を訪れてみよう。

こちらでは「バクラワ」「ターキッシュデライト」「ハルヴァ」などのスイーツのほか、トルコのパンなどが売られていて見ているだけでも楽しい。

「バクラワ ピスタチオ」1,850円(税抜)

写真は、要冷蔵の箱入りで販売されているバクラワ。自宅でも気軽に中東菓子が楽しめる。甘いシロップに浸されているので、濃い目のコーヒーなどと合わせると抜群の相性。

【レバノン菓子】パリパリ派もフワフワ派も楽しめるレバノンスイーツの世界を体験「カールヴァーントウキョウ

レバノン共和国は、北と東ではシリアと、南ではイスラエルと国境を接する。首都はベイルート。レバノンの歴史は古く、紀元前からフェニキア人による海洋文化の拠点であった。ローマ帝国の時代にはキリスト教の地となるが、16世紀オスマン帝国に征服され、長きにわたりその支配を受けたため、スイーツ的にもトルコ菓子の影響を受けている。

こちらのお店は、地中海・アラビア料理のお店。アラブ地域はビールやワイン発祥の地でもあるので、自社醸造のクラフトビールやワインの始祖といわれるジョージアワイン等も提供する。

「クナーファ」800円

こちらでまずいただきたいのは「クナーファ」※1。小麦粉を水で溶いたものを鉄板の上に細く垂らして作る、中東菓子の代表的な素材のひとつである極細のカダイフ(トルコ語で薄いの意)生地で白チーズを包んだお菓子。シロップをかけていただく。

※1 国により呼び方がさまざまだが、極細のカダイフ生地自体を「クナーファ」、チーズを挟んだお菓子を「クナーフェ」と呼ぶ場合がある。

日本人の感覚からすると、パリパリに焼いたそうめんの間にモッツァレラのようなチーズが挟んであるものを連想してもらえばよい。実際にトルコで食べたものはチーズの量も多く、シロップもかなり甘めだったが、こちらのお店のものは上品な味わいで、抵抗なく食べられる。

「ガザル・ベイルート」800円

このお店でもうひとつ試していただきたいのが「ガザル・ベイルート」。レバノン山脈に降り積もる白い雪を、アラブが発祥ともいわれるジェラート※2 とアラブの綿菓子「ガザル・エルバネ」で表現したベイルート発祥のデザート。

※2 アラブ世界のシャルバートという飲み物がシャーベットやジェラートの原型であるともいわれる。

上の綿菓子の部分は舌の上で儚く溶けていく。土台となっている白い部分は、いわゆるアイスクリームではなく、牛乳をそのまま冷やし固めたような、あっさりとした味わいのミルク風味の氷菓子。下に敷かれたビスケット生地が旨味を添える。

「ハイビスカスティー」700円

飲み物はお菓子類が甘いことを予想して、酸味のあるハイビスカスティーをオーダー。トルココーヒーを淹れる際に用いる「ジェズベ」という小鍋で登場。飲み物の容器でも異国情緒を味わえる。

※価格はすベて税抜

【アラブ菓子】デーツを使った有名なお菓子でドバイの風を感じてみよう「ヴィヴェルパティスリートウキョウ

アラブ首長国連邦(UAE)は、西アジア・中東に位置し、7つの首長国からなる連邦制国家。首都はアブダビだが、最大の都市はドバイ。ドバイは中東きっての観光都市といわれ、スイーツ的にはデーツを使ったものが有名。

デーツというのは、ナツメヤシの果実を乾燥させたもので甘味がある。日本で言えば、干し柿を連想すると近いかもしれない。つぶして、マームールと言う中東風クッキーの餡にも使われる。

「ヴィヴェル」は、1992年にドバイで1号店を開店。現在はUAE国内に8店舗、スイスにも店舗を展開。こちらの商品は王族の結婚式やパーティーにも使用され、UAE国内の5~7つ星ホテルでも使用されているという。2020年3月には東京・表参道に店舗を開店。デーツ菓子や伝統的な焼き菓子のほか、オリジナルブレンドの紅茶が人気となっている。

上の写真は、ドライデーツに縦に切れ目を入れて、ヘーゼルナッツ、アーモンド、クルミなどの木の実を挟んだものと、レモンピール、オレンジピールを挟んだもの。

上の写真に見えるのが、アプリコットジャムをのせてアーモンドダイスをまぶしたクッキーや、デーツを細かく刻んで生地にしたものにピスタチオやカルダモンをアクセントに加えたスクエアケーキ、ひよこ豆を主原料としたノコッチと呼ばれる焼き菓子など。

「デーツとクッキーの詰め合わせ」2,812円(税込)

デーツやクッキー類は詰め合わせのセットもあるが、好みに応じて詰め合わせにしてもらうことも可能。上の写真は、デーツ菓子各種とクッキー類を彩りよく箱に詰めてもらったもの。

上の写真のお菓子を中心から右上へ、時計回りに味わいを解説。

  • 「デーツとナッツ」(写真中心)デーツは乾燥しているように見えるが、実際に食べてみると、ねっとりと柔らかい食感。デーツの旨味を持った甘さがナッツの香ばしさを包み込む。味わいの余韻が長く口中に残る。
  • 「クラシック ノコッチ」(デーツの右上)ひよこ豆を主とした粉にカルダモンを加えて焼いたもの。濃い目の紅茶が合う。
  • 「クラシックチョコレートノコッチ」上記にカカオを加えたもの。カカオのコクが感じられ、濃い目の味わいに。
  • 「クラシックノコッチホワイト」ノコッチの生地にクルミを混ぜ込み、カルダモンを利かせている。ホワイトチョコの甘さとのバランスがよい。どこか懐かしさを感じる味わいにカルダモンが異国情緒を加えている。
  • 「クラシックスクエアデーツ」デーツを細かく刻んで土台にしており、穏やかな甘さだが、濃い目の味わい。
  • 「クラシックアプリコット」バターのクッキー生地にアプリコットジャム、アーモンドを合わせた、あっさりとした味わい。
  • 「クラシックラズベリー」ラズベリー、ヘーゼルナッツの組み合わせで、上記のアプリコットに比べると、味わい・旨味ともに濃い目。
  • 「クラシックセーブル」しっとりと柔らかめのクッキー生地に、アップル、苺、エルダーベリーを合わせたジャム。見た目も可愛く、優しい味わい。

このほかに生菓子も用意されており、喫茶で楽しむこともできる。

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※新型コロナウイルス感染拡大を受けて、一部地域で飲食店に営業自粛・時間短縮要請がでています。各自治体の情報をご参照の上、充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いします。

※本記事は取材日(2020年12月22日)時点の情報をもとに作成しています。

取材・文:猫井登