浅草寺や花やしき、隅田川などでにぎわう浅草エリア。近年ではインバウンドツアーで多くの外国人が訪れ、日本を代表する観光地「ASAKUSA」として、その人気に拍車がかかっている。そんな浅草だが、下町らしくディープなスポットも兼備。酒飲みの聖地「浅草ホッピー通り」で、各店の名物煮込みを紹介する。

浅草寺と場外馬券場からほど近い、酒飲みの楽園

 

浅草寺境内の西側、ウインズ浅草の南側に位置する浅草ホッピー通り。約80mほどの通りが赤白の提灯に彩られ、馬券場帰りのオジサンやお昼から夜まで飲みたい観光客でごった返す、酒飲み垂涎のストリートだ。ここは別名「煮込み通り」とも呼ばれ、お店オリジナルの色が出る名物煮込みが多く存在している。

まずは王道。牛スジ煮込みを賞味[正ちゃん(しょうちゃん)]

出典:okubicさん

 

場外馬券場のはす向かいに建つ「正ちゃん」。創業から60年あまり、地元のみならず都内外から訪れる多くの人を魅了する、ホッピー通りの代表的存在だ。王道の牛煮込み(500円)を提供している老舗居酒屋で、2015年に改装されている。店頭に並べられた(放置されているのではない)ビールケースや酒瓶が、いかにも酒場という趣ある味わいを今に残している。

出典: KEN21さん

 

さて、煮込みを味わう。醤油の風味が生きるダシでじっくりと煮込まれた牛スジは、ホロホロの食感。一緒に煮込まれたコンニャクやネギも甘辛めで、いかにも江戸っ子好みの味わいだ。注目したいのは、煮込みの上にのせられた豆腐。牛スジより浅く煮込まれており、あっさりめの豆腐、濃いめの牛スジとのゴールデンコンビを形成している。

出典:k846さん

 

こうなれば、もう一つの主役の出番である。ホッピー白(500円)をぐびっ。あっというまに牛スジの脂とダシを洗い流し、また煮込みに箸が伸びる。

 

煮込み、ホッピー、煮込み、ホッピー……。止まらない箸と杯。甘美な無限ループ。老舗の王道煮込みだからこそ味わえる、ローテーションワールドがここにある。

浅草のイエローサブマリンで多彩な煮込みを味わう[大勝(だいかつ)]

出典:無芸小食さん

 

昭和44年創業、こちらもまた老舗の「大勝」。黄色いテントが目印で、ストリートにせり出した昭和の雰囲気漂う屋外席がにぎわいを見せる酒場だ。縁起のいい「大勝」という店名が、「いつか俺も万馬券を……」と願う馬券場帰りのオジサンを惹きつけてやまない(と勝手に思っている)。

出典:聖流さん

 

ここでは、看板メニューである特製牛もつ煮込み(550円)を食す。味噌ベースのダシをよく吸ったモツとコンニャクという鉄板の出で立ち。丁寧な下処理が施されたモツは、柔らかくプルプルである。雑多に盛り付けられた(ように見える)白ネギも、煮汁にひたして食べるとなおよし。シャキシャキとした食感がアクセントを与え、計算され尽くした(ように見える)バランス。杯を持つ手を無条件に進めてくるのだ。ある程度味わったら、煮込みの女房役、一味唐辛子をサッと振りかければ、ピリ辛味噌煮込みへと変貌。「卓上調味料ってなんてスバラシイんだ」と感謝すること請け合いである。

出典:津田沼クウちゃんさん

 

牛の内臓が王道の煮込みであるが、ここで変化球を投入する。つぶ貝の煮物(650円)だ。貝の煮込みと言えば、コンビニなどで売られている1缶100円ほどの缶詰。普段は「今日はこれで一杯やっとくか」と馬券場帰りで負けちゃって、お茶ならぬお酒を濁していたオジサンも本日は大勝なり。甘辛めのダシが染み込んだコリコリのつぶ貝を、勝利の味とともに噛みしめる。

 

縁起のいい店名を冠す「大勝」。今も昔もオジサンの夢の残滓を集める下町酒場なのである。

ストリート屈指の有名店で味わう韓国風煮込み[鈴芳(すずよし)]

 

ホッピー通りの歴史は、コリアンタウンとしての側面を併せ持つという説もある。唐辛子の扱いに一日の長がある民族の知恵が、煮込みにも昇華されているのである。

 

バカでかい「生ホッピー」という文字が刻まれた白の提灯が出迎えてくれる、通りでも1位・2位を争う人気店「鈴芳」。提灯の通り、看板メニューは樽から直接入れる生ホッピー(550円)だ。メニューには「浅草では当店にしかない味!」と威風堂々、正々堂々の赤文字が主張。限定モノに弱い日本人もそうでない外国人もみな、この誘い文句で休日をホッピングしてしまう。地元のオジサンは平日もだが。

出典:mixi3333さん

 

ビンのものより口当たりのよい生ホッピーは、雑味がなくまろやか。そうそう、「生」はこういうピュアな味わいでなければ。そして、ほどよいタイミングで韓国風 牛すじ煮(ピリ辛)(650円)が運ばれてくる。

出典:KEN21さん

 

生ホッピーと店の看板の双璧を成す、この煮込み。トロトロに煮込まれた牛スジ、唐辛子の赤で彩られたダシ、ここでも雑多に盛られた(ように見える)ネギと、スキのないルックスで魅了してくる。そして口に含めば、唐辛子の辛みが牛スジ本来の甘味と脂を引き立て、アニョハセヨ~。軽くコリアンホッピングしてしまう。生ホッピーとともにぜひとも供したい一品。

 

浅草にいながらにして、韓国のエッセンスを味わえる人気店だ。

異彩を放つフレンチで赤ワイン煮込みに舌鼓[酒の大桝(だいます) wine-kan]

出典:お店から

 

「なんだよ、オジサンが行くとこばっかじゃねえか!」とお怒りのあなたに、最後はフレンチをご紹介。同じく浅草に店を構える酒屋「酒の大桝 本店」の系列店で、本格派のフランス料理とワインが味わえる瀟洒なフレンチである。

出典:お店から

 

ホッピー通りから奥まった路地にひっそりと佇む、赤が基調のこのお店。本店スタッフが利き酒師・ソムリエの資格を持つ酒屋だけあって、地下のワインクーラーにこだわりワインがずらりと並び、それと合う料理が多く提供されている。

出典:くまスケさん

 

フレンチの煮込みといえば赤ワインで煮込んだもの。和牛ほほ肉の赤ワイン煮込み(1,350円)は、大衆的なホッピーではなく赤ワインとのマリアージュが楽しめる秀逸な一皿だ。

 

ナイフを入れれば、崩れてしまうほどやわらかく煮込まれた牛ほほ肉。赤ワインが進んでしまうメルシーな味わいで、「ここはホントに昭和の香り漂うホッピー通りなのか」と勘ぐってしまうほどだ。

 

この他にも、トリップのトマト煮込み(760円)や、前菜で言えば2点盛 鮮魚のカルパッチョ(650円)など、フレンチを心ゆくまで堪能できる当店。ビストロの地下にワインショップが併設されており、ワイン土産も買えてしまうというホッピー通りにはあるまじきオシャレ技もかませるというわけである。

 

路地裏の名店で、今度はフランスへボンジュールなホッピングをしてみるのも一興である。

 

文/マストドン田中