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〈自然派ワインに恋して〉
シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。
ナビゲーター
岡本のぞみ
ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。
クラシックフレンチと自然派ワインが新鮮
自然派ワインというと洒脱にアレンジしたフレンチやイタリアン、はたまた中華や和食とあわせる店が主流。かえってクラシックなフレンチが新鮮に思えるほど。しかし久しぶりに味わうと、やはりクラシックなフレンチとワインの組み合わせにかなうものはないと思わせてくれる。渋谷にある「シュシュ」は、まさに自然派ワインをフランス郷土料理とともに楽しめるビストロ。店内もクラシックなビストロそのものの落ち着いた空間となっている。
オーナーシェフの片野裕介さんは、スペイン料理店で修業後、2008年から原宿でカフェの運営を任されていた。そのときに自然派ワインと出会う。「自然派ワインは果実味と酸に加えて、旨みとエネルギーがあります」とひかれた理由を教えてくれた。そして、自然派ワインとフレンチが楽しめるシュシュを2016年にオープンした。
オープンに当たっては大きなセラーを設置できることが片野さんの第一条件。シュシュには入って正面にウォークインセラーがあり、800本のワインがぎっしり詰まっている。ボトルを選ぶときは、片野さんとともに中に入って選ぶことができ、生産者を訪れたときのエピソードや輸入元から聞いた話などを熱量たっぷりに伝えてもらえる。セラーでのボトル選びもシュシュを訪れる体験価値なのだ。
シャルキュトリ✕抜け感赤ワイン
前菜のおすすめは「シャルキュトリ盛り合わせ」。パテ・ド・カンパーニュと地鶏の白レバームースのフランボワーズソース、パンデピス、豚肉のコラーゲンテリーヌ、生リエットが1つのプレートになっている。店では通称“パン泥棒プレート”と呼ばれ、パンが進む味付け。自家製パンはチャージ代に含まれており、17種類が一皿一皿にパンペアリングされている。しかもそれが、おかわり自由というから大盤振る舞いだ。
シャルキュトリ盛り合わせにおすすめなのが、フランス・ロワールのブレンドワイン。「グロローやコー(マルベック)などにシュナンが加わっています。口当たりは赤ワインですが、いろいろなブドウが混ざって白ワインのような抜け感があって、シャルキュトリーにぴったりです」と片野さん。軽快な赤ワインは食事に合わせる最初の1杯としてもバランスが良かった。
ガランティーヌ✕オレンジワイン
この季節は名古屋コーチンを開いてロール状にしてカットしたガランティーヌが登場。詰め物をしたタイプではなく、鶏肉を丸ごと使ったタイプ。白い部分が胸肉で赤い部分がもも肉。ポルチーニのペーストにオランデーズソースをあわせたキノコのソースにレバーの燻製を添えて、こんがりと焼いて提供される。名古屋コーチンならではの弾力のある皮と身で、食べ応えのある味わいを満喫できる一品だ。
ガランティーヌに合わせたいのは、フランス・アルザスのオレンジワイン。「こちらはドメーヌ・グロスの中でも上級キュヴェに当たり、酒質が高いオレンジワインです。冷菜なので、ワインの温度がゆっくり上がるようにシャンパングラスで提供しています」と片野さん。鶏肉をかみしめながら、じっくりとワインの余韻にひたってみよう。
サーモンのパイ包み焼き✕ボリューム白ワイン
メインは「サーモンのクーリビヤック」。クーリビヤックとはロシアの宮廷料理がフランスに渡ったもの。サーモンなどの魚とほうれん草と米をブリオッシュ生地で包んだ料理を指す。今回は、サーモンの背側も腹側も楽しめるよう、パイ生地を使って細長い形で包み焼きにし、トマトの入ったブールブランソースで仕上げてある。現代風の洗練された見た目のクーリビヤックだ。もちろん美しいだけでなく、サーモンのおいしさがパイのサクサク感やソースの香り豊かな甘酸っぱさとともにいただけてかなり満足度が高かった。
サーモンのクーリビヤックにおすすめなのは、片野さんが注目するブルゴーニュの生産者の白ワイン。「パイ包みがしっかりした料理なので、ミネラルや厚みがあって料理に負けないワインを選びました」と片野さん。色が濃く十分なボリュームと個性があるワインで、クーリビヤックのおいしさをさらに一段高めてくれる組み合わせだった。
片野さんの「私が恋した自然派ワイン」
片野さんが恋したワインは、輸入元のスタッフとの思い出が詰まった一本。
「自然派ワインは生産者だけでなく、輸入しているインポーターの皆さんも魅力があります。こちらは当店が3周年を迎えたときに、ヴァンクゥールの池谷太輔さんが“いつかここで飲みたい”と持ってきたワインです。本当にワインバカというくらいワインを愛している人で、たくさんの思い出があります。残念ながら太輔さんは亡くなってしまいましたが、いつかヴァンクゥールのスタッフで飲んでほしいワインです。
ワインとしても優れたキュヴェで、僕らが求めていた自然派ワインの完成形。酸も果実味もミネラルもタンニンもすべてが溶けこんでいて、かついつまでも残り香が楽しめる大好きなワインです」
フランス各地の飲み頃ワインをラインアップ
シュシュでは、フランス各地のワインを中心に3,000本のワインが店内セラーと倉庫に眠っている。特にジュラやオーヴェルニュが多い。すぐ飲んでおいしいタイプが多いが、育てることが必要なワインは適宜セラーで落ち着かせてから出すようにしているという。酒質を見極めて、さまざまな客に合うようなワインをセレクト。さらに夏には酸のしっかりしたもの、冬には飲み応えのあるものなど、時期によってもセレクトを変更して、ふさわしいワインが提供されている。グラス15種類(900〜1,980円)、ボトル300種類(5,500〜11,000円)。
満足に導く仕掛けがたくさんあるビストロ
シュシュは素材をうまく使ってしっかりと手をかけたフランス料理が洗練された見た目で提供されていた。おかわり自由の自家製パンや、セラーでの自然派ワイン選びもサービス満点。
自然派ワインをフランス料理で満足度高く味わいたいときには、渋谷の喧騒を抜けた南平台近くの隠れ家を訪れてみよう。
※価格は税込、チャージ770円(自家製パン17種 おかわり自由)