教えてくれる人

大木淳夫

「東京最高のレストラン」編集長 
1965年東京生まれ。ぴあ株式会社入社後、日本初のプロによる唯一の実名評価本「東京最高のレストラン」編集長を2001年の創刊より務めている。その他の編集作品に「キャリア不要の時代 僕が飲食店で成功を続ける理由」(堀江貴文)、「新時代の江戸前鮨がわかる本」(早川光)、「にっぽん氷の図鑑」(原田泉)、「東京とんかつ会議」(山本益博、マッキー牧元、河田剛)、「一食入魂」(小山薫堂)、「いまどき真っ当な料理店」(田中康夫)など。 
好きなジャンルは寿司とフレンチ。現在は、食べログ「グルメ著名人」としても活動中。2018年1月に発足した「日本ガストロノミー協会」理事も務める。最新刊「東京最高のレストラン2023」が発売中。

2人の人気フレンチシェフが新業態を展開

遊び心のあるイタリアン

今月一番の話題といえば、2月7日に三越前に誕生したイタリアン「peace」でしょう。仕掛けたのは人気フレンチ「ラぺ」の松本一平オーナーシェフ。2019年のおでん「平ちゃん」に続いての新業態です。

東京旨いもの食べ歩き
「peace」自家製唐墨と芹のタリオリーニ   出典:東京旨いもの食べ歩きさん

シェフの大島孝仁さんはイタリア料理店を経てラぺへ入社しただけあって、フレンチのエッセンスをさりげなくまぶしながら、充実したコースを作ります。ラぺの常連さんからの要望が高かったようで、ランチで2種、ディナーでは3種のパスタが供され、麺好きにはたまりません。

chengdu4000
「peace」ピースソフト   出典:chengdu4000さん

そして締めには、“スペシャリテ”と銘打たれた濃厚なソフトクリームがピースサインの特製スタンドで登場。平ちゃんもそうでしたが、こういうちょっとした遊び心を忘れないのがいいんですよね。

韓国料理とナチュラルワインの店

「ポッポコリヤ」ほうれん草のナムル 写真:お店から

そして「アタ」「グッドラックカリー」「au deco」などで、常に新風を巻き起こす掛川哲司シェフはなんと、韓国料理とナチュラルワインの店をスタートです。2月17日、大井町にオープンした「ポッポコリヤ」。

「ポッポコリヤ」ポッサムセットの茹で豚 写真:お店から

共同オーナーとしてすべてのメニューを開発したとのことで、細やかな工夫がそこかしこに。いろいろな味を楽しんでもらいたいと、ポーションは少なめにしつつ、魅力的なメニューがずらっと並びます。ほうれん草のナムルはミントでアクセントをつけ、1人前から頼めるおすすめのポッサムセットの茹で豚はやわらかく美味。チヂミは7種類も。しかも大井町価格ですから飲んでも5,000円前後。ちなみにシェフ曰く、韓国料理にはスパークリングとオレンジワインが合うそうです。

焼鳥も実力店が新展開

「鳥しき」が若手育成のために始めた“池川道場”「鳥かど」

「鳥かど」
「鳥かど」   写真:お店から

予約の取れない焼鳥店として名高い目黒「鳥しき」の定休日に、同じ場所でオープンしたのが「鳥かど」です。代表の池川義輝さんが若手に技術と接客の研鑽の場を与えるという意図で、2月8日からスタート。それぞれの日で、修業中の焼き師が憧れの本店の焼き台を任されます。オープンしてすぐにうかがいましたが、「池川道場」と銘打つだけあって、すさまじい緊張感。一本一本真剣勝負の気迫が伝わってきて、見ているこっちまでドキドキしてしまいましたが、やがて心の中で「がんばれ」と応援する気持ちに。

「鳥かど」
「鳥かど」   写真:お店から

串10本と料理のコースで8,900円。おいしく食べて飲んで13,000円前後。これはかつての寿司屋の値段と同じくらいです。誤解を恐れずに言えば、客側は焼鳥も寿司も「高級居酒屋」として使っている側面があるので、寿司屋の客層が焼鳥にシフトする流れが加速するかもしれません。

完全会員制焼鳥の進化系も

「熊の焼鳥cocoro」 写真:お店から
「熊の焼鳥cocoro」 写真:お店から

ちなみに2月15日には新宿に「熊の焼鳥cocoro」がオープンしています。大阪で“完全会員制、予約半年待ち”で有名な「熊の焼鳥106」の進化系とのことで、コースは13,500円から20,000円まで。もう寿司屋価格ですね。

実力派イタリアンと大人のためのビストロが再始動

隠れていた実力店

まだまだ知らない実力店は多いのだなと思い知らされたのが2月1日、同じエリア内で移転オープンした三田の「テラットリアエッフェ」です。以前は美容院だったという店内はオープンキッチンを中心に、左右に完全に分かれた面白い構造。

ゆほし
「テラットリアエッフェ」di pranzo(カルボナーラ風スパゲッティ、カプチーノ)1,650円   出典:ゆほしさん

アラカルトもありましたが、6,500円のコースが魅力的でそちらを。店名の“テラ”には大地の恵みを大切にしたいという意味がこめられているとのことで、野菜はもちろん、小麦粉から調味料までこだわっています。なにより一皿一皿に精緻さと美しさ、驚きが入り交じっていて、レストランの楽しさを味わえます。気づいてよかった。

大人気イタリアンが移転

須藤塔士
「トラットリア シチリアーナ・ドンチッチョ」   出典:須藤塔士さん

移転といえば忘れてはなりませんね。建物の老朽化のため、一時的に系列の「ラ・コッポラ」の場所で営業していた東京を代表するイタリアン「トラットリア シチリアーナ・ドンチッチョ」が2月13日、青山一丁目で新たなスタートを切りました。伝説は続きます。

麻布的なビストロ

麻布十番には2月3日、ビストロ「たそがれ」がオープンしました。かつて近所で「れとろ 」を営んでいた双川洋利シェフが、移転前の「かんだ」の場所にできた「翔」を経て復活です。

品のいい洋食店のようなカウンターのみの店内。カトラリーにはお箸も。黒板に書かれた値段の無い18種ほどのメニューは「れとろ」時代とほぼ同じとのことですが、たいそう魅力的。「ほっき貝のマカロニサラダ」、素晴らしいです。アラカルトでもいいですが、「おまかせ」は、少量ずつおすすめの料理が提供され、お腹がいっぱいになるとストップという、すごくニーズが高そうなシステム。8,000〜15,000円の目安です。大人の止まり木のような、麻布的ないいお店と言えましょう。ちなみに双川シェフの辻調フランス校時代の同期は、タサン志麻さんだそうです。