〈食いしん坊が集う店〉

食べることが好きで好きで、四六時中食べ物のことを考えてしまう、愛すべき「食いしん坊」たち。おいしいものが食べたければ彼らに聞くのが間違い無し! 今お気に入りの、“とっておきのお店”を教えてもらった。

教えてくれる人

小松宏子

祖母が料理研究家の家庭に生まれる。広告代理店勤務を経て、フードジャーナリストとして活動。各国の料理から食材や器まで、“食”まわりの記事を執筆している。料理書の編集や執筆も多く手がけ、『茶懐石に学ぶ日日の料理』(後藤加寿子著・文化出版局)では仏グルマン料理本大賞「特別文化遺産賞」、第2回辻静雄食文化賞受賞。

「naoto.K」

連載のタイトル通り、まさに、食いしん坊が集う店である。店名は「naoto.K」。店主は、フランス料理好きなら必ずや耳にしたことのある、岸本直人シェフ。昨年オープンのこちらは、オープンキッチンで一挙手一投足をながめながら、美味に酔いしれるシェフズテーブルなのである。

食材の“旬”にこだわり確立したスタイル

岸本直人シェフといえば、フランスで修業を積み「オストラル」のシェフを務めたのち、「ランベリー」を開いたのが、2006年。ランべリーは“美しくする”という意味のフランス語で、最先端のエステティックサロンと組み、体の中から綺麗になる華やかなフランス料理を提供し、開業時から話題を呼んだ。そして、同じ表参道でラグジュアリーブランドの入るビルの半地下に移転。料理はますます洗練されると同時に、日本の食材を駆使し、器も有田焼のカマチ陶舗のものを中心に使用するなど、日本発信のフレンチに、舵を切った。その後西麻布に移転するも、コロナ禍を機に閉店。

岸本直人シェフ

「新境地を目指し、これまでやりたかったことを形にしようとカウターを選びました。実は、表参道時代から料理教室を続けていまして、“どうしたらこの料理がおいしくなるのか”“家で再現する際のポイントは?”など、人前で教えるのが好きで好評でした。そうしたことを思い出し、今度は、フルオープンキッチンのカウンターで、シェフズテーブルスタイルで本当においしいものをできたてで供したいと思ったのです」という。

その後、日本橋から神田一帯にかけての再開発に力を入れている安田不動産と縁があり、神保町駅から徒歩12分の立地に一から店を作り、オープンした。2021年8月30日のことだった。3階建てのその物件は、江戸小紋をモチーフにした透かし模様が入っていて、夜闇の街に明かりを灯す行燈のようだ。1階がレセプションで2階がダイニング、カウンター8席のみ。18時半一斉スタートで、コースは38,500円の1コースのみ。ランベリー時代より価格帯も上がり、真の美食家へ向けての岸本劇場の始まりだった。

オープンキッチンを囲むカウンター席

こうしたスタイルで営業することに対し、岸本さんが一番に考えたのが、食材の“旬”を提供したいということ。季節性はもちろん、できたての熱々、つまり最もおいしい、その瞬間を味わってほしいということだ。食材も極上のもののみを厳選。だから、100%見渡せる、隠すところのまったくないオープンキッチンで、仕込みから始め、仕上げる瞬間までを見せて供することができるのだ。

「この店になって、常に考えているのが、おいしさの本質をとらえたいということです。毎日、ああやったらもっとおいしくなるのではないか、こうやってみたらどうだろう。そんなことばかりを考えています」と、岸本さんは言う。

料理はかつての、きらびやかな盛り付けは影を潜め、シンプルそのもの。けれどそこには香りがあり温度があり、目の前で調理された過程を見ることによる大きな期待感がある。ストレートに盛られた一皿からは、岸本さんの言う、おいしさの本質が感じられる。そして、一口食べて、まさにそれが本物であることを、誰しも納得するはずだ。

料理のコースは、定番のキャビアの一皿から始まり、冷前菜、温前菜が3皿ほど、魚、肉と続く。そしてデザートはアヴァンデセール、デセール2種の3皿構成。コースは2カ月に一度季節の美味を追って変わる。ここでは、11月のコースの中から4品を紹介しよう。