【おいしいパンのある町へ】

Vol.23 東京・荻窪「えだおね」

高円寺、阿佐ケ谷、吉祥寺など、ディープなグルメタウンを誇る、中央線沿線。なかでも荻窪には、カレーやラーメン、蕎麦といった日本人のソウルフードの名店が多数並び、休日のみならず全国からフーディたちが足繁く通う街だ。

 

そんなグルメ激戦区で食べログのパン屋部門・評価上位に君臨するのが、「パンとcafé えだおね」。都心ながらゆったりとしたイートインスペースを構える店には11時のオープン時から、多くの人が殺到。みるみるうちに棚から姿を消す、“愛されパン”の魅力に迫る。

パン作ることはできませんが、パンを愛する気持ちは誰にも負けません!

今回インタビューに応じてくれたのは、「パンとcafé えだおね」のオーナー、竹内仁さん。大学を卒業後、メガバンク、CCC(TSUTAYA/Tポイント運営企業)勤務を経て、2013年4月に退社。そのおよそ半年後である10月に、念願の店をオープンさせた。となると、パン作りを学んだのは……?

 

「じつは僕、パンが作れないんですよ。同業者の先輩方には、“オーナーがパンを作れないのはリスキーだ”と、何度もアドバイスをいただいているんですけど。素晴らしい職人との出会いに恵まれて、なんとかここまでやってきました(笑)」

「でも、パンを愛する気持ちは誰にも負けません!」とキッパリ断言。そんな竹内さんのパン愛のルーツは、生まれ育った京都の街にある。「これまで様々な街に住んできましたが、なかでも京都は、パン屋も、パン好きの数も、全国トップを争うのではないでしょうか。そんな街で育ったもので、幼い頃からパンが大好物でした」

見て、香って、食べて。パンが生み出す幸せの三重奏は、世界に通ずる

京都で魚屋を営む父親の影響から、就職してからも“いつか自分で商売がしたい”という思いを抱いていたという竹内さん。銀行員時代に駐在していたヨーロッパで、その思いが確信へと変わる。「ロンドンに駐在している間、大好きなパンを求め、10カ国以上を訪れました。そんななかで出会ったベーカリーカフェ文化に、すごく驚きました。今から30年ほど前の日本には、そういったお店がほとんどなかったので」

コーヒーからフルーツジュース、アルコール類まで、ドリンクメニューも充実。

 

「実際に通っていると、なるほどこれは素晴らしいな、と。パンの香りが充満する店内で、焼きたてのパンをその場で食べられる。さらに、食材とパンのマッチングが学べるんですから! 当時、パンはそのまま食べるもの、という意識しかなかったので。パンの種類ごとに、合う食材を変えてサンドしたり、プレートでパンとおかず(総菜)を一緒に食べたりしているのが、とても革新的に映ったんです」

「オリーブ&チーズ」ほか、季節によって新商品が続々と登場する。

“食事のパートナー”としてのパンを提供する店になりたい

そんな経験から、日本でベーカリーカフェを経営したい、という強い思いを抱くように。その後CCCへ転職し、店舗の経営のノウハウを習得。「退職後は自らパン作りを学ぼうと思ったのですが、そうするとかなり時間がかかってしまう。であれば、経営しながらでもいいではないか、と。そんなときに運良く、お気に入りだったベーカーリー出身の職人との出会い。開業にあたりメニュー開発をお願いしました」

店長としてお店を切り盛りするのは、パートナーの齋藤さん。竹内さんがパン屋の経営を決断した際は、驚いて腰を抜かしたとか!

 

作りはせずとも、メニュー開発にも深く携わってきた竹内さん。目指したのは、「おいしいパンを提供するだけでなく、“食事とともにパンを楽しむ”を提案するベーカリーカフェ」だ。「食材との組み合わせが生きるのも、おいしい生地があってこそ。生地において僕がもっとも大切にしているのが、小麦の味をしっかり感じられることと、歯ごたえ、弾力のある食感。使用する小麦は国産主体ですが、合わせる食材によって外国産小麦をブレンドしたり、酵母を変えたりしています」

 

生地作りの次に竹内さんを悩ませたのが、パンと食材とのマッチングを提案する方法。「そこで思いついたのが、“世界のサンドイッチ”シリーズ。『バインミー』や『キューバサンド』、『サバサンド』など、世界各地のサンドイッチには、日本ではまだ知られていない素晴らしいマッチングがたくさんあった。オープン当初はみなさん、とっつきにくかったようですが、今ではうちの看板メニューともいえる人気ぶりです」

 

もちろんサンドイッチ以外にも、食パンから菓子パン、惣菜パンまで、連日およそ50〜60種もの幅広いバリエーションがラインナップ。店長を務めるパートナーの齋藤さんから、とくに人気の高い一押し商品を伺った。

イートイン限定! アツアツで食べたい「バインミーサンド」

世界のサンドイッチシリーズのなかでも最初に完成し、オープン当初から人気No.1に君臨し続ける看板商品。「使用するパンはバゲット。低温発酵で1日寝かせ、中はしっとり、外はパリッと焼き上げています。気泡がたっぷりと入っているので、見た目のボリューム感に反し、軽い食べ応え。女性の方でも、ぺろりと召し上がられます」

 

カフェ勤務を経たスタッフが考案したという秘伝の自家製パテ。大山どりの新鮮なレバーを丁寧に下処理することで、独特の臭みを軽減。レバー嫌いという人からも「これなら食べられる!」と喜ばれるとか。その他の具材は、サニーレタス、グリーンカール、ミント、コリアンダー、大根と人参のなます。スイートチリソースとニョクマムをベースにしたスペシャルソースの絶妙な甘酸っぱさが、クセになること請け合い。ラストはハーブの香りが、爽やかな後味を演出する。(600円)

奇跡の食感が口コミで人気爆発! 偶然の産物「イギリス食パン」

日々4〜5種類が並ぶ食パンのなかでも、「ここでしか食べられない」といち早く売り切れるのがこちら。なんと食パンの開発中、偶然にたどり着いたレシピなのだとか。「様々な比率を試していたときに、たまたま完成したんです。パリッとした皮に、焼きたてでは切れないほどのもっちりとした生地が特徴です」

 

「通常よりも多い水分量は80%。バターなどの乳製品を一切使わず、ヨーグルト酵母とレーズン酵母、生イーストで一晩発酵させています。甘みがなくさっぱりとした味わいで、どんな食材とも相性抜群! ジャムはもちろん、はちみつ&バター、ハムとチーズをのせてトーストするのもおすすめです」(300円)

アールグレイとオレンジのハーモニーが口いっぱいに広がる「アールグレイオランジュショコラ」

カンパーニュの生地をアレンジした、ハード食感の菓子パン。「たっぷりと練り込んだ、アールグレイの芳醇な香りが評判。トップにのせたオレンジピールとともに噛むと、上品なオレンジティーのような味わいに」

 

「ほどよい甘さの秘密は、ホワイトチョコ。自分で言うのもなんですが、ミルキーさと茶葉の苦味によるバランスが素晴らしい(笑)。生地に溶け込んで、しっとりとやわらかな食感を生み出しています」。さっとオーブントースターで焼くと、さらにふっくらとし、おいしさが割り増し! (250円)

2色の食パンがポイント。とろふわ「オムレツサンド」

竹内さんが京都で食した忘れられないたまごサンドウィッチをイメージし、とろふわオムレツをたっぷりとサンド。異なる食感の食パンを1枚ずつ掛け合わせたのには、生地の風味を大切にする竹内さんの思い入れが。「白い食パンは、ベーシックな『えだおね食パン』。甘みが強くやわらかいので、バランスを整えるために、もう一枚は小麦の風味が強い『シリアル食パン』に。ふわっとしたサンドに、シリアルのサクッとした食感をアクセントにしています」

 

オムレツは、塩、牛乳、バターのみで、シンプルな味付けに。テイクアウトしても痛まないギリギリのとろふわ状態まで、絶妙な火加減で調理。ケチャップの酸味が効いたオーロラソースとやさしい味わいのオムレツを食べた途端、どこか懐かしさがこみ上げる。(350円)

 

※価格はすべて、2019年3月20日のものとなります

竹内さんに聞く、荻窪エリアの一押しグルメ

「食べることが何よりも好き!」と、笑顔で語る様子が印象的だった竹内さん。世界中の絶品料理を食べ歩いてきた“ミスター・グルメ”を唸らせる、荻窪の名店をご紹介。

仕事終わりの一杯は、チカラ強い味付けが魅力の「カプスーラ」で

「女性シェフが営む、こぢんまりとしたイタリアンレストラン。『パンとcafé えだおね』の開店後まもなくしてオープンしたので、勝手に、同級生のような親近感を覚えています。チカラ強い味付けが、仕事終わりの一杯によく合うんです。必ず頼むのは、前菜の盛り合わせ。日替わりの前菜は、レバーペースト、キッシュ、イワシのマリネなど、6〜7種類をアソート。どれを食べても、ハズレなしのおいしさ!」

関西人も大満足! 老舗のお好み焼き屋「とうりゃんせ」

「関西人ですので、お好み焼きには、ほどほどにうるさい(笑)。東京ではなかなかいいお好み焼き屋がなくて残念でしたが、ついに出会えました! 今ではお好み焼きといったら、何も悩まずにここへ。大阪風、もんじゃ焼きもにありますが、やっぱり大阪風のお好み焼きが僕好み。キノコ炒めや肉炒めでスタートし、豚玉と焼きそばで締めるのが定番」

 

撮影:山田英博

取材・文:中西彩乃